ハロウィンがありまして

「パンプキンケーキを作ろうよ!」

それはこんな会計の一言から始まった。






既にハロウィンの日に調理実習室の使用権を得た状態で発案して来た会計。

彼曰く、ハロウィン用にカップケーキを作ろう。と言うのだ。
誘われたメンバーは言わずもがな生徒会役員だ。

つまり副会長に書記、それから会長の俺も含まれている。

正直何故俺まで。と思った。

親衛隊が来ようがハロウィン定番の文句を言われたところでトリックもトリートも選ぶ気はない。

ならば菓子を用意する必要は無い。

「いやいやいや。かいちょー」

何を言っているんだと呆れた表情で小馬鹿にしてくる会計に若干殺意が沸く。

「僕は愛しのわんわんにあげるために作るんだよぉ?」

にこにこ笑う会計が言う"わんわん"とは確か正体不明の会計の恋人だった筈。

会計はそいつに渡す。
そして俺にも同様の相手に渡せと………

「ちょっ待て、飛翠に渡せって言う気か!?」
「そーだよぉ」
「なっ…」

なんと無茶を言うんだこいつは。
飛翠が料理を出来る事は知った上で、そんな相手にド素人の作った食べ物を渡せと言うのか。

「ようは気持ちの問題ですよ」
「…ん」
「じゃ、当日は仕事が終わり次第レッツクッキング!」
「おい!」

まだやるとは言ってないと言うのに会計達が話をまとめてその日は終わってしまった。










で。

ハロウィン当日。
つまりカップケーキ作りの日。

ハロウィンで浮かれ立っている生徒達の為に警備強化が数日前から成されているから飛翠はまだ風紀の委員長として仕事中だ。

そんな中、遂に先日飛翠と恋仲となってしまった俺は浮かれ立っている生徒の一人だ。

書類を風紀に届けた時に仕事はこれで終わりだから先に自室(と言いつつ実際は飛翠の部屋だが)に帰る、と言い調理実習室に向かった。

別に何て事はない。忙しくしている飛翠への労いに甘いものを差し入れするだけだ。

別に褒めて貰いたいとか頭撫でて貰いたいとか喜んで貰いたいわけではない。

…………いや違う。差し入れなんだから喜んで貰うのは良いんだ。うん。



ピ、と電子音をたてて扉を開く。
ここは包丁や火気があるから一般生徒のカードキーでは空かなくなっている。

勿論、生徒会や風紀といった例外は有るが使うならば許可は必須だ。

中に入ると、生徒会室で最後に別れた三人が揃って待っていた。
俺が来ることを確信していたようだ。

「準備は出来てるよ」
「食材まで調達してくれていますから始めましょうか」
「ん。エプ、ロン」
「お、おぉ…サンキュ、!?」

書記の言葉と共に会計が、あなたが着けたいのはこの黒いエプロン?それともこの白いエプロン?と聞いて来たので間髪入れず黒いエプロンをふんだくった。

誰がそんなフリフリしたエプロンなんか選ぶか。







「まずはこの白い粉を───」
「小麦粉を変な言い方しないで下さい」
「ごめんごめん。見た目で言った方が分かるかと思って」
「小麦粉くらい分かる。これだろ」
「会長、それはグラニュー糖です」

「む。ふるいにかけたら粉が無くなったぞ?」
「会長は粉塵爆発をご希望ですか?」
「かいちょーの周りだけ一面銀世界!」
「何故…」

「会長、卵の殻は入れない様に気を付けて下さいね。あと主役のカボチャは…」
「ミカちゃんが全員分の下処理してくれてるよ―」
「書記一人か?大丈夫…」
グシャ。
「……………」
「…会長、卵の殻だけ入れるのは止めてさしあげて下さいね」

会計が作り方を手引きして俺等は各自で作業を進める。
因みに副会長からカップケーキを貰う予定の書記は皆の手伝い、というポジションだ。

俺も初の菓子作りを一人で、二人に遅れながらも何とか果たした。

「出来た」










三人から微妙で生暖かい視線を貰いつつ、まぁ誰でも苦手ってあるもんね。とか手順は見張っていたのに何処で…とか言われたが最後は材料は同じだし!で完結した。

「てことでコレ」

そして今現在。
三人と別れ寮に帰り、部屋で飛翠の帰りを心待にしていたところだ。

「お、おつかれ…さま…」
「、ありがとな」

帰って来た早々に我慢しきれずにまだ中身に暖かさの残る包みを渡すと、一瞬きょとんとした飛翠だったが目を細めて受け取ってくれた。


「ああ、そうだ」

リビングに着きソファに座った飛翠が思い出したように口を開く。

「Trick or treat?」
「っ…!?」

後から着いて行った俺に包みを持っていない方の手を差し出して来る飛翠。

いや確かに何も言われずただ渡したけども!
匂いで中身が菓子だとは分かっている筈なのだが、包みにハロウィンらしさが無いから無関係と判断したのか!?
と言うより、飛翠ってそんな菓子欲しがるくらい好きだったか?

今渡したものくらいしか渡せる菓子は無いことに困りもう一度飛翠を見る。

「…………っ」

菓子の包みを持ったままだが、飛翠は両手を広げて待っている。

その求めるサイズはおおよそお菓子ではない。

「お菓子はもう貰ったがどうする?」

これで終わらせても良いのか?とにやり、と普段は誰にも見せないような悪戯な笑みを見せた飛翠に俺は駆け寄った。

勢いをそのままに彼の腕の中に飛び込む。

「ト、トリックでっ…!」


甘い甘いイタズラで。


end



「所でこの菓子…」
「一応、俺が作った。会計達のより見た目の出来は悪いけど…」
「そうなのか?」
「…どうだ?」
「あぁ。美味しいよ。このキャラメルクッキー」
「……そうか」

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