大丈夫? と心配そうに問うヒロ──諸伏景光に曖昧に頷く。頭がひどく痛かった。
こんなに頭が痛いのは最後に同期皆で酒を飲んだ日以来かと思いを馳せる。あの日は、久しぶりに皆の都合が合った、珍しい日だった。馬鹿みたいにはしゃいで、げらげら笑って羽目を外して。頭の芯がぼんやりと熱を帯びはじめてもまだまだなんて言って笑いながら酒を飲んだ。遅くまで飲み続けて、また飲もうななんて言って気怠い体を引き摺りながら解散した夜明け前の空を、今でもまだ覚えている。久しぶりに同期たちと会って、懐かしい気持ちに浸って。さぁ明日からも頑張ろうなんて捻くれた俺らしくもなく襟を正してみたりなんてして。次の飲み会はいつにしようか、とスケジュール帳をチラチラと見ている俺を、ゼロはにやけた面で揶揄った。
結局、次の飲み会は開かれなかった。萩原が殉職したからだ。
くらりと揺らぐ視界でぼんやりと辺りを見ると、いつもの公園。あぁそうだ。俺はヒロと公園に遊びにきたのだった。公園かぁ。懐かしいな。ゆるりと目の前のヒロに視線を移す。
幼いな、と思う。五歳を迎えたばかりの幼馴染は、うろうろと心配そうに俺の周りをうろつく。先程まで少し大人びた存在として映っていたヒロは、こんなにも子供だった。
「日差しが強かったから、目が眩んだだけだ」
笑って誤魔化すと、ヒロは少し変な顔をする。
「急に賢くなったみたい」
ガキのくせに妙に鋭い。でもって失礼だ。思わず苦笑する俺に、ヒロはもう一度変なのと宣った。
そうだよなぁ。変だよなぁ。
どうやら世界は俺の望み通りに狂ったらしかった。死んだはずの俺は、時間が逆行でもしたのか、五歳の俺になっていたのだ。
とはいっても、思い出したのはついさっき。太陽が眩しくて目を細めた瞬間だった。何か特別なことがあったわけではない。それでも、俺の世界は一瞬きの間に一変した。
理解してしまったのだ。この世界は、俺が願った、“例えば”の世界なのだと。それが本当かなんて、分からないけど。それでも俺は、皆と一緒の未来を、ゼロを一人にしない未来を描いていいのだと。唐突に、理解してしまった。
痛みの治まってきた頭を指先でなぞると、ヒロはまた少し、心配そうな表情をする。
「家に帰ろうか」
きょろりと公園を見渡し、ヒロは付け足す。
「もう、人もいなくなってきたし」
確かに、公園には夕日の光が差しだしていた。目の潰れそうなほど強い光に、微かに笑みを浮かべる。そうだな、ショーをするなら、こんな煌びやかなステージがいい。
ぱちん、と指を鳴らす俺を見て、ヒロはうわ、かっけぇと声を漏らす。思わずといった口調の言葉に笑みを零し、俺は言う。
「さぁ、魔法をかけよう」
次の飲み会はいつにしようか。
まだ酒を飲める歳でもないくせに。この場にいたらそう突っ込んでいたであろうゼロの言葉を頭の中で想像し、俺は夕日に目を細めた。
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