for youなんて言えない

今日は日曜日。
当然学校も休み。
普段なら家でだらだらしてるところ。

ただし、今日の日曜日はただの日曜日ではない。

「い…いつもウマイ弁当有難う。
起こしに来てくれんのガキ扱いすんなよとは思うけど助かってる。
俺が買った喧嘩に助っ人に入ってくれるのもイラネーとか言いつつ実はヤバイこと多いし、
そん時取れたボタン付け直してもらうのなんて一回や二回じゃないし、
体育着忘れた時貸してくれんのは身長差実感して複雑だけどお陰でバスケ出れたし、
それに…」
「ちょっと待てっ!」

折角休みの日曜日。
明日になれば逢えるこいつに態々会いに来て、何度も練習した普段言わないような感謝を述べようとしているのに。
こいつは綺麗に染められた金髪を片手で掻き回しながら強面を赤面させて、不良らしからぬ動揺を見せた。

「誰が待つかっ!これ言うのどんだけ恥ずかしいと思ってんだよ、とっとと言わせろ!次はないぞ!」
「取り敢えず家入れって!真っ昼間の玄関先で感謝羅列される俺の羞恥も考えろ!一応ここはこの界隈で恐れられる不良ん家だぞ!?」
「何が恐れられる不良だ、お前なんか喧嘩がバカ強で悪人面なだけじゃねーか!」
「ご近所さんが震え上がるには充分なんだよ!」

兎に角入れ!と俺の感謝を中断して自分家に押し込み、両親不在のリビングで自分のコーヒーと俺のソーダとクッキーを用意して対面に座った辺りでやっとこいつは一息着いた。

遠回しに見ていたご近所さん達が俺の発言を聞いていたかは定かではない。定かではないが、注目はしていた。
その場合、テンパる一般男子高校生が厳しい面持ちの不良に家へ引きずり込まれる様はどう写ったのか。

少なくともこんなもてなしを受けてるなんて想像はしてない気がする。

「…で、いきなりのアレはなんだ、その…いつも有難う的な…あの…」

完全に照れている不良がもじもじしながらコーヒーを飲むのか飲まないのかカップを弄っては歯切れ悪く俺に問い掛けて来る。

「べっ、別に日頃の感謝とかそんなんじゃねーから!」
「じゃあなんだよ!?」
「知らねーよっ!」
「そこは知ってろよ!」

カップを持つだけで一向に飲む気配のないこいつとは対称に、俺は俺用に常備されているソーダの注がれたグラスを一気に飲み干す。
と、すかさずグラスがソーダで満たされる。

「そーゆーとこだよ!」
「どーゆーとこだよ!?」

俺が指を指すと今しがた注いだソーダのペットボトルにキャップを閉めながらこいつは意味がわからないと噛み付いてきた。

「このオカンが!過保護!良妻!」
「それは褒めてるのか!?貶しているのか!?」
「母の日に貶す奴があるかバカ!」
「何で俺が母の日に褒めらるんだよ!?」

冷蔵庫にペットボトルをしまい、クッキーを補充したら着席する実のオカンより気の利き過ぎるオカンを睨んでクッキーを貪る俺。
服に落ちる食べかすを気にする前にもう少し不良らしくしたらどうだ、そしたら俺も五月の第二日曜日に態々出向かないわ!

「兎に角これ受け取りやがれ!」
「だから何で俺がカーネーション貰うんだよ!?綺麗だけど!」

ピンクとオレンジで彩られた二本だけの花束を押し付けると、案の定そそくさ花瓶を持ち出して来たこいつ。

「造花だから水は要らねーぞ!枯れねーから!変わらねーから!」
「だから何が言いたいんだよ!?」
「んなこと花言葉でも調べろバカ!」

また明日!と捨て台詞を残して逃げる俺はきっと律儀に花言葉を調べて、それでもっていつも通り朝迎えに来るあいつに明日どんな顔して会えばいいんだ。


end

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