理科室で遭遇

歳の差が嫌いだ。

一歳がなんて大きい、ってつくづく感じる。






何か難しい実験ばかりで自宅に引きこもりがちの先輩がウチの学校に居ると友達に聞いたのはいつかの昼休み。

七不思議か都市伝説扱いのその人はどうも自由人で変わり者らしかった。

なんと言うか…天才?
将来有望で既にあちこちの研究所から声を掛けられているらしい。


そんな先輩と知り合ったのは噂を聞いて案外早い数日後。

授業内容が科学の実験の為に珍しく理科室を使ったはいいが忘れ物をしていた俺。
それに気づいたのが放課後で一人忘れ物を取りに行った時に出会ったのが先輩。

中に人が居ると分かり咄嗟の相づち程度の挨拶から何となく会話が進んで、帰らないのかと聞いたら放課後だと気付いていなかった先輩が驚いた。
何でも実験に没頭していたらしい。

授業中もあまり真面目ではない俺的には考えられない事でつい笑ってしまった。

そんな俺に何を思ったか先輩はアラーム係りを任命した。
早い話が放課後になったら時間を知らせに来い、とのこと。

どうせ帰宅部だった俺は面白半分でそれを了承した。


先輩が学校に居たのは出会ったあの日の前日からだそうだ。

たまたまクラス担任だった科学教師と気が合い、半私物化した理科室と先生の趣味で揃った少し変わった薬品と機材の使用を餌にまんまと保健室登校ならぬ理科室登校になったらしい。

試験は受けていたにしても出席日数が足りないのを補うため、だとか。


それで良いのか。と少し思ったがあの科学教師自体も変わり者だったと納得することにした。


毎日律儀に理科室に向かい、昼食もスルーすることを知り昼休みも度々出向くようになっていた日々。

着いて行けるわけもないなんと小難しい話に嬉々とする先輩だけど聞いているのが楽しい。

細胞の若返りとか、何とか。
……………うん。先輩が見れれば俺はオッケー。


思えばあの時には既に先輩が好きだったのかもしれない。なんて。


先輩を先輩とは呼んでいたが会うのが理科室でつい失念していた事実。

俺が3年になると言うことは、先輩は…




気付いてから卒業式なんて来なければ良いと何度思ってもあっさり来てしまったその日。


在校生として出席した俺は帰ってから卒業する先輩たちよりも泣いたと思う。
その場で泣かずに済んだのは多分、先輩の姿を見なかったから。

普段から理科室で実験をする姿位しか見ることのなかった先輩は、卒業式のその日すら自分の実験を優先させたのだろう。





先輩が卒業してしまった…気の重い始業式の日。

メアドも何処の大学かも判らないからもうどうしよも無いと気付いたのは春休み中だった。
うん、俺はなんてバカだ。

救いと言えばクラス替えは無いから友達とは離れなかったことか。
とりあえずぼっち回避。

放課後は皆部活に行ってしまうのだけど。


友達と適当な話をしながら…と言うか始業式の長すぎる校長のスピーチの愚痴を溢しながら向かう新しい教室。

先輩が何組だったかも知らない。とかも初めて気付いた。



ざわざわざわ…

「なんだ?」

私語で溢れていた廊下にざわめきが大きくなり友達が振り向く。
それから俺も。

皆の視線は一人の元へ……

「先輩…?」

そこにはコチラに近づいてくる先輩がいた。

「やあ。何気に久し振り、かな?」

見慣れた制服姿で、まるでまだ高校生みたいじゃないか。
都合の良い幻覚か。

「出席日数が足りないことにして留年してみたんだが」

あっけら言う先輩。

「ここの取り揃えは気に入っているんだ。手放すのは惜しい」
「先ぱ、」
「おっと、今は先輩ではなく同学年だよ」

頭を撫でてくる先輩の言う取り揃え、に俺も入っていたら良いな。なんて。

「同い年ではないけど、一緒にいられるってことでどう?」

理科室ではなく俺と同じ教室に向かう先輩。

「嬉しいです」


まずは名前呼びから始めよう、かな。


end

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