友達が欲しいと願ったらセ○レを恵まれたんだが。
全く意味がわからない。
「今夜のお供は僕なんていかがですか?」
「いーや、僕でしょ!」
なぜ俺の周りにこんな人だかりができているのか。
あまつさえ、なぜ夜に誘われているのか。
夜通し恋バナ。とか、貫徹でゲーム。とかじゃないことは、彼らの可愛い見た目からは聞きたくない程度にはエゲツないシモい単語で察している。
しかしなぜ俺を誘うのか。
冬休み前は、こんなことなかったのに。
そう遠い目をした俺はため息をひとつ吐いて、心当たりを思い返した。
時は日付が元日に切り替わった頃に遡る。
新年あけおめムードの中、俺も近所の神社にやってきていた。
一人で。
そう、一人で、だ。
周りに怖がられがちな俺は人と接する機会を逃しまくり、たまの機会はもはやコミュ障といって差し支えないドモリと引きつり笑顔で相手を遠ざけまくってきた。
周囲は俺を一匹狼、一人が好きなタイプと決め付け、近付いてこず。
なんなら「すかしてんじゃねぇ、ムカつく」系勘違い不良からの拳すら数少ないコミュニケーションと嬉しくなれるくらいには、人との関わりに飢えることとなってしまった。
その結果、喧嘩中に笑う喧嘩狂判定をうけ、更に人が寄り付かなくなったとは後に知ったことだ。
で、だ。
俺はもう神頼みに縋ることにした。
いや、ぶっちゃけ毎年縋ってるんだけど。
「今年こそ友達ができますように!」
しっかり手を叩き、頭を下げて真摯にお願いする俺。
願いの程を汲み取っていただきたい!
諭吉さんにも賽銭箱の中からお願いしてもらってるんだ!
………と、そんなことがあった。
あの後は自販機でお汁粉買って、7が四個並んでもう一個ジュースが貰えてラッキー。
でもシェアする相手はいないんだよな。
と情緒不安定になりながら帰宅して、冬休み中は寒くてかなわないと家に引きこもっていたのだが。
うん。
久々の登校から早数日。
この謎のモテ期の原因があるとすれば、初詣の願掛けのほか考えつかない。
俺はイメチェンしてかっこよくなったわけでも、成長期で身長伸びたわけでもない。
てか身長はもう要らん。
これ以上威圧的な演出は要らん
。
「浮かれぬ顔じゃの」
「ん?」
浮かない顔をして、でも折角話しかけてくれているのに邪険にもできないと困っていると、正面からイケメンがやってきた。
顔面偏差値高めのこの学園でもトップを張れそうなイケメン。
中性的な雰囲気は生徒会長とは系統が違うから比べづらいが、副会長あたりとは人気を二分しそう。
…?
そんなイケメンの割にはなんで生徒会に入ってないんだ?
生徒会じゃないことはあっても、こんな顔もっと有名で名前くらいぽんと思い出せそうなのに、全然引っかかりがない。
口調も癖強で同じ学年のタイまでしてて、フツメンだって記憶に残りそうなのに、そんなことってあるか?
こんな薄情なやつだから俺には友達一人もできないんだ!
「フフッ、百面相しているところ悪いがの」
愉快そうな色素薄い系イケメンが言葉を続ける。
これ、俺に話しかけてるよな?
ホントだよな?
「真のことじゃ。視線を合わせぬか」
「あ、あぁ…………ん?」
今俺、口に出してた?
「案ずるな。吾が勝手に読み取っただけじゃて」
「……」
イケメンは何かヤバい系イケメンだった。
この顔面ならイタい奴でもモテそうだけど、今のは種とか仕掛けとか無理だよな?
ガチ超能力者?
このビジュアルにそんな超スペックとかズルくない?
てかなんでそんな住む次元の違うイケメンが俺に能力披露してんの?
「フフッ。こんに面白い人間を避けて回るとは。人とは勿体ないことをするのぉ」
「??」
超能力イケメンは超能力者ついでにやっぱ厨ニとかも入ってんだろうか。
じゃなきゃ周囲の人を「人間」呼ばわりしないと思う。
確かに神だ悪魔だって言われても信じれるくらいにはイケメンだけどさ。
「む。お主、吾を悪魔と並べるでないわ」
腕を組んでむくれるイケメン。
何やってもイケメン。
ズルい。
「まぁ良い。そんなことよりお主、折角願いを聞き届けてやったのに全然嬉しそうじゃないのう。何故じゃ?」
「?」
イケメンが脈絡のない話を始める。
イケメンが俺にわざわざ話しかけてきたのは、その疑問を解消するためらしいのだが…願いを聞き届けた?
