神様のいるところ

現在冬休み。もっと言うなら大晦日。
…と言っても学校もロクに行ってない俺からすりゃ、いつもと何が違うってこともない。

相変わらずの寒い日。それだけ。

俺は一応高校生で、ただ所謂不良ってやつだ。
喧嘩して、適当にパクった金で飯食って、寝る。で、一日。
良くも悪くも日々の代わり映えなんか無い。
街中に出れば多少、一般人の往来が増えて喧嘩相手が減ってはいるが。

親は一応いる。正直居ない方が良いくらいの絵に描いたようなクズが。
顔を合わせれば罵声か手しか上がらないが、ここ半年は運良く家に帰っても鉢合わせしていない。
借金取りに追われて夜逃げしている可能性も無くはないが、どうせギャンブルか愛人か。実際家を開けている理由なんてそんなところだろう。

家に帰って寝る気はない。

友人はいない。

そもそも人間なんか嫌いだ。

つまり泊めてもらうなんて言語道断。
女が誘って来ても御免被る。

「…」

で、辿り着いたのがこの廃神社。
駅や住宅地から離れていて、つまり集客が見込めないから何も立たない辺鄙な場所に取り残された建物。

人がいなく、雨風凌げる屋根がある。最高。
ここを見つけて以来、世話になっている。

「…」

今日も勝手にすっからかんの本堂に入り適当に持ち込んだコートやらマフラーやらで暖を取りながら外を眺めていると、遠くからゴーン…ゴーン…と音がした。

嗚呼もうそんな時間か。ともっと街寄りに出来たデカイ神社から聞こえて来ている鐘の音を聞きながらコートのポケットを漁る。

ゴミと一緒に何枚かの小銭が出て来たのを確認し、俺は徐に立ち上がった。

初詣、と言う程真面目なもんでもないが、外に出ると目的の五円玉とポケットにしまい直すのが面倒になった他数枚を賽銭箱に纏めて放り込む。
案の定箱の中には他に何も入ってませんとばかりの乾いた音が響いたのを尻目に、二回手を叩いて普段から世話になってる礼だけは述べる。

俺が嫌いなのはあくまでも人間であり、他の動物は寧ろ好きなくらいだ。
人間じゃない以上、神様ってやつも別に嫌う理由はない。

存在を信じてるわけじゃないが、居るなら居るで猫だ鳥だが集まって来て触れ合える楽園に勝手に居座っているにも関わらず追い出さない神様には感謝の一つしてもバチは当たらないだろう。

