プレゼントを贈る

「実は俺、サンタクロースなんだよね」
「は?」

クリスマスイブの夜。
12時を跨ごうかと言う頃 突然意味のわからないカミングアウトをしてきた彼に俺が咄嗟的に返した反応は無駄に冷たいものとなった。

だって、ねぇ…いきなりそんな嘘吐かれても反応困るでしょ。

「いや、だからさ、」

それは相手にも伝わってしまったようで防寒対策の必要がないくらいに暖かい部屋にいるのに相手はびくりと体を震わせた。

それでも言葉を続けるって言うんだから俺は黙って淹れて来てくれたコーヒーを受け取るだけで先を促す。

「プレゼントやる」

自分の分のコーヒーを持ってテーブルを挟んだ向かいに腰を下ろしたそいつ。

俺は要はそれが言いたかったのかと納得。


プレゼントと聞いて まさかベッド脇に無防備に置いてあった覚えのないケースの事じゃないよな、とふと思い出してみた。
いやまさかな。

「これ、」
「………まじか」

ケースの事だった。


「………指輪…」

そいつが開いたケースの中を見ると案の定入っていたのは指輪で。
シンプルなシルバーのデザインはふと目に入ったそいつの指にも着けられていた。

左手の薬指。

「婚約だ結婚だってのはないけどこれくらいはさ」

照れながら言っている感じが好きでさっきの下手な前置きは許してしまうのは俺のいつもの悪いクセ。


まぁいいけど。


「お前は何が欲しいの?」

今度は俺から尋ねてみる。

「俺は"本物の"サンタさんだからお前の望むもの何でもあげちゃう」


魔法みたいに手の中に現れた綺麗にラッピングされたプレゼントボックス。

いや。みたい、じゃなくて魔法なんだけど。

「じゃあお前ちょうだい」


初めて見ただろう魔法に驚いたクセにすぐに興味を無くしてあっけらと答えたこいつ。

折角作ったまだ空のプレゼントボックスは中身を作る前に雪の様に溶けて消えた。

そんなの気にも留めずに俺の腕を引き寄せて抱き締めたこいつは満足そう。

「魔法は要らない」
「…」
「指輪、着けてやる」
「ん」

いつの間に図ったのかぴったりなそれを自分と同じ指に通してからは欲しかった物を手にした子供みたいに解放する様子はない。

「何処にも行くなよ」
「…大丈夫」


もう、大丈夫。


「………ありがと」
「ん?」
「何でもない」




本当は、サンタになってここから去る筈だった今日。
もう会えなくなるこいつに最後に何かやろうって思っただけ。


だけど、予定外の望みのお陰でサンタになりそびれた。ありがとう。



「………何が魔法は要らないだ」

俺の最初で最後の魔法のお陰で俺がここにいることにはどうせ気付いていないんだろう。

ちゃんと魔法が叶えたプレゼントだぞ。


「……来年も宜しく」
「ちょっと気が早くないか?」
「…」
「先に言うことあるだろ」

まぁ、確かに。




「メリークリスマス」


end

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