「友達が欲しかったのじゃろ」
「え、え?」
向こうにはこっちの思考がダダ漏れでも、俺にはわからない。
だから困惑し続けるしかないんどけど…。
いやちょっと思い当たるふしはあった。
丁度最近の異変はアレが原因か?とか考えていた時だったし。
でも、え?
なんて思いながら、そういえば周りが静かだな。
彼らはイケメンオーラに圧倒されたのか?と周りを見てびっくりした。
俺に夜のお誘いをかけていた奴らがフリーズしていた。
比喩でもなんでもない。
本当に、石になったみたいに瞬き一つせずに止まっているのだ。
少し遠くに見えるグラウンドの奴らが上空で静止したり、あまつさえボールまで宙に固定されている様を見てしまっては、俺とイケメン以外の時間が止まった的な考えを持たざるを得ない。
今日は超能力のオンパレードだ。
できたら時間が止まる体感より前に、念力辺りから段階的にグレードアップしてほしかった。
「お主とはゆっくり話したかったからのう。して、何故じゃ?」
ゆったりとくうに腰掛けたイケメンが俺に問う。
もう驚かない。
てかキャパオーバーでこれ以上驚いた表現が出来ない。
「…いや、友達とかできてないし…」
やっとのことで言葉を吐き出す。
気になることは山のように溢れているが、こっちから質問する余裕なんてない。
聞かれたことに誠心誠意答えるのみ!
「それはお主がつれない返事をしているからじゃろ?」
「いや、それはそうなんだけど…」
早速言葉に詰まった。
そりゃ、神頼みしたからってある日ポンと数年来の友達面した奴に現れてほしいわけではない。
声をかけただけで逃げない相手がいるだけで、友達になるきっかけの生みようはあるのだ。
そこから先は俺次第、で、全然構わない。
でも、でも…!
「シモのことしか頭にないのはちょっと…」
どのアイドルが好き?とか、なんなら、どの子とヤリたい?とか。
そんな話なら良いんだ。
それも青春っほさあるじゃん。
けどそいつら違うもん。
なんか知らないけどヤろうとしてんの誰とじゃなくて俺とじゃ。
それって友達じゃなくてさ、
「ん?セッ○スフレンドもフレンドじゃろ?」
「俺が欲しいのはそーゆーのじゃないっ!」
確かにこの学園、ちょっとそっち方面にユルいところあるけどさ!
俺は健全な友達が欲しいのっ!
当たり前みたいな顔をして首を傾げられたものだから、精一杯のツッコミを入れてしまった。
夜遊ぼうって言われて浮かれて恋バナとかゲームくらいの感覚で部屋に呼んだ相手に襲われかけた俺のトラウマ舐めんなよ!
話しかけられて嬉しいのにメッチャ構えちゃうんだからな!
「ふむ、それは悪いことをした」
勝手に考えを読み取ったイケメンが勝手に謝罪してくる。
…まぁこのパニックホラーに負けず劣らずの現状は謝ってくれて良いんだけど。
「お主はあーゆーのはタイプではなかったのか」
ぼそ、と納得したように呟くイケメン。
「よし、お詫びに吾が友達になってやろうぞ」
「へ?」
話の脈絡が見えない。
いや、脈絡はあったんだけど。
「吾は気になっていたお主と親しくなれる。お主は友達ができる。ウィンウィンじゃろ?」
「う…」
お詫びとは?と思わなくもないけど、気になっていた、言われると悪い気はしない単純な俺。
うん、俺も話しかけたくて気にけていても話せずじまいなこと多い。
正体に言及はしてないなりにだいぶ畏れ多い相手な気はするが、折角誤解が解けて、しかも向こうから来てくれてるのに邪険にしてる場合ではない!
俺は友達が欲しい!
「俺もよろしく、したい…」
「うむ、手とり足取り教えてやろうぞ」
「頼む」
文字通り時の止まった二人だけの世界で、ちょっと変な気分だ。
でも時が動き出したらこの変なモテ期は終わるだろうし、友達もできた。
これは幸先いいのかもしれない。
イケメンが「可愛い系が好みじゃなかったのかぁ」という勘違いをしていること、ウサギを冠した干支神であることは俺の誤算。
俺が想像以上に普通の友達に喜んでいて手を出すに出せないのはイケメンの誤算。
「まずは…名前を教えて、くれ」
end
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