マメマメ

「鬼はー外。鬼はー外っ!」
「は?なに?」

 2月。でも3日じゃない。
 鬼の面を被っているわけでもない俺は子供と呼ぶにはデカい同居人に豆を投げられていた。

 節分なんかする趣味あったか?

「良いから表出ろや!」
「喧嘩売ってんなら買ってやるぞコラァ!」
「ちゃうわボケェ!」

 これが喧嘩の合図じゃないなら他に何だと言うのか。

「風邪引くなよっ!」
「なら追い出すな!」

 すっごい気迫で玄関に追い詰められた俺は、豆の合間に投げつけられた上着やらマフラーやらを身に着けるやいなや締め出された。

「…何あいつ」

 幸いポケットにはいくらかの小銭とスマホ。それから紛れ込んだ豆。
 あいつが落ち着くまでの時間を潰すくらいはできそうだ。

「俺なんかしたか…?」

 取り敢えず寒いので近場の自販機でおしるこを買い暖を取りながら首をひねる。

 怒ってた、のか?
 基本的に態度キツめの奴だからなんとも言い難い。

 違う…と思うが、そう言い切るには俺の方の「思い当たる節」が多すぎた。

 あいつとは小4からの付き合いだ。
 あいつの親父さんの仕事の都合で転校してきて、同じクラスになったのが出会い。
 今思えば引っ越し続きで友達付き合いに臆病になっていただけなのだろうが、あいつは初日から不機嫌で転校生に興味津々だったクラスメイトをことごとく突っぱねていた。

 俺自身は転校生に大した興味はなかったが、クラスの美少女ミカちゃんや俺のダチも邪険にされているのを見ていて心象が良くなかったのは事実。
 それでことあるごとにあいつに絡みだした。

 あいつが「いっぴきおおかみ」で「ひとりがすき」な奴だと思った俺は、昼にはあいつの弁当を盗み強制的にこっちに来させたり、体育で周りが遠巻きにしてペアの組めないあいつと組んだりしていた。

 俺はいたって真面目に嫌がらせをしていた。

 ダチが「お前ってそうゆうところあるよな」とか「うちの母ちゃんよりオカン」とか言って生暖かい視線で見守っていた意味が「世話焼き趣味め」だったとは。
 「イジメんのも程々にな」的な訳し方をしていた当時の俺にはわからなかった。

 どんなに突き放そうとしても絡んでくる俺に根負けしたらしい。
 中学に上がる少し前には「どうせ無理矢理連れて行くんだろ」とか言いながら、弁当を盗らなくても嫌そうな顔で俺の後ろを付いてくるようになった。

 中学ではクラスが一度も合わなかった。
 でも隣同士ではあったから、休み時間ごとによく様子を見に行ったし、昼もあいつに絡みに行った。
 相変わらず周りを牽制しまくっていたあいつは、中学に上がるやいなや金髪にして不良のレッテルを貼られていたから更に敬遠されていた。

 と言っても中学は地元の奴等も多かったから、「俺に任せておけば大丈夫」とは思われていたらしい。
 ついでに、知らないところで「俺にだけはめっちゃ懐いている」と囁かれていたとか。
 お前らは一部の女子の性癖を捻じ曲げたぞ。とは後にダチから言われた言葉である。
 俺もあいつも喧嘩腰がデフォルトだったから、何をどう見たら仲良よく見えたのだろうかとか当時は思ったものだ。

 一年も経たない内に昼になればあいつの方からこっちのクラスに来るようになった。
 何人かで食べる時の方が多かったが、あいつは嫌とは言わなかった。
 というか俺のダチで共通の話題ができるやつがいたから、それが目的だったのだろうと思っていた。
 そいつが休みでもまぁ来ちゃったものはしょうがないとばかりに定位置となった俺の隣に座ってほとんど黙って食事を進めていたのは記憶に新しい。

