花束を君に

友人の結婚式に招かれた。
そいつの相手は大学時代から付き合っている女性だ。

俺も同じ大学で、大体三人でツルんでいたからよく知っている。

二人とも、特に旦那になる方は高校からの付き合いで友人の中でも親しい奴だったから、勿論行くと即答した。

と言っても勢いで承諾したからその後仕事の調整やら礼服一式を押入れの奥から掘り出すやら何かと大変な目に遭ったが。

そんなこんなのお陰で馬子にも衣装、更に久々の美容院にも行ったから少なくとも友人達に恥は掻かせないぜ!くらいの仕上がりで式の頭から参加する事が叶ったのだった。

初めて結婚式に行ったのはガキの頃。
多分親戚の結婚だったのだと思う。

料理が大人向けの味付けであんま趣味じゃないと思ったくらいの記憶しかない。

と言うことで結婚式へは初参加の面持ちである。



重そうなウェディングドレス来て朗らかに笑う新婦様…貴女に緊張て言葉はないんですか。
隣の旦那と貴女の親父さんはガチガチですよ。

女桀一族ですね分かります。大学時代からそうだった。

そんな男性陣に憐れみの目を向ける余裕もなく俺は更にガチガチです。

「…」

もう誰が何言ってるかも耳に入らない。

隣の席に座っていた青年に肩を叩かれ初めて俺のスピーチの番だと気付いたくらいだ。

俺が壇上に上がってからマイクが初めて収音したのは、お辞儀の時のゴンッて音だった気はするが、額の痛みとの関連性は不明である。

兎に角、頭が真っ白だから禁止ワードにだけ気を付けて二人の事を話す。

ほぼアドリブと化した俺のスピーチに旦那は笑い奥さんは相変わらず微笑んでいる。

他の客人は…キャベツだジャガイモだニンジンだ。
見分けなんてつくか、生優しい視線なんて知らない。

「……最後に二人共、本当におめでとう」

二人へのお祝いの言葉で締め括り席へ戻る。

壇上から降りる時コケかけた…事はない。踏み留まったんだから。

スピーチ文を考える時に最後は祝いの言葉を述べないと一生スピーチすることになるぞ、と半ば脅してくれた奴有難う。

多分俺がこうなること分かっていて忘れない様に念押してくれたんだな。
まさかプレッシャーをかけてた………わけじゃないよな?

「お疲れ様です」
「あ、ありがとう」

ちょっと迂回して(決して迷子ではない)自席に戻ると、奥さん並みの朗らかな笑みで先の青年が水を差し出してくれた。
飲み干した。

スゴいな彼は。
高校生か大学生、何にせよ俺より年下だろうにシャッキリしてる。

素直に羨ましいぞ。

席に着きふと顔を上げれば新郎のニヤケ顔と目があった。

美人な奥さんでニヤケるなら分かる。
だから俺の方を見て笑うな。

くそぅ…奥さんには頭が上がらないからって俺で遊ぶなよ…!
まぁ今回は俺が勝手に道化してるだけだけど!

「…」

何故か新婚の二人の最初の話題が今日の俺で有ることを察した。

外見だけ取り繕っても駄目ね。
中身がコレじゃあね。

ケーキだろうとマグロだろうと勝手に入刀すれば良い!

食事は何食べたか忘れたけど美味しかったです!



…と。
緊張で頭がパーンてしていて気が付いたら外にいた。

教会を背に新郎新婦が立っている。

俺の隣には席の時と同じく青年が居たから、俺は多分彼に誘導してもらった。筈。

んで、これから何が始まるかと言えば。

ブーケトスだそうです。
それから缶をカラカラさせながら車で何処かへ旅立つようです。

さっきまでいたの教会じゃないよね?結婚式ってこんな順序なの?

と思ったがこの際殆ど何も覚えていない俺に指摘出来るものはない。

彼等はフリーダム!

「おー…、お?」

教会前の新婦が真っ白なブーケを投げる。
繊細なのに投げるなんて暴挙でもばらけない造り、ブーケってスゴいね。

とか考えていたら目の前が一瞬暗くなり、すぽん。と咄嗟に構えた手に収まった何か。

花束。

ブーケ。

さっき見たの。

ブーケトスで俺がキャッチ。…てことでオッケー?

「………」

新婦新婦の顔が笑ってる。
取れて良かったね、じゃなくて狙い通り、て目で。

ブーケ待ちの女性からの視線が痛いです。
独身ですか?俺もです。結婚願望はないけど。

独身女性の壁を越え態々俺にまで届くように投げた新婦様の腕力とコントロール能力に乾杯。

「あー…とさ、あげる。」

でも貰っても困ったので隣の青年に押し付けた。

今日色々お世話になったお礼です。
他意はないよ?
女性陣は誰に渡しても怖そうだったとかないから。

「…いいんですか?有難う御座います」

結婚とか考えるにはまだ早いかなーとか男が花貰っても困るだけかなーとか思ったが、杞憂なようだ。
よかったよかった。

「結婚か…頑張らないと」
「君、恋人いるの?」
「いいえ、好きな人はいるんですけどね」
「へぇ、どんな人?」
「その人の論文を読んだのがその人を知った切っ掛けなんです。大学もそれで決めて…そしたらその人、姉の友人だったんですよね」

運命的でしょう?と笑う彼はそれはもう幸せそうだ。

「俺より年上だし真面目で固い大人…てイメージだったんですけど目が離せない人で、気にかけている内にだんだん」
「ふむふむ」

庇護欲が愛情に変わったと言うことだろうか。

「家にも何度か遊びに来てるんですよ?その時少しだけ世間話はした事があるんですけどね…あ、これです」

論文の方にまで触れて話せてはいないんだと苦笑する彼に、スマホで初めて読んだ論文を見せてもらった。

「ふーん、あ、この内容見覚えあるある。同じ研究を俺もやってるよー。そうだ、その人との話題作りにちょっと俺と話さない?」

そこら辺の喫茶で、と新婦新婦が米の雨を浴びているのを総無視して彼と話す。

「見覚え…?あ、はい是非!」

カラカラと主役たちが遠退き、俺も彼を引き摺るように足早に会場を出ていく。

研究の話を聞いてもらう相手が丁度欲しかったのだと手頃な相手に舌舐め擦りしながら。

その後ろで当人の論文なのに見覚え?と彼が首を捻っている事には気付かない。

姉が今日結婚式だったとか普段の彼は眼鏡や前髪で大分印象が違うとか。

喫茶店でその辺を彼が根気良く説明しても、恋ばなより研究に気が行っている俺が今日中に彼の好きな人の正体に気が付かないことだけは確かだ。

頑張れ青年!



end

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