魔法使いは来世に笑う
3 side景光
「魔法はもう使わないの?」

 ナギに尋ねると、変な顔をして笑みを返される。

「大きいの、かけてる最中だから」

 トランプを手で弄びながら言うナギの手捌きに、かっけぇと手を叩く。手を叩き、ふと思う。そういえばこいつは、いつからこんなにカードを捌くのが上手くなったのだったか。

 首を捻っても分からない問題は、ナギの手元を見た瞬間に吹き飛んでいく。カードが宙を舞うように右手から左手へ、左手から右手へと踊っている。

「ヒロは、なんの数字が好き?」
「うーん……、ゼロ?」
「トランプの中にある数にしろよなー」

 ナギは困ったように笑うと、トントンと自分の胸元を叩いてみせる。釣られて自分の胸元を見ると、いつの間にやらポケットにカードが収まっていた。

 確認すると、トランプの予備らしきカードに、0と書かれている。わぁと驚いた俺に、ナギは目元を柔く細めてみせた。

 まただ。
 最近、ナギはよくこの表情をする。

 この前まではマジックが成功するたびうるさいくらいのドヤ顔を披露していたのに。俺が凹んでいる時とかも、うざったらしいくらい目の前でトランプを見せつけていたのに。なんだか急に置いていかれたような寂しさを覚え、「魔法使ってんじゃん」とわざとらしくぶぅたれてみせる。

「魔法じゃないよ。これは、マジック」
「この前まで魔法だって言ってたくせにー!」
「魔法はさ、」

 気恥ずかしさに噛み付くかと思われた幼馴染は、どこか遠い場所を見てポツリと呟く。

「もっと大事な場面で使うものなんだ」

 ね、と言われ、よく分からないままに頷く。俺からゼロのカードを受け取ったナギは、思いつめたようにカードを口元に添え当てた。

「××」

 聞き覚えのないあだ名を口にしたナギは、カードを大切そうに箱の中へと仕舞った。

 本当に、よく分からない。最近のナギはどこか変だ。

 遠くに目をやって、それから指先を見て、ぎゅうと手を握りこむ。悩んでいる時の、ナギの癖。あの日からずっとその繰り返しだった。

 多分、きっと。あの日にナギは何か変わったんだ。どこか遠くに視線をやって目を細めていた、あの日に。

 嘆いているような、喜んでいるような。そんな表情を見たの初めてで。どうしたらよいか分からず内心戸惑う俺に、ナギは笑って告げた。

 ──魔法をかけよう。誰も死なない、そんな魔法を。

 あったらいいなと思った。俺の両親も、そんな魔法にかかっていたら。言い出したら、キリがない。それでも、そう思わずにはいられなくて。

 俺を引き取ってくれた親戚に心配をかけてしまうからと泣くのはやめていたはずなのに、どうしてだかやけに泣けてきて、ぼろぼろと声を上げて泣いてしまった。

 初めは、俺が泣かせたみたいだろとかガキはこれだからとか悪態をついていたナギも、その内声が湿ってきて。大きな涙を零し唸りながら泣くものだから、二人して相手に泣くなと言いながらわんわん泣いた。

 涙が乾いた頃、ナギは家からこっそりとアイスを持ち出して俺に与えた。しゅひぎむ、があるとかなんとか言ってたけど、よく分からない。こうあんたるもの、とかも言ってたけどそれもよく分からない。多分魔法使いの称号だと思う。ナギはよく、そういう妙ちくりんな言葉を作っては自慢げに披露する。揶揄われるのに気恥ずかしさを覚えたのか、最近はあんまり言わないけど。やっぱり、変だ。変だけど。

「ねぇナギ」
「んー?」
「俺でも魔法、使えるかな」
「……勿論」

 泣きそうな顔をして笑うナギがひどく嬉しそうだから。きっと、ナギの魔法の温かさに変わりはないのだろうと。凹んでいる俺を慰めようとトランプを切ったくせに、ドヤ顔を披露してしまう不器用なナギを思い出しながら、漠然と、そう思った。



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