さるとり物語

鶏は三歩歩くとさっきの事をもう忘れているそうだ。

「で、なんだっけ?」
「だーかーらー!」

繁華街に向かう道中、けろっと聞いて来るのは来年の干支を任されている酉。
で、オレは僭越ながら今年を担っちゃっている申。

因みにオレら、付き合ってます。イェイ。

「クリスマスの買い物っ!ツリーと飾りを今回は買いに来ているの!」

流石に三歩ではないが、出掛けに確認した今日の目的を聞くのも充分忘れっぽい内に入るんじゃないだろうか。

「クリスマスのってのは覚えてるよー。そうそう、ツリーか。ツリーね。楽しみだなぁ」
「…」

クリスマスツリーなんてインパクトある買い物を寧ろどうしたら忘れられるのか訊きたい。
だがしかし。酉は本気で今ちょっと違う話題で盛り上がっている内に忘れているのだから目も当てられない。

「折角オマエとの初クリスマスだからツリー新調しようと思ってんのに。キョーミ無いなら買わないよ?」
「ゴメン!欲しい!キラキラ星てっぺん飾りたい!」

星より先に眼をキラキラさせてオレの手をしかと握る酉。
現金な奴だと他の奴に言われたら文句の一つも言うところだが、追い撃ちで「今は申との会話が楽しかったからさぁ」なんて可愛い恋人に言われてしまえば、許してしまうのも気仕方がないと言うものだ。

にしてもアホの代名詞にまでされている猿(オレ)が世話役に回るのは、付き合いが広大なオレと言えど、コイツくらいなんだから恐ろしい。
なのに会う奴に片っ端から酉がオレを世話していると思われるのは解せぬ。ボーッとし手いるだけでクールと履き違えられるとかどんな役得だ。

「申ー早く行こー」
「あーはいはい」
「手ぇ繋ご。ポケット貸して」
「あーはいはい……冷っ!」

ツリーを思い出し、今度は思考がツリー一色になった酉が目的のデパートへいそいそし出した。
ついでに冷えた事を思い出したのかオレをカイロ扱いして来る。

子供体温のオレと違って、酉は冷え易いと分かっていて、そしてオレで暖を取ると分かっていて構えていたのに声を上げてしまった。
人で温もっている酉の顔が普段通り無表情…に見えて、ニヤ付いているのをオレは見逃さないっ!

それに気付くのもオレくらいだ、とか思って酉のイタズラにいい気になるオレも大概だな



…甘い。甘過ぎる。こう片っ端から酉の行動を許していたらオレはいつか心臓麻痺で死ぬかも知れない。
甘やかすのも限度を弁えないと…

「早く行こー。あ、俺は忘れる自信あるから言っとくけど、餅も買わないと無いよー」
「クリスマスになんつー和風なモンを買い求めようとしてんだ」
「えー、お正月も申ん家で迎えるしょ。初詣以外は申と家でぬくぬくするし。あ、年越しそばも買おう」
「初耳ですけど!?」
「そだっけ?お節も要るね」

いいでしょー?と既に新年の食べ物を指折り数える酉を前にオレは。

「勿論。でもまずクリスマスの準備な」
「あ、そうだった。なんだっけ、そうそうツリーね。楽しみだなー!」
「うんうん。オレも楽しみだよ」

超甘い。

「俺は忘れっぽいけど、申の事だけは忘れないから問題なしっ!ね!」
「…そうだな」

これは治りそうもないな。


end

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