橋を掛ける

昔々、僕は鵲(かささぎ)だった。
しかもただの鵲じゃない。
織姫と彦星を再会させる為に橋渡しをした鵲だ。









「うーん…」

そして僕は今、人間である。
いち男子高校生。
で、"前世"が僕は鳥の鵲だった。

星に囲まれた夜空で彦星に会えない悲しみで泣いていた織姫が可哀想で、僕は二人を再び会わせた。
嬉しそうに笑う二人に僕も嬉しかった。

そんな人の幸せに自分の幸せを見出だしちゃったらあら吃驚。
僕の方は恋もせず独身のまま一生を終えちゃったわけだ。

否勿論、それで二人を恨むとかお門違いなことはしない。
けど死んでみると未練はあるもので。

正確に言うならば憧れ、かもしれない。

二人みたいに愛し合える相手を僕も欲しかったな、って思ったわけだ。

扨、そんな僕が今悩んでいるのはその"愛し合える相手"としてのターゲットがいるからだ。
つまり僕は片思い中。

相手は僕が庶務として遣える会長様。

可愛いと言われてしまう僕とは全くタイプが違う。
高身長でちょっと俺様、だけど個々をよく見ていて的確な指示と労いの言葉を掛けてくださる。
それに書類整理の徹夜明けに生徒会室のデスクで居眠りしちゃってる顔は整ってるけど可愛いって表現がぴったり。
だから朝一で生徒会室に来て毛布を掛けたら皆が来るギリギリまで会長様の顔を眺めてるのが僕の趣味。

一人占めしたいから皆が来る前に起こすけど。

来て直ぐ起こしていると思っている会長様に寝顔眺めてるって、あまつさえ食べちゃいたいって思ってますって言ったら怒られるだろうな。

寧ろ本気にされないかな?
チャラ男系の会計様じゃあるまいし、ましてや僕の容姿的には抱かれたい親衛隊達と同じ部類だし。

第一僕達の間にプライベートな会話は存在してない。
見守るだけでいる事がデフォルトなのは、鵲の頃からの僕の悪い癖。

「うーん」

そもそもアピール方法も分からないんだよな。
道端の小石集めてプレゼントしても莫迦にしてるだけだし、それが宝石になったからって会長様が興味あるとは思えない。
と言うか例え興味が有ったとしても家の財力考えたら僕が贈れるものなんて会長様からしたらそれこそ小石と大差無いんじゃないかな?
………それは言い過ぎか。

後は…ダンスや歌?…なんて、運痴で音痴がやったらただの嫌がらせだし……。

僕が織姫と彦星を知ったのは織姫が泣いていた時。
つまるところ夫婦に既になっていたからどうやって進展したのかは知らないから参考にできない。

「……」

困った。

風紀まで書類を届けた帰り道、僕は悩み続けていた。

「あれ?昔鳥(ふるとり)ちゃん今帰り?」

僕が前方不注意で歩いていると休憩なのか会計様と副会長様が現れた。
声を掛けてくださったのは会計様。

「俺等も丁度生徒会室戻るところよ」

長い髪を銜えていたゴムで束ね直して仕事モードに入る副会長様も口を開く。

「そうですよ」

僕は肯定してからあ、と二人を見て思い出した。
この二人、学園内では有名なカップルだ。

「…突然なんですが、お二人は何が切っ掛けで付き合いだしたんですか?」

不躾かと思いながらも聞いてみる。

「俺が襲ったんですよ」
「イエス襲われました」

真顔で親指を立てる副会長様と、良い笑顔に涙を流しながら同じく親指を立てる会計様。

「そうですか。成る程」

襲えば良いのか。

「ちょっ、昔鳥ちゃん!?良い子は真似しちゃダメな方法だからね!?」

真面目に納得顔の僕に何かを察した会計様が咄嗟に止めた。
え?ダメなの?

「相手は会長っしょ?んじゃ大丈夫よイケるイケる」

対して副会長様はゴーサイン。
どっちを宛にすれば良いか分からない。

「シキ!無責任な事言わないの!」
「無責任とは失礼な。女の感がイケると告げているよ」
「いつから俺の彼氏は女の子になったの!?」
「なんかすいません」
「「無問題」」

二人が攻防を始めちゃったので謝ると、二人は口を揃えて問題ないと言った。
良いな、仲良しカップル。

「と言うかヒコも知ってるっしょ?ミッちゃん前世から鵲愛してるって」
「それ愛でてただけでしょう?昔鳥ちゃん、リアル鳥だったんだから」

………ん?

「ヒコ鈍い。アレはラブだったよ」
「それじゃ帝の恋愛対象がヤバ過ぎるよ」
「愛は性別も種族も越える。俺等がそうじゃないの」
「俺等は性別しか越えてません!」

会計様がおちょくられまくっているけど、今はそれより気になることが…。

「お二人…何で…」

何で前世の事を。

「ん?気付いてなかったの?」

二人がキョトンとして僕を見る。

「外見あんま変わってなくない?」
「あ、鳥って顔じゃ人の判別つかないのか」
「??」

僕がはてなを浮かべていると互いが互いを指差して、

「シキは織姫」
「ヒコは彦星」
「「んで、帝(ミッちゃん)は帝様」」

僕は吃驚した。
うん。驚き過ぎで逆に反応が出来ない。

「…地球って狭いですね」
「宇宙に比べたらね」

何とか発した台詞は悟ったような会計様にあっさり返された。

「まぁなんだ。俺の事を助けてくれた鵲に、遅めの恩返しって所かしらね」
「俺"達"の、ね」

二人が手を差し伸べてくれたから、僕は二人の手をとる。

「人間の求愛方法を御指南の程、宜しく御願い致します!」

この日僕は、取り敢えずやっとスタートラインに立てたのだろう。

次に織姫の涙を見る時はきっと悲しみではなく、僕と会長様を祝福する嬉し涙であろうと願う。


end

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