薬師の魔女

魔女、と言えば箒に乗って空を飛び 不可思議な魔法を使う存在で。
彼女たちにとっては魔法とは言い難い魔力を使わない"薬作り"も俺達からすれば充分に凄い"魔法"だった。

その取るに足りない魔法のせいで何処かの魔女たちは処刑されたとも聞くけれど、俺達はそこそこ共存している。





俺の住む村は森に面した小さな村だった。
隣村とも離れていて殆ど孤立してしまっている。

そんな村では皆が助け合いのんきに気ままに生活をして居たのだが ある日一人の住人が病に倒れた。

普段なら誰かしらが対処法を知っているし 村一番の物知りじいさんに聞きさえすれば大概なんでも解決した。
けどその症状は皆が初めて見るものだった。

街からはかなり遠くそれでも医者が居るのはそこだからと病人を連れて行こうとした矢先 次から次へ同じ病に伏せる住人が出だした。

皆は運べない、けど遠方から医者を呼ぶ事は難しい。

日々症状が悪化する人々を目の前に俺達は手をこまねいていた。





何日目かの夜、それは起きた。

月明かりに照らされ何かの影が村を横切り 次いで星の欠片が降ってきた。
否、正確には月明かりで金色に光る粉、か。

不思議な夜から一夜明け、村人にも不思議な事が起きた。


病人達が回復していたのだ。


そんな日が何日か続き 皆元気になった頃、星の欠片の代わりに紙切れが一枚降ってきた。

綺麗な字で簡素に"解毒・予防薬"と書いてあってあれが村の隣の森に住む魔女の"魔法"なんだと知った。



その後も流行り病を治す粉から子供の擦り傷に効く薬草まで、あらゆる物が降ってきた。

人を苦しめる魔女の話は聞いても助ける魔女の話はろくに聞かないから はじめは森に魔女が住むと知った当初のように警戒したし、供物目当てかと供え物をしてみたが手付かず。

魔女が受け取ったのは唯一お礼の手紙くらい。
病に掛かった子供やその親が中心だったが俺も病人に混じっていた妹を助けてくれた礼の手紙を書いていた。

だから真意はどうにせよ読んでくれたかもしれない事実は嬉しい。




供物を止めても案の定ただただ俺達は助けられ続けた。
勿論毒を撒かれることもない。


進歩と言えば供物の様にたまに置かれる手紙は次の日には無くなって、薬草なんかの質問には後日返事が添えられていたと言うこと。

ただ、前例を聞かない交流まで漕ぎ着けた俺達でも"そこそこ"の共存としか言えないのは魔女の姿を誰も見たことがないからだった。

月明かりの元 箒に乗って薬を撒く姿は幾度と無く見た。

手紙の回収も自ら出向いているのかも知れない。

なのに姿は見なかった。


気紛れ魔女の一度の善意でも ましてや害を成す魔女でもない。

俺達は彼女に逢いたがった。


ただ、お礼を言いたかった。









秋に村一番の祭りが行われる。

豊作祈願のその祭りはやはり身内だけの物だがしかし盛大なものだ。

天高く火を灯し子供達も夜長までの無礼講。

あの時死にかけた皆が元気に笑える姿が嬉しかった。


だから魔女にも見て欲しかった。
いつものお礼の最後に祭りへの招待も添えた。

今回の手紙も次の日には無くなっていた。
返事は、無かったけど。









祭り当日、火の灯りで何処までも照らされそうな空間で地方独特のリズムを奏でる楽器に併せ女性が踊り、子供達がそれを真似る。

でも魔女は何処にも居ない。

やはり、少し長い魔女の気紛れではこんな祭りに興味はないか。
不意に森に目をやると いつも手紙を置く辺り、俺は確かに人影をとらえた。


「あ…、」
「ん?どした」
「っスミマセン!」
「は?おい、」

隣のおじさんに止められるのも無視して俺は森へ走っていた。
影もそれに気付いて森に消えていく。

「待って、」



がむしゃらに走り影の腕を掴む。

細くて、けど案外がっしりした…それに 結構長身……、

「あ、れ…?」

掴んだ腕の先を辿ると俺と同い年くらいで ちょっと不本意ながら俺より少し背の高い整った顔の、青年。

「あっ、悪い。お前隣村の奴?でも遠いか…」
「…」
「そう言えば魔女見てないか?って、人影がお前なら魔女は来てないか…」
「…」

人違いに軽く溜め息を吐く。
しょうがない。見に来てくれる自体可能性が低いのだから。

「ま、いいや。誰だか知らねぇけど祭り見てたろ?一緒に行こうぜ」

黙りっきりの青年を引っ張り火の灯りの方を向く。

と。

バサッ、と後方で何か束の落ちる音。

振り返れば青年の落とし物らしかった。

「?あ、これ…」
「っ見るな!!」

顔を真っ赤にして腕を振りほどいた青年が慌てて集めるそれは

「俺の手紙?」
「っ!?」

バッと振り返った青年。
隠そうとしてか咄嗟に大事そうに抱き締められた手紙は確かに俺が"魔女に"宛てたお礼の手紙。

「つまり、お前が"魔女"?」
「………」

疑い半分で呟けば目を逸らしてバツが悪そうに悪かったよと返される。

「?」

なぜ謝られるか。

「……魔女じゃなくて」
「…あぁ。」

青年の言葉に納得行った。

確かに魔女と言うだけあって俺は魔女は女だとばっかり思っていた。

現に青年に会って魔女だと認識はしなかったのだから。

「別に。お前が俺たちを助けてくれた魔女には変わり無いんだろ?なら良いよ」
「……」

祭りに行こうと続ければ嫌だと言われる。

「他の奴が魔女が男だと知ったら幻滅するかも知れねぇじゃん」
「しないから。行こう」
「っ!!」

手を握り直し軽く笑って見せたら青年は目を見開いて、それ以上は何も言わず大人しく着いてきていた。

顔が真っ赤だったのは火の灯りのせいか。





―――――手紙、俺のだけ?
―――――………他の奴のは家にある。
―――――いつも持ち歩いてんの?
―――――悪いかよ。
―――――うんん。嬉しい。
―――――っ、









話ながら歩いて最高潮の祭りを一緒に堪能して 俺の隣に一人増えているのに気付いた奴らに流されるまま腰の引けた魔女を紹介したら皆最初驚いて、それから歓迎した。

戸惑いながら楽しそうな魔女を皆気に入って 祭り終わりの夜明けには帰ろうとする魔女を引き留め村に住むよう提案した。

渋っていた魔女も不都合があるのかと思ったが杞憂で、一人暮らしには広い俺ん家に同居が決まるのはすぐだった。
この時の魔女が一番狼狽えていた。



まぁ無事にウチに住んでいるわけだけど。






今日も皆、元気に笑ってる。
















俺の村には魔女が居る。


流石の魔女も同性間で子供は作れないみたいだけど

大人から子供まで、いっぱい。
俺の村には魔女がいる。


箒を使っても空は飛べない、色んな病気を治せる"魔法"を一人の魔女から教わった魔女達が。





今日も、ずっと 笑って共存している。


end

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