とある生徒会のイースター

「本日は日曜日にも拘わらず皆様参加くださり誠に有難うございます」
「たくさん集まったな。ま、俺等が企画したんだ。当然だよな」

仄かに春の暖かさを纏う快晴の下、広大な敷地を持つ学園の校庭はほぼ全校生徒と言える人数の生徒達で溢れ帰っていた。

生徒会副会長の進行や会長のアドリブの度に親衛隊を始めとしたチワワ系生徒からは拡張機でも使ったような黄色い声が飛び交っている。
それでも役員の次の発言までには彼等の声援が終息するのだから、かなり統率がとれているようだ。

「さぁ皆、準備はいいかなぁ?」

参加者を端から端まで見渡した会計が不適に笑う。

「卵の中身は交換してもいいけど、脅しや暴力は即退場だよー」
「風紀の皆さんが目を光らせているからねー」

双子が軽い口調で釘を刺す。

「では皆様、準備はいいですね?」
「「「オォォォォォッ!」」」
「ほれではエッグハント……開始!」
「ん!」

パァン!

「「「ワァァァァァッ!」」」

書記の鳴らしたピストルの合図を皮切りに、我先にと生徒達は駆け出したのだった。


──エッグハント。

それは飾り付けられた卵を探すイースターに行われる催し。

休日だろうと寮生活のこの学園では容易に街に下りることもままならない生徒達に刺激をと、今回生徒会が企画したイベントだった。

生徒会が鮮やかに彩られた卵型のケースに色んな景品を詰め、それを風紀が隠す。仕込みは万全だ。

中身はお菓子をメインに、食券や授業免除と言ったアタリ、更には生徒会役員にお願いできるレア券まで用意されている。
勿論これらは不良から親衛隊まで参加させるための餌として敢えて入れているのだが。

数が少ない分、探すのは容易ではないだろう。

「で?」
「なんですか?」

人気のなくなった見晴らしのいい校庭で、会長が不機嫌そうに他の役員を見やる。

代表して副会長が応えるが、皆して会長の頭上を見ながらにやにやが止まらない。

「もう外して良いか?」
「イベントが終わるまでは駄目です」
「可愛いんだから良いじゃん」
「「そーそー」」
「ん。似合…う、」
「俺はてめぇ等と違って羞恥心があんだよ」

吼える会長の頭上には他の役員同様、兎耳のカチューシャが鎮座していた。

イースターを盾に丸め込まれて今まで装着していたのだ。

「…こんな物さっさと外してぇ」
「と言いつつちゃんと着けてくれちゃうんだから」
「優しいよねー」
「サービス精神だねー」
「今も…外して、ない」
「っ!」

不遜な物言いの割りに律儀な質を弄られる会長。
親衛隊がいたならそのサービス精神でもう少し俺様キャラを発揮していたかもしれないが、彼等は今レアな卵を探して奔走中だ。

「さて、私達も行きますか」
「あ?…あぁ、そうだな」

彼等のじゃれあいに割って入った副会長の言葉に、もう開始から10分も経とうとしている事に気付いた面々が頷く。

今回卵を隠したのは普段から警備の関係で学園を巡回する風紀だ。
そして役員達は公平を期す為自分のお願いできる券を隠す場所こそ自ら決めたが、実際に隠しに行ったのは他の卵同様風紀。

つまり、生徒会も自分のレア卵以外は何処に卵が隠されているのか知らないのだ。

そこで、待っているだけではつまらないからと、自分達も時間差でエッグハントに参加することに決めていたのだった。

「折角だからぁ、卵を一番多く見つけた人が勝ちってどぉよ?」
「良いですね。では商品はどうしましょう?」
「寧ろ一番少ない人が罰ゲーム!ってどうよ!」
「罰ゲームは最下位以外にお願いされちゃうで決まりでしょ!」
「負けると5つの願いを叶える…だと?良いだろう、受けて立つ!」
「グッ…ド!」