 あいつの弁当が手作りだとはこの頃に知った。
 普通に美味そうでクオリティが高かった。

 不良とは?と周りがあいつの認識を改めるのも時間はかからなかった。
 まぁ先生相手だろうとツンケンしていたし、一応髪染め禁止の学校だったみたいだから先生達からの問題児認識は変わらなかったけど。

 で高校は俺と同じ所に来た。
 「どこ受ける気?」と聞かれたからなんの気無しに答えたら、何かあいつもそこを受けていた。
 俺は合格圏内でそれなりに近いからそこを選んだけど、出席こそすれ不真面目なあいつの偏差値よりかは高かったから、多分あいつは勉強頑張ったと思う。
 俺が勉強を教えたわけじゃないのに地味に先生達から感謝された。

 で、高校卒業少し前。
 あいつの親父さんの転勤が決まった。

 ここ何年もなかったから、あいつも警戒しているようで気を抜いていたらしい。
 珍しくわかりやすくパニクっていたのが目に見えていた。

 どうせ転校する。とやさぐれていたあいつはここに居場所を見出していた。
 口には出してなかったけど、引っ越したくないという思いはひしひしと伝わってきて、俺もどこにも行かないでほしいとも思って。

 その日の夜、俺は色々考えて「ならルームシェアする?」と聞くことにした。
 その大学には寮とかなくて、そもそも家からそれなりに近いから家から通う気満々だっから思い付くのが遅くなった。

 一人暮らしすれば?は他人事なのに言うのは無責任だし、あとは俺の下心。

 俺はそれなりに、いや結構。
 いつの間にかあいつに惚れていた。

 そりゃつっけんどんな態度でも俺の隣から離れないし?
 親父さんの転勤に狼狽えた時に最初に相談してきたのが俺だったし?
 なんなら俺の行く大学についてくるくらいだし?

 これだけ懐かれ続ければそりゃ絆されるだろう。
 ついでにダチからは「愛されてんなー」とかニヤつかれていたから、それ自体はからかわれているのはわかっていても、少なからず意識はしたのだと思う。 

 もうこれは同居、いや同際もありっしょ!ってなるっしょ。

 と意気込んでいたら、次の日言いづらそうに向こうからルームシェアを提案された。
 真っ赤な顔が可愛く見えた俺は多分末期だ。
 周りが無駄に囃し立ててあいつがそれにキレていたから、俺のニヤつきは見られていなかったと思う。

 あいつは「親父から提案された」とか「別に断ってもいいぜ?親父の生活能力が低いからついて行ってやるつもりだったし?」とか色々言ってたけど、結局俺が「一緒に住もう」と言ったことで同居が決まった。

 実際住んでみると自分のベットがあるのに俺んところで寝てたり、テレビ見てたら隣で肩に頭に置いてくるし?
 なんなら俺の食いかけアイス平気で舐めてくるし?
 もう襲わないほうが難しいじゃん?

 でも我慢したよね。

 そしたら今もさー。

「ん」
「ん?」

 ラインで「帰ってこい」と追い出した当人とは思えないセリフを吐かれて帰ってみたらチョコを差し出された。

 今日は2月。14日。

「ま、まー。世話にはなってるし?感謝を込めた義理チョコ?みたいな?」

 めっちゃ視線を逸しながら押し付けられる手作りチョコ。
 しかも出来立て。

 これを作るために俺を追い出したのは明白。

「要らなくてもやる」
「もちろん貰う」

 これはもう付き合っていいでしょ。むしろもう付き合ってるでしょ。
 でもちゃんと手順を踏んで告白からしてやろう。

 とか思って貰ったチョコを食べながら二人でテレビを見てる最中に軽く恋人気分で告ったら真顔で「は?」とか言われた俺の気持ちよ。

 この野郎、まったく無自覚か…!
 ならエロ本の一つもベット下に隠しとけよ、俺がいるから間に合ってんだと思ってたじゃんか!

 とかいう八つ当たりをしながら俺はこいつへの感情をわからせることを心に決めたのだった。


end

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