さるの法則

「なーなーコレどうよ!?似合ってね!?」

俺にはこいつに対する"さるの法則"がある。

「なーってばー」

見ざる言わざる着飾るだ。

「聞いてんのかよー」
「聞いてる聞いてる」

適当にあしらってはいるが、聞かざるではないので一応聞いてはいる。
ただ着飾るこいつに対し、俺は見ないし応えないだけだ。










そもそも、俺が何故こんな対応をするのか。

単純明快、ウザいからだ。

少々ナルシストの気が有るのか新しい服を卸す度にやたら自信をもって色んな人に見せて回っては褒めてもらいたがるこいつ。

実に羨ましい話ではあるが、実際似合っているしその上顔も良いから男友達は勿論女の子達もこいつを褒める。

そしてクラスのみんなお友達、を地で行くこいつの"お友達"枠に俺は組み込まれてしまっていた。
しかもチヤホヤされ慣れているこいつをつい適当にあしらってしまった俺は、見事押して駄目なら引いてみろを実現してしまい特別視されるようになってしまったのだ。

元より誰に対しても口数少なく接してきた俺だ。
良くてクール悪くて冷たいと言う言語が違うだけで印象は変わっているものの、結局のところ一貫した評価を貰っているのでこいつをスルーした態度を周りが大層気にかけることは無かったが、当人は謎のやる気を発症してしまった。

そして反応の悪い俺をあっと言わせる為、事ある毎に色んな格好を見せ付けてくれるようになった。

普段着だけじゃなく趣向を凝らし、ゆるふわなのからハードでロックなものまで。

チラッと見えるこいつの格好は確かにどれも似合うから恐れ入る。
………流石に誰を蝋人形にしたいのか問いたくなるデーモン感溢れる化粧?仮装?には素で反応できなかったが。

そこまでされるとこちらも"負けられない"と言う謎の根性を発揮し、意地でも反応したくなくなってしまうものなのだ。

少なくとも俺はそう言う奴だ。





「なぁ、」
「…」
「初詣、一緒に行かね?」
「は?」

今回も服を見ろ!と言った関連の話だと思ってスルーを決め込んでいた俺は予想外の誘いについ声を出してしまった。

「……俺は大人数での行動は苦手だ」
「あ、いや、みんなで行くんじゃなくてさ」
「?」

クラス全員を誘う一環から俺にも声を掛けたと思ったのだが…違うようだ。

しかし何故そんな歯切れが悪いんだ。

「〇〇神社って隣町に有るだろ?二人で行こう」
「は?」

デジャヴの様な反応をまた返す。
ここら辺の奴は旅行か里帰りでもない限りそこに行く、と言われる程そこそこ近所にそこそこ大きい神社が有るのに…と、思ったがどうやら声の潜め具合といい他の奴にはこの誘いを聞かれたくないようだ。

「年明け一番にお前をあっと言わせてやりたいんだよ」
「……」

ひそひそと言って来るがつまりは結局いつもの延長線と言うことか。

しかも友人に知られたくないような格好で俺に挑む、と。

「…これで駄目ならもう付きまとわないから!」
「…………いいよ」
「マジか!?よっし今に見てろ!」
「……」

付きまとわない…と言うよりそこまで言う格好がどんなものなのか気になった俺は、特に予定が有るわけでも無かったから誘いに頷いた。

それを受けて俄然やる気が上がったのか、とても初詣の誘いとは思えない言葉を残しこいつは友人等の輪に戻っていった。









「…………」
「明けましておめでとう御座います!」
「………おめでとう御座います」

初詣当日。人も疎らでやっと日が明けて来た頃。
俺等はこいつの希望により神社前のバス停で落ち合った。

で。

「………」
「どうよ。流石俺、何でも似合うわ。だろ?」
「…」

自信満々で腰に手を宛て胸を張るこいつは間違う事なきこいつである。

否だがしかし。

…確かに着物で来ることは予期していた。

でもまさか女装とは。
華やかな着物にウィッグだろう長い髪。
元を知っているからこそ化粧は案外薄いと分かる。
だがどこからどう見ても女と化している。

これは一見しても誰も男とは気が付かないだろう。
寧ろ美女として見惚れられそうだ。

「似合うっしょ」
「…」
「ちょっ、どうなんだよっ」

当初こいつと知らず目が釘付けになった俺だ。似合って無いとは嘘でも言えない。
呆気に取られ放心している俺をいつものスルーだと思ったのかこいつはずいっと近付いて聞いてくる。

自信が有っても恥ずかしさが無いわけではないらしく、頬っぺたがチークではなく紅潮しているのが分かった。

そんなこいつを見て女装していない時に恥ずかしがっている顔を見たいと思ってしまったのは秘密だ。

「あ、うん。似合ってる。凄く」
「よっしゃ!」

変な意地の張り合いに白旗を挙げた俺はつい褒め言葉を漏らしてしまった。

次いで余分なことまで言いそうになったので慌てて手で口を塞ぐと、こいつは今褒めた事に対して口を抑えたと思ったようで凄くご満悦の笑みを浮かべた。

「気分も良いし早速お参り行くかー!おっ、なんか俺等恋人っぽくね!?こんな美女が彼女とか嬉しくね!?あー俺も恋人欲しいわー神頼みはそれにすっか」
「……」

安心したからか饒舌になったこいつに腕を引き摺られ境内へ向かう俺。

なんと言うかこの神社に来てから分かったことなのだが。
男二人で来るには厳しいと思っていたのだが。

浮かれたこいつは知らないらしい。
カップルに人気のその理由。

もう着飾るこいつから目を離す事はできないだろうし、褒めるだけじゃ飽き足らず余分な事まで言ってしまいそうだから。

縁結び、ご利益あるといいな。



end

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