プレゼントは突然に
俺と言えば特筆するような特徴のない至極一般の人間だ。
顔は崩れちゃいないが、だからと言って誰しもが振り向くイケメンではない。
制服は人並みに気崩しているから、真面目君な分けでもない。
見知らぬ人に道を聞かれればわかる範囲で教えるし、同級生が喧嘩していれば見て見ぬふりをして通り過ぎる。
部活も目標も無いから毎日口癖みたいにつまらないと呟きはするが、実際問題友人とゲーセンに寄る程度の刺激があれば充分だった。
その友人にニヤニヤ笑顔で彼女出来ました発言された時には裏切り者と叫んで嘆いたが。
確かに恋人は欲しかった。
欲しかったが。
だからと言って幾ら美人だろうが性格良かろうが
男はお呼びじゃない。
クリスマスも終わり頃の事。
イルミネーションを観に行くカップルを後目に俺は住宅街の人気無い道を歩いていた。
以前ならば共に過ごすぼっち仲間が今年は彼女とクリスマスを過ごすお陰で、本気でぼっちとなった俺は一人寂しくカップラーメンとアイスの買い出しに出ていたのだ。
そして、
「うわっ!?」
脚を踏み外してしまった。
おかしな話だ。道は真っ直ぐに舗装されていた筈なのだから踏み外すような場所は無い。
しかし地面が無くなり、現に俺は"下"に落ちていた。
マンホールの蓋でも開いていたのだろうか、と思ったがこれだけ思考を巡らせているのに一向に地面に行き着かないのだから不思議だ。
走馬灯ならば一瞬と感じても良いのかも知れないが、そんな危機的状況に出会ったことはないから比べ様がないし"これ"も違うと祈りたい。
じゃあ今落ちている状況はなんなんだ。と振り出しに戻った辺りで突如この謎の落下は終わりを迎えた。
幸いにも地面に激突ジ・エンドなんてスプラッタな生命の終わりは迎えていない。
何やら柔らかいクッションの様なものの中に着地したらしい。
見渡しても真っ暗で、混乱の中ふいに見上げるとか細い光が差して見えた。
それが遠いから小さく見える穴、という感じではなくて頑張れば届きそうなものだから、クッションに埋もれた体を捩って一心不乱にその穴に手を伸ばした。
穴に届きそう───と、ことさら伸ばした手は残念ながら空を掻く。
不意に穴が拡がったからだ。
代わりに穴の外から伸びて来た手に腕を捕まれ、一気に引っ張り上げられた。
「!?」
勢い余った体は明るい穴の外に飛び出したが、またも地面にぶつかる事はなかった。
今度は俺を引き上げた手の主が下敷きになっていたからだ。
相手も同じく勢い余って背中から倒れた様だったが、腕が俺の背中に回っている辺りちゃんと庇ってくれる気は有ったらしい。
「大丈夫か?」
いくら助けてもらったと言っても男と抱き合う趣味はない。
なので相手の腕を引き剥がしつつ尋ねれば、眉をしかめた後瞼が持ち上がり蒼い瞳が此方を捉えた。
それからこれでもかと言うくらい目を見開いて、また抱き締められた。
「やった!愛してる!俺と付き合って!」
「!?」
分けの分からない事態に分けの分からない告白を受けた俺は、気が付けば鳥肌と共に目の前の男を殴って今度こそ引き剥がしていた。
それがこいつとの出会い。
俺が出て来たそれは所謂サンタの担いでいる袋と言うやつだった。
大きいとは言え子供達に配り歩くには小さそうなその袋の中はプレゼントが詰まっていたのではなく、サンタが子供にプレゼントする物をその都度何処からか袋の中に喚び出すと言う仕組みらしい。
そんなサンタの存在を信じなくなって久しい十数年越しの驚愕の事実も霞む、追い撃ちを俺は次々こいつから聞かされた。
なんで俺が好きだなんて言うのかと思えば、偶々道に迷って尋ねた相手が俺だったから。
困り果てていたこいつはその優しさに好感を持ち、その後こっちに来る度に俺を眺めては想いを募らせていったのだと言う。
俺は軽いストーカーに遇っていたらしい。
そしてまんまと"サンタ本人へのプレゼント"として喚び出された俺は、クリスマス時期にのみ開くと言う俺のいた世界とサンタの世界を繋ぐ道が既に閉ざされたと言う理由で、俺に惚れたと言う金髪蒼眼で自称サンタのイケメンの家に居候を余儀なくされた。
結果勿論の様に日々アプローチされまくる事になる。
初めは嫌々、威嚇しまくりで過ごしていた俺だが異世界での生活に慣れだし、更に相手の人となりを知れば訳も変わってくる。
飯は旨いし気立ても良い。
無理矢理喚び出した自覚が有るからか俺の変化に敏感で気遣ってくれたし、それでなくとも根から優しい。
だけれどアプローチとなるとちょっと強引で、女の子なら即落ちそうなくらい自分の魅せ方も巧い。
幾ら美人だろうが性格良かろうが
男はお呼びじゃない。
つもりだったけど。
「仕事?」
「うん。南半球。真夏だからサーフィン出来るよ?」
「…」
「俺が教えてあげるー」
「じゃあ行く」
平々凡々ではなくなった生活もこいつが相手なら悪くない。
end
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