美少女にはご注意を!

 男か女かって問われれば、やっぱり女の子の方が良いに決まってんじゃん?

 何って、見るも遊ぶも全部。

 と言うか、質問がおかしーよ。

 そもそもこれって一択じゃん?

 まぁ他人の趣味がなんでも構わないけど。

 でも、俺は女の子が好きなわけだ。

 だって可愛いじゃん、キレイじゃん、素晴らしいじゃん!

 彼女ってのは勿論だけど、俺は愛でるのも好きなわけよ。
 むしろ眺めているのが最高の時間だとすら思っている。

 だからここに来た。

 大学構内。
 一番広い建物。

 三月頭から催されるこの、「ミスお雛様」を観るために!

「やっぱ美女って良いよなー。もう見てるだけで元気になれる」
「キモ。」
「シモの話じゃねーよ」

 腕を組んでウンウンと納得する俺の隣で、興味なさそーにスマホを弄っていた友人が、俺の独り言を拾って俺から距離を取った。
 耳を働かすなら視線も上げろ。

「お前何しに来たの」

 壇上の「お雛様」にあまりにも興味を示さない友人に、俺は率直な疑問を口にした。

 別に俺はこいつを無理矢理つれてきたわけじゃない。
 こいつから「今回は俺も行く」と言われたくらいだ。

 邪魔されずに鑑賞できるのはありがたいが、こうも場違いだと逆に気になってしまう。

「んー?んー。」

 気のない返事。
 チラッと視線をやったら誰かとやり取りしてる最中だった。

 そっちを優先してるわけね。
 いいんだけどさ。

「サキの友達が出るんだと。だから投票してやって欲しいって」
「え、マジ?」

 区切りが良くなったのか、おもむろに俺への回答を口にする我が友。
 こっちの都合はお構いなしだ。

 なれてるからいいんだけど。

 サキと言えばこいつの彼女。
 俺も何度も会ったことがある。

 大学が違うから本人は投票できない分、こいつに任せたってことか。
 サキちゃんも参加したら高得点取れそうな美人なのに勿体ない。

 と言っても人の彼女を取ろうなんて考えは欠片もないからな。
 そもそも俺は可愛い系が好きなのだ。
 キレイ系のサキちゃんは単純に目の保養にしかならない。

「…」

 とか考えてるのがバレたのか、隣からジト、とした視線を感じた。
 俺の性格を良く分かっているから、警戒もしないし彼女も混ざって遊びに行ったりはするんだけど。

 あんまジロジロ見んな。くらいは思われるか。
 不躾だってな。

 否定はできない。

「お前さぁ、いい加減その不躾な視線を好きなだけ送れる相手見つければ?」
「というと?」
「彼女作れ。」

 お互いの視線は各々の気の赴くままに会話を続けていたら、すんごい明快に言い切られた。

 壇上で代わる代わる前に出て来る彼女達はいくら見ても怒らない。
 しかしそりゃ、日常生活でこんだけ見てたらいつかしょっぴかれかねない。
 それはわかる。

 しかしだな、友よ。

 お前、俺をどんだけ優良株だと思ってんの?

 友人も中々のフツメンだから、正直なんでサキちゃんみたいないい子が捕まえられたかわかんないんだけど。
 俺だって大概よ?
 内外ともに底辺とまで卑下する気はないが、男をよりどりみどりできる美女が選ぼうとなんて思える要素は無い!

「相変わらずこの大学って顔面偏差値高いよなー」
「現実逃避かこの野郎」

 まともな返答をしなかったせいか、辛辣な言葉を浴びせられた。

 いや、こいつはこれが素だ。
 彼女には優しかったりすんのかねぇ。
 俺の方が優しさなら負けないと思うんだけど。

「でもま、確かに。ここって美男美女系コンテスト多いよな」
「それ目当てで入学する人達も少なくないって言うしなー。かくいう俺もその口だけど」
「お前は見る専な」

 そう、この大学はお祭り騒ぎが大好きな奴らの集まりだ。
 そしてコンテストは特別準備しなくても人間がいれば開ける祭りだ。
 賑わえば質も向上する。
 結果的に美に関する箔をつけたい人間が、コンテスト目当てに集まりやすくなったらしい。

 学力も元から高い大学だったから、俺がこの話を聞いた時は大変だった。
 苦難を乗り越えた今、その分俺は大学生活を謳歌すると決めている!

