デザートは食前で。
「はよー」
「おー」
慣れた口調で挨拶を交わす不良こと俺と、不良にとって天敵の親玉のような存在である風紀の委員長。
しかも場所は不良がしょっぴかれたくない場所ナンバーワンの風紀室である。
だからと言って勘違いしないで欲しい。俺は別に連行され慣れて呼び出しに自ら出向く事に抵抗が無くなった訳ではない。
これは不良要素とは全く関係の無い訪問である。一応。
「お前、次の頭髪検査で引っ掛かるぞー」
「見逃して」
「その日は髪色戻してこい」
「うわ、メンド」
不定期で開催する検査予定日を漏洩して貰ってるだけ良しとしろ。と目の前の委員長様は宣う。
まぁ、面子もあるしな。表立って俺だけ贔屓はヤバいだろ。
と、分かっちゃいるが風紀を相手にそう物分かりが良い子ちゃんするつもりはない。
「そんな上から目線で良いのか?…"コレ"、やらないぞ」
「まだ頭髪検査の日付を聞いていないのにそんなこと言って良いのか?」
「げっ…」
策に溺れるとはこの事か…!孔明の罠がこんなところに!
「どうした?」
にやにやシタリ顔で腕を組む委員長。コレが様になっているのがまた憎らしい。
イケメン爆ぜろ!
「…」
よーし、ここは男らしくガツンと言ってやる場面だ。
臆するな俺!
「教えてくださいお願いします」
………
俺がガツンと言ってやった時に突き出した紙箱の中身を満足気に頬張る委員長。
俺は俺で検査日を聞き出せたので今回も無事乗りきれそうで満足です。
何より俺の渾身の一品"チョコレートケーキ"をこうも旨そうに食われては製作者冥利に尽きると言うもの。
「旨いか?」
「愚問だな」
何故か作った俺より食ってるこいつの方が自信満々なことすら許せてしまう今の俺寛大。
そりゃそうだろう。
チョコレートケーキを最大限活かすためにパッケージまで拘ったのだ。
だから包装された状態でパシャリ、その後ケーキ自体をパシャリ。
何処の女子だよ状態で無言でスマホをケーキに向ける委員長に気を良くしない分けがない。
何も言っていないのにパッケージまで撮ったんだぞ!?
分かっているじゃないかこの野郎。
そう、俺が天敵の巣窟にせっせと足を運ぶ理由。
それこそこのケーキである。
正確にはお菓子全般。
俺の趣味は菓子作りだが如何せんそれを知るダチはいない。似合わないことは重々承知なのでバラす気もない。俺の硬派なイメージが崩れるからな。
だがしかし、作って捨てる気もないから昼食代わりに持って来ていた菓子をある日こいつに見つかったのだ。
俺の内心「ゲッ」である。
隠れて甘い物を昼食代わりに貪ってる不良なんてカッコ悪いだろう!?
が、こいつの視界に写ったのは菓子を食べる俺ではなく、菓子オンリーだった。
「お前、旨そうなもん食ってンじゃねぇか。よこせ」
第一声がコレである。
不良もビックリの恐喝である。
これだからなんでも我儘が通ると思ってるイケメン様は。
普段の状況ならば食って掛かるところだが、俺の引っ掛かりは俺様発言の一ヶ所に集約されていた。
「旨そうな…だと?」
"旨そう"じゃなくて"旨い"んだよ!とか叫ばなかった俺エライ。
「何処の店でも見たことねぇぞ。俺の食ったこと無い甘味を食ってるとは良い度胸じゃねえか」
「既製品と間違えるとは良い度胸してんじゃねぇか。俺が作って不味い分けねぇだろ」
売り言葉に買い言葉と言うか、褒められて嬉しくなったと言うか。
そんなこんなで俺は菓子作りが趣味とバレ、こいつは俺の菓子に味を占め今に至るのだった。
………
「なぁ、ところでさ」
ワンホール抱えて幸せそうな甘党に声をかける。
至福の時間を邪魔して悪いが、このケーキを作りながら俺はずっと気になっていたことがあるのだ。
「今日、ホワイトデイだよな?」
「そうだな」
「バレンタインも俺、チョコ菓子渡したよな?」
「だからお前は三倍返しの原理でバレンタインよりでかいケーキを持ってきたんだろう」
「あれ?」
当たり前のように委員長は俺の疑問に答えるが、なにか引っ掛かる。
バレンタインにチョコを渡す、まではいい。
ホワイトデイは更にアップグレードしたチョコを渡す日だっただろうか?
「見返りはないのか」
あげる側はあげっぱなしとは。何て無情なイベントだ。
「食って貰って嬉しくないのか?」
「いや、嬉しいけどさ」
何か違くない?
「んじゃ頭髪検査の日程バラしたろ」
「世の中の見返りがそーゆーんじゃないことは流石の俺でも分かるぞ」
学園の一大イベントの見返りがソレって。もう定期検査にしちまえよって話じゃないか。
態々委員長から聞き出す俺の頑張りってなに。
「しゃあねぇな。俺くれてやるから喜べ」
「返却で」
ホールケーキを前にフォーク片手にどや顔する委員長様を即時返却する俺。
最早反射。
ケーキやって天敵返されるとかなにソレ、恩を仇で返される感じ。
「貰って損はねぇぞ?引っ張り凧の人気筋をお前に斡旋してやるんだからな」
尚も食い下がる委員長を見ながら、頬っぺたケーキで膨らませてる委員長様とかこいつ大好きなチワワ生徒達は知らないんだろうなーとか思ってみる。
知ったら人気筋から転落…しなそうだな。うん。こいつみたいな人生勝ち組はギャップだなんだと言って更に人気をものにしそうだ。
解せん。
「良いのか?お前の菓子を俺ほど愛して止まない奴はいねーぞ?最近は料理にも興味あんだろ?俺も一緒に食ってやるっつってんだ、夕飯時の度に俺が職権濫用する前に大人しく合鍵寄越しな」
「ハッ、食うからには不味いとか言うんじゃねぇぞ」
「当たり前だろうが。てめぇが作った料理が不味いわけ無いだろ」
何となく出会った時の恐喝デジャブ。
それはつまり、売り言葉に買い言葉と言うか、褒められて嬉しくなったと言うわけだ。
「今日の食後のデザートはプリンにしろよ」
「ふざけてんじゃねーぞ、今日はババロア仕込んであんだ。プリン食いたきゃ明日来いこの野郎」
「おーおー、明日も明後日も行ってやろうじゃねぇか」
そう遠くない未来、朝食も食いに来る委員長が気付けば俺の部屋に泊まり込み昼食用の弁当まで持っていく事になるのだが、その頃になると何故か俺と委員長が付き合ってる何てデマが流れて俺は首を捻ることになるのだった。
end
(てめぇ、にやつきながらシュー食ってねぇで噂の原因に察しが付いてンなら教えやがれ)
(明日弁当にプリン付けるなら考えといてやる。でもマジで気付かないとか…ククッ)
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