未知は忘れた頃にやって来る

そいつには三回遭遇したことがある。

一回目は三歳の時。
俺の思い出せる限り、最古の記憶だろう。
俺もそいつも着物を着ていて、近所の神社に来ていたんだと思う。
流石に記憶の中の情景は不確かで、唯一鮮明に覚えているのは、そいつが俺にとって初めて出逢う金髪に蒼眼の所謂"外人の子供"だった事か。

二回目は五歳の時。
当然俺もそいつも少し成長していたが、向こうは兎も角俺は直ぐにそいつに気が付いた。
相変わらずの金髪蒼眼だったから、二年前の記憶がフラッシュバックして来たとも言う。

三回目は七歳の時。
ここまで来ると今回もそいつを見掛けるんじゃないかと、この時期限定のレアキャラみたいな認識で期待していた。
三歳の時、未知との遭遇に警戒して終わって以降、話し掛けたこともない相手。
意気揚々と恒例の神社に行くと、果たしてそいつは表れた。
例にもよって洋風な顔立ちに和風な出で立ちのそいつは直ぐに目につき、そして今更ながらにそいつの顔を意図して直視した。

結果、俺は親に声を掛けられるまで暫く見惚れてしまった。

俺のその反応を親は外人が珍しかったのだろうと結論付けていて、何故そんな淡泊な反応で済ませられるんだと寧ろ俺は驚いたくらいだ。
きっと当時の俺からしたらお参りに行った先で神様に遭遇したような衝撃だったのだろう。

そんなレアキャラと出逢えたのも七歳が最後。
俺が神社に行っていたのは親の意向で七五三を行っていたからだ。
それはそいつも同じ事だったのだろう。
近所の神社だから学校帰りなんかには気紛れに立ち寄ってみたりもしたが、レアキャラはレアキャラ。そんな簡単に出逢える筈もなかった。
そもそも住んでいる地区が違うのか、目立つ容姿の筈が学校で見掛けるなんて事すら無かった分けで。

扨。
幾らそいつが珍しかろうと所詮は子供の頃の話。
町中で外人が目新しくなくなった分けではなくとも、まぁ一々衝撃を受ける程でもない。

俺には人間観察よりも目下刺激的な楽しみがあるのだから。

「オリャアッ」

薄暗い路地裏で掛け声に合わせて拳を繰り出す。
見事、相手の鳩尾にクリーンヒット。
相手は膝から崩れ落ちて戦闘不能になる。

そう。
俺は何の因果か金髪に染めて、ついでに青のカラコンを入れたなんちゃって外人、基、そこそこ名の知れた不良生活を絶賛謳歌中である。
レアキャラ捜しよりも身の程知らずな有象無象を仲間とつるんで絞める方が優先事項だ。

「ラストォッ」
「ぅぐ…っ」

最後の一人を沈めて仲間を見回す。

「お疲れー」
「負傷者いるー?」
「楽勝だべ。こんなん相手に怪我とか、」
「俺に文句あるか」
「センセー、負傷者が威張ってますー」

空き缶を踏んで足を痛めたと供述するドジも含めて全員無事だった俺達は戦闘モードから一転、死屍累々の現状には似つかわしくない軽口モードへと早々に切り替わった。

「この後どうするよ」
「マック行く?」
「その後ゲーセン?」
「その前にもうひと暴れしたいな」
「黙れ負傷者」
「残念。不良の皆さんはこの後、反省室行きです」
「「「「!?」」」」

俺らの会話に突如加わる謎の声。
全員が硬直し、それからぎりぎりと軋んだ人形みたいな動きで首をそっちに向ける。

「やぁ」

全員がそいつの正体を察した瞬間。
良い笑顔でそいつは手を挙げた。

その瞬間、脱兎が如く皆が逃げた。

何を隠そうこのお方こそ不良の天敵、風紀委員長、その人である。
一番近くにいた不憫な俺は子猫の首をひっ捕む様にあっさりと捕獲され、蜘蛛の子を散らして逃げる仲間入りは出来なかった。

「あーぁ。皆逃げちゃった。」

全く意に介していない感じで委員長がぼやく。

「まぁ良いか。当初のターゲットの君を捕獲できた分けだし」
「はい…?」

委員長の手から逃れ様と必死に藻掻く俺の耳に不穏な単語が届く。
仲間内でリーダーでも最強でも悪質でもない俺が何故に当初からのターゲットになっているんですかね。

「こんにちは。ずっと君と話したかったんだ」
「お、俺は委員長様と、話したい事などありませぬが…?」
「学校は兎も角、神社以外で会うのは初めましてだね。それに袴じゃないのも」
「はい?」

すっごい浮かれた声で話す委員長とガクブルな俺の温度差は、委員長の意味深な言葉によって埋められていく。

「気付かない?まぁ目立つのも絡まれるのも面倒だから髪は染めたし、カラコンも入れてるんだけどさ」

黒髪黒目の流暢な日本語を話す委員長様が何か宣っている。

ほら証拠。とあっさり蒼眼を曝したそいつの言葉はもう耳には届かない。
レアキャラに四度目の再会を果たした俺は、神様に遭遇したくらいの衝撃を受けているのだから。


end

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