「お前はいいよな、頭良いから」
「え、いきなり何」

 つい隣の、俺がヒーヒー言って入ったこの大学を「家が近いから」で選んだ奴に不貞腐れてしまった。

 そーいや、彼女の通ってる大学は偏差値もっと高いんだっけ。
 しかしこいつは全然問題なく受かれる実力があんのに、くだんない理由でこっちの大学を選んだんだっけ。

 やっぱりこいつ優しくなくね?
 俺に勉強教えてくれたけど。
 スパルタだったけど。

 …。

 そーゆーギャップが受けるんだろうか。

 …。

 ダメだ、頭が考えることを拒否しだした。
 余分なことを考えず目の前の花園を観よう。

 目の前では相変わらず多種多様の美人達が立ち並んでいる。
 たまにいる、友人に応募されたんだろうな。て感じの子なんか初々しくてそれはそれでかわいくて全然有りだ。

「どうも今年から男でもお雛様に出られるらしい」
「マジ?」
「ん。で、この後のお内裏様コンテストには女でも出れんだと」
「おお!」

 お内裏様コンテスト。
 お雛様コンテストが美女コンなら、当然そっちは美男コンテストだ。

 優くても野郎に興味は無いし、そんな所に出られる程外見に気を使ってる知り合いもいないから、スルーしていたのだが。
 これは…見るしかないな。

 わざわざ男女別開催のコンテストでお内裏様を選ぶのだから、どストライクの可愛い系は望めないだろう。
 しかし!
 イケメン系の美人も全然有りだ。
 男装の麗人とか、モノホンの男には無い肌ツヤや所作の良さを仕上げてくるから本当に物語の王子様並みのクオリティで圧倒されたりする。

 美しいは正義!

「お前ってホント、節操ないよな…」
「ありがとう」

 自分の知らなかった情報を得て生き生きとしていたら褒められてしまった。
 二股はだめだけど見るはタダだよな。

「そーいやサキちゃんの友達って?もう終わった?」
「いや、後半だってさ。今年初めて参加できるようになったから気合入ってんだと」

 スマホを繰りながら彼女経由らしき情報を口にする友人は相変わらずコンテストに興味はないようで、その友達ってのの出番を確認するようにチラチラ視線を上げる程度しか壇上を見ていなかった。

 俺とこいつを合わせてやっと丁度いい熱量になるんだろうな。

「そっかー。じゃ、一年だ」
「は?お前、俺の話の流れ聞いてた?」
「?」

 バカ、と言わんばかりの視線を向けられるが、そんなに見るならあっち見ろよ。と思ったり。
 怖いから口にはしなかったり。
 そっち見んのは怖いから壇上にこれまで以上に注視したり。

「お!」

 不意にざわ、と会場がどよめいた。
 俺も思わず声が口に出た。

 笑顔で前に出る小柄なその子は、マジで可愛かった。

 肩くらいのストレートヘアに大振りのセーター。
 ミニスカートの下は透け感の欠片もない黒タイツ。

 桜色の唇は弧を描き、指先しか出ていない手を小さく振る姿はめちゃくちゃあざとい。
 あざと過ぎるくらいあざとい。

 完っ全に自分の可愛く見える方法を熟知している。
 と、わかっていて俺はあえてそれに乗ろう!

 露出が少ない分、チラッと見える手首とかなんか良いよな。

「…こえー」

 隣から俺しか聞き取れなそうな小声が漏れてきた。

 わかる。
 怖いくらい可愛かった。

「俺が投票しなくても優勝しそうな活気な」
「え?サキちゃんから友達に投票してって言われてんしょ?気が変わった?約束は守った方がいーぞ?」

 気持ちはわかるけど、とフォローしたのに睨まれた。
 こっちは普通に怖い。

「…」
「な、なに?」

 友人からジッと見られ、蛇に睨まれた蛙な俺。

 ヤバい。
 壇上にあんな姫がいんのにそっち見れない。
 今目を逸らしたら美人を一生拝めなくなりそうなくらい冷や汗が止まんない。

「紹介してやろっか。あいつ」
「へ?」

 長い沈黙のすえ打ち出された言葉があまりにも予想外だった俺は、酷く気の抜けた声が出た。

「あれだよ、サキの友人」
「マジ?」
「そ」

 一瞬担がれたかと思ったが、彼女の姿を写真に収め、サキちゃんに送信している姿をみて信じることにした。

 確かにサキちゃんの友達ってんなら、あんな美少女の知り合いがいてもおかしくないか。とか納得してみる。

「お前みたいに外見大好き人間やイジメ甲斐があるやつ好きらしんだよね」
「へー、外見天使の中身小悪魔なんだー」

 クソポジティブ。とか褒められたが、今の俺はそれどころではない。
 コンテストに出られる程じゃないまでも、少しでも良く見られるために取り繕う参断で頭がいっぱいだ。

「あいつの正体知ったらどんな反応するかねぇ。案外変わらなかったりして」

 隣からニヤニヤ笑いかけられ、壇上と目が合ったと思ったら手を振られて浮かれる俺は、彼女が「彼女」では無い事に気が付くことはなかった。

 そして、彼女からもうターゲットとしてロックオンされていて逃げられないことも。


end

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