願い事がありまして

とある年の七夕祭り。

今年も公式の行事じゃないにも関わらず 学園内は盛り上がりを見せていた。

廊下に飾られた立派な笹。
それに傍らにはペンと短冊。


願い事をしたためた色とりどりの短冊はすぐに笹を埋め尽くしていた。

「……」

それを無言で睨み付けるのはこの学園で一二を争う有名人、生徒会所属の鳳凰寺 琥博。

「………」

今は授業中。

生徒会の仕事で公欠の彼を見る者はなく きゃっきゃと騒ぐ親衛隊もいない。

「誰もいないな…」

辺りを見回し万一にも人影がないか確認する琥博。

「……よし。」

そう呟き他の誰とも比べ物にならない程の覚悟をもって短冊を一枚取り出した。

淡い黄色の短冊を前にペンを持つ手が震える。

「なんて書くか……」

ここまで来て未だに纏まっていない書く言葉。

しかし琥博の願い自体は決まっているのだ。

今も昔も想うはただ一人、川蝉 飛翠である。

「付き合いたい…は、高望みすぎるか………触りたい…話したい……か?」

ぶつぶつと不審者宜しく考え込む琥博。

「仲良く?……あぁ。そうだな、とにかく初めはそれが良いか」

うんうんと頷きながら短冊にペンを近付ける。

と。

後少しというところでまたぴたりと手が止まった。

「あいつ…は、なんて書けば良いんだ…?」

問題は誰と、仲良くなりたいと書くべきか。
誰とはあいつ。あいつとは…

「ひ、ひす…〜〜〜〜〜〜っ」

名前を言い切る前に羞恥で一人しゃがみこんで悶える琥博。

「ムリムリムリムリ。でもあいつって書くのはどうよ。役職……も違うよな。苗字…か、かわっ」

それも無理だっ。と一人首を振り却下する。

「あーっ!もういいし!名前はいらんっ」

真っ赤になった顔のまま勢いよく立ち上がりそのまま短冊に向かう。

「"仲良くしたい"っと。もうこれでいいっ!」

迫る授業終了時刻に相手の名前を書くのを諦めほとんど殴り書きの短冊を片手に笹の方に向かう。

どうにか空いている辺りに短冊の紐を掛けようとした時───


「お前、」
「っ!?」

後ろから不意に声をかけられた。

「あ、てめ、なんでこんな所に……」
「何故って。風紀の見回りだ」

琥博が振り返った先にいたのは紛れもなく飛翠だった。
一瞬で琥博の体温が上昇する。

「お前こそ何してる。生徒会の仕事はどうした」

どうやら短冊云々のくだりは見られていないようだ。

「公欠はサボりのためにあるんじゃない」

眉を潜める飛翠。

「っ、…てめぇに言われなくても解っている。ただの息抜きだ」

同じく眉を潜めた琥博が言い返す。

「てめぇの顔なんか見てられるか。帰る」

どんどん顔が赤くなっていく琥博はそう言い捨てて踵を返すとそのまま去って行った。

「なんなんだあいつは。人の顔見るなり赤くなったりして」

そんなに怒るほど俺の存在は不快か。

いつもの事ながら凄い嫌われようだと飛翠はため息をひとつ吐く。

「ん?」

チャイムが鳴り響くなか、自分もそろそろ風紀室に帰ろうかとした飛翠の足元に 一枚の短冊が落ちて来た。

引っ掛かりが悪かったのだろう、短い願い事だけが書かれた 淡い黄色の短冊。

「友人と喧嘩でもしてるのか…?」

誰の者かも分からない短冊を見て疑問を溢した飛翠。

「叶うといいな。」

ふっと口元を緩めた飛翠が空いている上の方に短冊をかけ直す。

「さて、帰るか」

人の増え出した廊下を飛翠も琥博が去った方へと歩き出した。


end

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