Halloweenの訪問者
ピンポーン
「はいはい、どちらさ…ま…」
俺は、アパート住まいの独り暮らしだ。
通販や仕送りこそ来ないが男だし、セールスも宗教もあしらい慣れている。
だから不用意に玄関を開けてしまった。
今日が何の日かなんか気にも、否。気にしたところで予想まではしていなかっただろうから。
「トリックオアトリート!」
我が家にジャックオランタンが訪問してくるなんて。
「…………」
玄関先で目の前のジャックオランタンをガン見して立ち尽くす俺。
返答待ちなのか両手を広げウェルカム体勢でユラユラ楽しげに揺れながら待機するジャックオランタン。
体は動かないので走馬灯張りに頭だけをフル回転させ、何故ここにジャックオランタン?と考えるに辺り幾つかのヒントをかき集めるに。
今日はハロウィンだ。
俺の頭と常識がイカレていなければ、ジャックオランタンの正体は人間だ。
俺の知る限りこの地域に菓子をねだりに仮装した奴等が各家を回る行事はない。
つーか、コイツ大人だよな?
若くとも高校生以下は無いだろう。つまり子供にしたって菓子を求めて練り歩く歳じゃない。
そして最後に。
俺の知り合いにこんなサプライズをするお調子者はいない。
つまり。
「退散するか通報されるか選べ。」
「不審者扱い!?」
ガーンと口で言ってムンクの叫びみたいなポーズを取るジャックオランタンが「酷い」嘆く。
不審者に退散という選択が有るだけ寛大だと思ってもらいたい。
これ以上ジャックオランタンに玄関先に居座られては、一生分ジャックオランタンと言ったあげくご近所さんに変な噂がたってしまう。
「退散するからトリックかトリートだけ選んで…」
「強情だな不審者。」
涙目になっていそうな声色で近付いてくるジャックオランタンに気圧され後退ってしまう俺。
丸くくり貫かれた目の間抜け顔相手なだけに何か負けた気分で芳しくない…と同時に面倒臭いジャックオランタンに絡まれたな、チェーンかけておくんだった。と言う後悔。
チェーンをかけたらかけたで隙間からカボチャ頭が覗いていそうで、寧ろその方が怖いような気もするが。
「トリックオアトリート!イタズラされるかアナタくれるか好きな方を選んでください!!」
「お菓子は何処行った!?」
ジャックオランタンが再度放ったハロウィンの決まり文句は日本語訳が間違っていた。
アナタくれるってなんだ貴方って!
テメー男だろ!?
魔女のネーチャンが言っていたなら間違えたと訂正される前に速攻でトリートを選んでいそうな選択肢だが泣き付くジャックオランタンじゃどうしよもない。
つかそうなるとイタズラも嫌な予感のするニュアンスだ。
「どけっ変質者!通報する!あーくそっ、何で携帯リビングに置いてきたかな…!」
「待ってくださいぃぃぃぃっ!貴方さえ連れ帰れば満足しますぅぅぅぅっ」
「なに飴玉一個で勘弁してやる並みに気軽に言ってくれてんだっ」
マジ化け物的な目標を掲げ出したジャックオランタンをいよいよ本気で引き剥がしにかかる俺。
力強ぇーよ。ホールド頑丈過ぎる。
「トリックかトリートかは家で聞きますね!ほら、ご近所迷惑でしょうし!」
「誰のせいだ、誰の!助けてくれー!誰かー!」
恥も外聞も無い叫びも虚しく俺は見る見るジャックオランタンに家から引き摺り出され連れ去られた。
「マジあり得ねぇ…」
行き着いたのは頭イカレた説が濃厚になるだけの魔界。
帰り道が分からないどころかジャックオランタンから離れたら他の化け物に涎を垂らされる恐ろしー世界で、俺は吊り橋効果の威力を知らしめられた。
end
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