「───っと、寒」

一通り感謝を言い終えて我に返ると寒さが身に染みた。

急ぎ足で賽銭箱から離れて本堂の鍵の壊れた戸を開ける。

「ほら、温めてやる。さっさと来い」
「…は?」

───閉めた。戸を。

知らない男が胡座かいて座っていて何故か両手を広げて俺を待ち構えていた様に見えたが気のせいだろう。

「すー、はー…」

冷たい空気を肺に入れて吐き出して頭がクリアであることを確認して。
で、もう一回戸を開ける。

「何してんだ?寒いだろ、さっさと入れって」
「うわっ!」

今度はさっき座っていた筈の男が戸を開けた目の前で待ち構えていた。

腕を引かれてそいつの胸へダイブする。

あったかー、と和みかけるのは一瞬でそれより幻覚の一種じゃないことに安堵するべきか愕然とすべきかを悩む俺の思考。

冷静なようで全くそうでもない頭で取り敢えず警戒はしている。

「マジで冷えてんじゃないか。体調崩したらどうする、俺が付きっきりで看病できるじゃないか」
「離せ変態」

言動からして怪しい不審者の腕から逃れようともがく俺たが、しかし喧嘩で鍛えた俺の筋力をものともせず男がぶつくさ言いながら俺を抱き締める絵は変わらない。

「たく、俺に話すために態々寒空に出るなんて可愛い奴め」
「なんの話だ不法侵入者」
「イヤ、不法侵入は寧ろお前に当たるだろう」
「ぐ…っ」

不審者から冷静な指摘を受けてしまった。

「俺はお前を訴える気はないけどなー。寧ろウェルカムだ!」

にしてもこの口ぶり。それに和装。

「お前、ここの神主かなんか?」

神主っつーには派手な装いな気はするが、まぁ正月だし。

「む?神主などこの神社にはとうに居ないさ。俺はなぁ───神様だ」
「嘘吐け。離れろ。」

どやっ。とキメ顔で言い放った自称神様は確かにイケメン過ぎて後光も見えそうな勢いでオーラが有るが。

んな者いるわけないだろう。

「ほら、この額の宝玉が目に入らんか」
「え、マジで埋まってんの?」
「マジだ。だから押すな、痛いからっ…!」

証拠だと前髪を上げて曝された額には鮮やかに煌めく赤い石が埋まっていた。
これが神様である証なのかなんなのかは分からないが、後付け感もないし確かに人間ではなさそうだ。

確認…と言うには意味不明な「石を押す」と言う行動を選択したら神様は案の定痛がったもんだから、俺を抱いていた腕が弛んだのを良しとして自称…と言うか本物らしき神様から距離をとる。

「ひどいな…さっきまであんなに可愛く"神様有難う(はぁと)"って言っていたのに」
「何だはぁとって。キモい。つかマジで考えたら届くのか、伝達の正確性には難がありそうだが」
「勿論届くとも。まぁ呼ばれずとも俺はいつもお前を見ていたからな。と言うか普段から心の内を聞きまくっている」
「盗聴犯か」

神様ともなれば人知を越えた力がある上で法が通じないのも当然のこと。
…つまりは最悪のストーカーじゃねぇか。

「そのお陰で留守の家にコートを取りに行ったり、ベストタイミングで猫が寄ってきたり、気密性も空調設備もない本堂で凍えずに眠れるのだ。固いこと言うな」
「え、最近運が良いなーとは思ったけどあれってお前の力なわけ?」

思い当たる節が多々あり少し驚いて返してしまう。
偶々にしても、特に親と半年も鉢合わせしないのは奇跡だったのは確かだ。

「おうよ!俺がこの神社の神に命じ色々手配させたんだ!」
「自分で動いたわけじゃないのかよ!」
「俺はお前を見守る必要があったからな!」

まさかの口だけ発言に上がった好感度がまた下がった。

つーか。

「え、この神社の神って何。お前じゃないの?」
「フッ。俺は煩い秘書から逃れるため半年前にここに目を付けただけだ。俺が祀られてこんな廃れさせる分けないだろう」

ほらあっちにいるのがここの神だ。とナチュラルに接触してきた神様に促されるまま振り向けば、外には割烹着を着た眼鏡の冴えないおっさんが朗らかに笑って手を振って来ていた。
神様とは違い、どう頑張っても神様には見えない。

「あれは上に立つには向いていないが、駒使いにはぴったりだ。本人も家政夫生活に満足しているようだしな」
「…へー…」

神様にも色々居るんだな。と無理矢理納得して頷く。
人は良さそうだが、どんなに額に石が煌めいていても神様だと言われても納得できない庶民感を醸し出しているのだ。

「さ、あれはほっといて」
「外に放置か」
「平気だ。折角お前とこうして触れ合えるのだ、邪魔者は要らなかろう」
「触れ合うな」

よいではないか、よいではないか。とどっかの悪代官宜しく神様が近付いて来る。俺はそれからじりじりと離れる。
誰かとこんなに馴れ合ったことが無い俺だったが、このじゃれ相が案外悪くないと思い始めた頃。

神様、と呼ぶのに違和感を感じ名前を聞けば俺でも分かるようなメジャーな名前が飛び出し、俺は改めて嘘だと叫ぶことになったのだった。


end
(よし、少し本気を出してやろう)
(なんだ?)
(ここを本格的に俺とお前の新居にするのだ。こんなショボいままではいかんだろう)
(は?)

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