とある生徒会と梅雨
「「あー…ヒマ!」」
外のじめじめした薄暗さとは無縁の空調完備された一室で、机にだらける姿まで見事にシンクロした双子は堪らないとばかりに叫んだ。
「ならば仕事は終わったのですね?」
「その机の上にある白いものは何だろーねぇ?」
こっちはこっちで息があった返しをするのは普段から仕事を真面目にする副会長と、珍しく仕事が終わっているから調子に乗っている会計だ。
勿論、会計の言う"机の上にある白いもの"とは書類であり、察しが付く通り未整理のものである。
「「これは忙しいの内に入りませんー」」
「寧ろ遊びに忙しいの方が可笑しいわ」
「ん」
会長からも呆れた突っ込みが入り、書記も頷く。
これが小さな子供か仕事とは無縁の人物ならば未だしも、忙殺必至の生徒会に属する以上"暇"とは縁遠い日々なのであった。
寧ろ学校行事の便乗ならばともあれ、普段から生徒会内だけでのイベントだ何だもかなりの頻度でやらかす双子達だ。
それでも役員として今ここにいる以上、なんだかんだ言って遊びと仕事を両立するスペックを持ち合わせているのである。
だから普段から真面目に仕事をしていれば。
締め切りの当日に焦ってやる必要も、会長や副会長がサインや提出を足止めされる理由も無くなるのだが。
「遊び不足ー」
「動けないー」
連日雨でアウトドア派の真価を発揮出来てない双子は、完全に燃焼不良でダウンしているのだった。
「こんな時くらいは大人しく仕事をしてくれると良いのですがね…」
「むり…毎年、こう」
「…それもそうでしたね」
ちょっと夢を見た副会長と現実を突き付ける書記。
彼等も彼等で幾ら外とは遮断された快適な室内でも、絶えず響く雨音や大窓から見える灰色の景色に気は滅入りつつあった。
「よし!この際雨だろうと外に駆けに…」
「何で寄りにもよってそんな選択してんだバ会計。頭沸いたか?」
「ちょっと」
室内遊びでもなければ遊びと言って良いのかも疑わしい提案を掲げ出した会計を会長は一刀両断する。
今の双子なら外にさえ出られればそんな無謀な提案でも飲んでしまいそうな状態なのだ。しかも自分達を巻き込んで。拒否の言葉に力も入ると言うもの。
「んー…」
書記は一人、いつもの自席に座って唸っている。
アウトドア派でもなければ彼等の抑制役でもないインドア派は大人しく液晶画面──スマホとにらめっこだ。
「あー!ズルい!」
「僕達も遊びたい!」
画面は見えないまでも、状況からして仕事じゃないこと───遊んでいる事はわかる。となれば双子から羨望の目で見つめられるのも致し方のないことだろう。
「ダメ…ちゃんと、仕事…」
「そうですよ。書記は仕事を終えているから咎められないのです」
「「ブー」」
お母さん…基、副会長からのお叱りに膨れる双子。
「ちゃん、と…やれば、良いこと、ある…」
ね?とお兄ちゃん…基、書記からの励ましも入る。
飴と鞭がこの二人で見事に両立している瞬間だ。
「ところで書記、お前何やってんだ?」
「ゲームのイメージ無いなぁ。癒し系?まさかのアクション…にしては手の動きが穏やかかぁ」
仕事が終わっていて暇な会長と会計は自重なくいそいそと気になる画面の中身を見に行く。
それを書記が止めることはないので両側からスマホにしては大きめの画面を覗き込めば、書記も見易いようにそちらへ傾ける。
「「あ。あー」」
その結果、二人は双子宜しくハモることになったのだった。
「お前等、仕事はちゃんとした方が良いぞ。じゃないと絶対後悔する」
「いやぁ…ホント書記はいい子だねぇ」
哀れむような目で双子を見詰める会長と、書記の頭を撫でる会計。その発言の脈絡は不明で、双子は首を傾げるしかない。
タイミング的にスマホ画面に答えがあるだろうことは分かっても、副会長がそんな双子を野放しにする筈もない。
「副会長だって気になるでしょー?」
「見に行こうよー」
「寧ろ私は貴殿方のツケ(残業)が私達に回ってくる方が気掛かりなもので。」
バッサリ切り捨てる副会長。
「でもまぁ、そうですね…書記、良ければこっちに画面を向けてくださいませんか。貴方のスマホならこの距離でも何を表示しているか確認できるでしょう」
「ん」
それでもこのままじゃ仕事は捗らないと察したのであろう。双子の各々の肩を確り押さえた副会長が書記にお願いする。
「日取りはいつでしょう」
画面を見た副会長の第一声はこうだった。
「明後日。チケット、六枚…ゲト」
親指を立てる書記。
そう。書記がやっていたのはゲームではなく、丁度晴れ予報の上に生徒会の仕事が片付く貴重な一日に行われる近隣の"紫陽花祭り"の入場チケットの確保だった。
しかもここ、休んでよし遊んでよしの結構広い公園が完備されている。
「「おお!」」
双子が目を輝かせるのは言うまでもない。
「しかし残念ですね…折角六枚取っていただいたのに、二枚余ってしまいそうです」
「ん…」
喜びで立ち上がりそうな双子の肩に置く手に力を込めながら、徐にため息を吐く副会長。それに書記も便乗する。
「なになに?副会長行かないのー?」
「行けないの?もったいなーい。休みで」
「外出で」
「会長がいて」
「皆で遊べるのにー」
副会長達の反応を"勘違い"した双子が口々にその重要性を述べる。
述べれば述べるほど、会計の表情が明日は我が身の如く泣きそうになっていく。
「…マイナス二枚はお前等の事だ莫迦共」
「ん。これ、仕事のご褒美。してない、行けない」
「「え゙」」
察しの悪さに頭を痛める会長からキツい現実が突き付けられ、誰も否定しないことでやっと事態を理解した双子がその後本気を出してどうにか残りの仕事が次の日の午後には完了したのだった。
end
(ライバルが減らなくて残念ですね)
(そんなこと言ってぇ。二人が間に合って安心してるくせにぃ)
(ん)
(素直じゃないな)
(…会長後で覚えていなさい)
(なぜ俺だけ!?)
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