11/11、11:11。

11時。
お昼にはまだ少しばかり早いこの微妙な時間帯に俺は廊下を歩いている。

最近、不良達が何やら騒がしいために一時的に一部の風紀は巡回を理由に公欠を認められているからだ。

勿論前委員長に強制的に就かされたとは言え委員長である俺にもその仕事は回って来た。

喧嘩だけでなく素行不良、さらにはその手の俺たちが相手する不良とまでは行かない普通の生徒でもサボるやつ。
寒くなり出しても案外一回の見回りで一人二人には出会ったりするわけだが。


「ん?」

公認なサボりのような感覚でたらたら歩いて、ふと窓の外に見える中庭備え付けのベンチに目をやると人が居た。

後ろ姿で個人までは特定できないが 特徴と言えば人工の金髪。

因みになぜ人工と言いきるかと言えば色が軽くプリンと化しているからだ。
うちは校則が厳しくないから一般生徒でも染めている者はいるが まず揃いも揃って親公認で定期的に染めているお坊ちゃんだから高い金払って綺麗に保っている。

とまぁつまりは不良がサボっていた。

遠目に見える手元の箱とそこから出して口に銜える仕草。

最初、よりにもよって絶賛喫煙中の問題児にでも遭遇してしまったかと落胆しながらそいつの方向に足を進めていたが それは体で隠れていた全体像が明らかになりだした頃には間違いだと思い直すことができた。

サボりには変わり無いから無視はできないが。

「おい」
「ん?」

近くまで行き声を掛ければ"ソレ"を銜えたままのそいつはあっさりこちらに振り向いた。

「何してる」
「……。ポッキー食ってる」
「何故」
「今日が11月11日だから」
「……」

菓子を食いながらではあるが不良相手にしては案外スムーズに返される返答に俺の方が詰まる。

「ポッキーの日。知らねぇの?」
「知るか」
「ポッキーは分かるよな?」
「知るか」
「え、マジで?」

気付けば質問に答える側と化していた俺の回答に手の菓子を落としそうになっている不良。

残念ながら膝に乗せている分は無駄に広い袋の口から溢れていることには気付いていないようだが。

あまりの露骨な驚きように流石に全く知らないわけではないので訂正する。

「名称なら聞いたことあるから存在くらいは知っている」
「うっそー……」
「嘘吐いてどうする」
「いや、そうじゃなくて」

言い直してもなお驚いている不良は食ったことないのかよ…とか呟いているがうちの学校じゃそう珍しくないと思う。
ほとんど上流出身で全寮な上に唯一学園内にあるコンビニにはそんな安価な駄菓子などないのだから。

「うーん、じゃあやるよ!」
「はぁ!?っング、」

手に持っていた菓子を喉に突き刺す気かと疑いたくなるような勢いで差し出され咄嗟に銜える。

カリカリと案外美味しいソレを咀嚼して口を開く。

「…昼休みに食え」

あと少し位我慢しろ。

「いやいや、今じゃなきゃダメなんだって………アレ!?」

不意にケータイの画面を見ながら膝の上を手が行き来する。
そして初めて俺の口に押し込んだのが唯一無事だった最後の一本だと気付いたらしい。

「ああああ、」
「待てっ!」

地面に落とした菓子を拾ってあまつさえ口に持っていこうとしていたので慌てて止める。

強制でも食ってしまったことに軽い罪悪感を覚えるが、それとこれとは話が別だ。

「買い直せ」
「無理!」
「じゃあそれ位買ってやるから」
「時間ねぇもん!」
「は?」

意味のわからない主張に首をかしげる。

「そうだ!地面に着いてなきゃ良いんだなっ?」
「だな」

名案とばかりにこっちを見る不良。

次の瞬間、

「ん゛!?」

そいつの顔がドアップに…と言うか口が塞がれていた。
つか後、何か舐められた。

「ぷは、」
「うーんやっぱりポッキー味」
「は、はぁ?」

突然の事に意味が解らない。

「じゃーん!只今の時刻は11時11分ですっ」

これを待っていた!と時刻を見せられる。

「これってポッキーの時間じゃね?」

ポッキーの日のポッキーの時間にポッキーを食べる。
なんだそれ。

「っんなもん来年にでも回せ!」
「えー」
「野郎にキスかましてまで遂行する事じゃねぇよ!!」
「はぁ?………。っ!?」

羞恥を堪えて指摘すれば当の満足気な不良はさも今気付かんとばかりに、ばかりに?

…こいつ、本気で今気づいたのか。

「ばっ、別にっ、」

急に狼狽え出した不良。

「〜〜〜〜〜〜っ」
「あ、おいっ」

ついには先にこの場を脱走した。

菓子を入れてきたのだろう鞄もマフラーも置いたまま。

「…」

荷物は、放置するわけにも行かないから落とし物の体で風紀に持ち帰るか。

「う゛、寒っ」

冷えた空気に血の気が引くのを感じ どうせ持っていくのだからと言いながらマフラーを拝借。

鞄を担ぎ歩き出す。

もしあいつが帰ってきて荷物がないと焦っても知るか。


ふとあいつも寒いんじゃ…とか考えてみたが逃げ出す時、顔真っ赤だったし寒さには強いんだろうと結論付けて歩き出した。

「不味くは、無かったかな」

今度あの菓子を買いに行くのも悪くない。


end

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