君の隣は譲らない

三年間過ごした中学を僕らは今日、卒業した。

式は案外あっさり終わって涙ぐむ人も多々見掛ける中、僕らは校庭に集まっていた。

在校生の花道を通って、その流れで解散…とは名ばかりの最後の交流中なのだ。

とは言っても帰宅部の僕は在校生に大した思い入れはなく、友達はまぁ、居なくはないけど態々中学生の終わりだからと別れを惜しむ奴等でも有るまい。

さっさと帰ってしまっても良いのだけれど、僕には待ち人が居るもので。

家もお隣の所謂幼馴染み、と言うやつだ。

そんな彼は只今在校生の輪の中にいる。

日陰者の僕とは正反対で、帰宅部ながらなにかと運動部のヘルプに入っていた彼は人との繋がりが多い。

まぁいま集っているのは全部女子なんだけれど。

顔良し、頭良し、運動神経良し。
イコール女子からのウケも良し。

なんとも自慢の幼馴染みだ。

「センパぁい、高校行っても顔見せてくださいよぅ」
「私先輩にまた会いたいですぅ」
「今度センパイの高校行っても良いですかぁ?」

とすり寄る女子たち。

「ゴメンね、俺行く高校男子校だから女の子は入れないんだ。それに全寮で外出は難しくって」

慣れた口調でやんわりかわす彼。

「えーそうなんですかぁ?」
「そういえばあのネク…センパイの幼馴染みさんも同じ高校なんですよねぇ」
「いつも一緒とか先輩優し〜」
「良いなぁ〜。先輩の幼馴染み、私がなりたかったー」
「……仲が良いからね。凄く」

僕をネクラと言いかけた後輩はどうやら陰口叩く相手の名前も覚えていないようで。
まぁ僕は良いけど。

でも彼女達の大好きな先輩は頬をひくつかせている。

「ねね、先輩の第2ボタンくださぁい」
「あ!ズルい私が欲しかったのにぃ」
「良いよ、あげる」

自分の第2ボタンを躊躇いもなく千切る幼馴染み。

「ボタンくらい幾らでもあげる。卒業したし、もう会わないだろうからね」

ボタンを欲しいと言った女子にそれを渡すと幼馴染みはじゃあそろそろ、と話を打ち切りその場を離れた。

遠目からも充分に苛立っている幼馴染みが目視できるのだが、笑顔だからか彼女たちは気づかない様子。

多分卒業しちゃったら会う機会なくなっちゃうよねー、的な軽い考えしかないんだろう。

「ゴメン、待ったよね」
「別に。見てて面白かったし」

僕の元に来た幼馴染みの中から苛立ちが消えた。
と言うか彼女達が消えた。

「なんであんな物が欲しいかね。お前以外なら何だってくれてやるっての」

帰り道を歩きながら幼馴染みが心底不思議そうに呟く。

「じゃあコレは要らない?」
「要る!」

幼馴染みの疑問に応える代わりに僕は自分の第2ボタンを指差した。

そしたらあら不思議。
こんな物呼ばわりした物に彼は飛び付いた。

「あ…じゃあお前も俺の第2欲しかった?」

ボタンを握りながらふと我に返って聞いて来る幼馴染み。

「別に僕の物を欲しがるのは君くらいだからあげるだけ」

ここで頷いたら彼女達から奪ってでも取り返しそうな彼に首を振る。

「ボタンひとつくらい欲しがる彼女達に譲るよ」

肩を組んで幼馴染みに囁く。

「でも君の隣は譲らない」


end

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