ハント中の生徒にも負けない闘志を燃やす立案者達。

「では…開始しましょう!」
「「「おう!」」」


………
…………

夕方、大きないさかいもなくイベントも大成功に終わり解散して生徒会室に戻った役員達。

各々の数を発表した結果、案の定と言うべきか、会長が一番少ない事が判明した。

「危な、かった…」

会長より見付けた卵が二個程多かった書記が漏らす。

「一般参加者の皆さんが粗方獲ったと思っていたのですが…やはりゲーム慣れの差ですかね」
「エヘヘェ」

書記よりは見付けた数が多かった副会長が感心する視線の先には、全参加者を含んでも上位に入りそうな数を発見した会計。
その両手には一杯に卵が抱えられている。

「て言うかぁ、バラけて探したのに見付けた数が同じな庶務ズがスゴい。寧ろコワイ」
「双子パワーだね!」
「不思議パワーだね!」

双子は会計からは数を離されているものの、同率二位だ。

「さぁて、会長にはナニをきいてもらいましょぉ」
「ふふ、あまり無理なことはいけませんよ?」
「ん。」
「…」

自分が見付けた卵を見つめながら黙る会長を余所に、会計達は愉しげに話している。
と、

「そう言えば、偽申請はあったけど結局本物のレア卵発見者はまだ来てないねー」
「まだ確認してないのかなー?」
「私のは結構難しいところに隠ししましたから、誰も見付けなかったかもしれません」
「オレ…も、」
「やっぱりレアだからねー。ついつい難易度高くもしちゃうよぉ」
「「だよねー」」

まぁ風紀から未発見の卵の回収が済んだらじきに連絡も来るだろうし、そしたら分かるさ。と役員達が結論付け、改めて会長の罰ゲームを考え始めた頃。

「…おい」

ずっと黙っていた会長が藪から棒に口を開いた。

「罰ゲームは無しだ」
「え?」
「いきなり何を、」

突然の事に狼狽える役員達。
生徒の前であれば会長の身勝手とも言える俺様発言は理解も出来るが、普段の会長はと言えば、約束を反故にするタチではなかったはず。

「くくく…これを見ろ!」
「「「!!」」」

不敵な笑みを浮かべ、自分の見付けた"五個"の卵を開いて見せた会長。

その中には先の話題に上がった"本物のお願いできる券"が。

「か、会長…」
「貴方…」
「どうだ、これでお前達全員分の罰ゲームを無かった事にしてやる!」

バーンと胸を張る会長。
数は少ないがそのレアリティは計り知れない。

「会長…貴方、それだけレア卵を見付けておきながら一つも他の卵を見付けられなかったのですか…」

副会長からの哀れみを込めた言葉が投げ掛けられる。

「罰ゲーム無くなったのは確かに悔しいけどぉ、お願いが何か聞く前に使っちゃうとか勿体無くない?」

会計からの冷静な突っ込みも入る。

「ゔ…」

まさかのレア卵全獲りに調子に乗った会長は彼等の指摘により簡単にぐうの音も出なくなってしまった。

「じゃあ後は会長のレア卵の所在だけかー」
「僕達の誰も見付けてないとかー悔しいー」
「この分だと案外会長のレア卵は誰も見付けてないかもねぇ」

こんこん、がちゃ、

「失礼する。風紀だ、イースターに使用した卵の内、未発見だった分の回収が終わった」

そこに丁度現れたのは、箱に会計が見付けたよりも少ない数の卵を詰めて運んだ来た風紀委員長だった。

「手間かけたな」
「学園が活性化するならば、協力は惜しまない」
「そうか。ならばまた駆り出すとしよう」

卵を受けとる会長が委員長と二、三言葉を交わす。

「あぁ。次は俺も仕事をしよう」
「?仕事大好き人間の委員長が直々にサボったのか?」
「否、副からたまには休めと無理やりイースターの仕事を外されてな。そうだ、それで俺も一般参加として参加していたんだ」

確か二、三個見付けた筈だ、と委員長がポケットを漁ると、確かに三個の卵が出て来た。

「中身は…あ。」
「どうし…あ、」

参加したと言うものの卵の中身に興味が無さそうな委員長が卵を開けると、二つは飴とクッキーが入っており、最後の中身は"会長にお願いできる券"だった。

その瞬間、役員達の悲鳴が生徒会室に木霊した。


end

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