とりあえず竹下通りは拡張した方が良い


とりあえずあたしは、皆さんから自己紹介を受けた。部屋の端に(必然的に)追いやられたあたしに向かって、代わる代わる外人男性たちが喋るのだ。興奮す……じゃなかった、楽しいことこの上ない。

九人分の名前を必死に頭の中で復唱するあたしに、リゾットさんが言う。
「頼みがある」
「あ、はい?なんでしょう。性欲処理はちょっと考えさせてもらって良いですか」
「俺達が外出できるような服を明日、買って来て欲しい」
すごく重要な部分をスルーされた気がする。まあでもあたしあなた達なら処女なりに頑張れる……あれ、っていうか
「あなた方それがちょっとブッ飛んだファッションだっていう自覚はあったんですね」
「…………仕事の時の衣装だ」
「へえ〜そうなんですか」
やっぱり宴会芸専門の人たちなのかな。そう頭の中で完結して、あたしは部屋の反対側にあるスケジュール帳をリゾットさんに取ってもらった。
それにしてもリゾットさんカッコいいなあ。その隣のプロシュートさんもだしその後ろの変態と地味な人もよく見るとカッコいい。リゾットさん以外の人はどうやらあたしを警戒しているらしくじいっと見つめていた。
「そんなに見つめられたら照れちゃうんですけど。キャアー」
「良いから早く予定を確認しろ」
「えーっとですね……明日は……あ、無いですね」
誕生日なのに……と思ったらちょっと悲しくなったが、これから男性との共同生活を送れると思い直したらテンションは持ち直す。
スケジュール帳をぱんと閉じてあたしは一同を見渡した。
「一人じゃちょっと……全員分は無理かなという感じがするんですが」
「……一着ずつで構わないんだがな」
「えーやだやだデートしたーい」
「それが目的だろう」
「やだなあ……当たり前だろ」
「ホルマジオ。お前が一番まともだろう。お前が行け」
「ああ?」
奥で私のPSPを勝手にいじっていた(ああいいさもっと触れ)ギアッチョさんと一緒にホルマジオさんが顔を上げた。あたしとリゾットさんを見比べる。
「めんどくせえなあああ〜〜〜女とデートってのは良いけどよお〜〜〜……つーかリゾット、この機械やばくね?日本やばくね?」
「行くそうだ」
「リゾットさんって基本人の話きかないんですね」
しっかり突っ込んでから、もう一度スケジュール帳を開いて書き込んでおいた。ATSUSHIとデート。プロシュートさんでもよかったな。
「おい雪子、このゲームやっていい?」
「あ、別にいいですよ。データ消さないでくださいね。あたしの半生費やしてるんで」
素直に目を輝かせるホルマジオさんと輝きを隠しきれないギアッチョさんが嬉々としてゲームのスイッチを入れた音がした。ギアッチョさんの横からメローネさんが覗き込んでいる。
どうしようかなあたし。テレビでも見るかな。
「やっべェ!これ……え?これ綺麗すぎね」
「日本住みてえー」
「俺はギアッチョの中に入りたベネッ!!」
俯せになってくるくるチャンネルを回してみるもののみんなの様子が気になって仕方が無い。まるで女子寮の会話を盗み聞きする男子のようにあたしは落ち着かなかった。が、ちらりと後ろを振り向くと明らかな違和感があった。


「………………なんか足りなくないですか」
狭い部屋だ。簡単に人数を数えられる。いち、に、さん……八人しかいない。ゲーム組三人、プロシュートさんは夕刊(読めるの?)、ペッシさんはきょろきょろ落ち着かない様子だし、リゾットさんは黄昏れていてソルジェラさんはイチャついている。いないのは誰だ。あたしの独り言に唯一気が付いたリゾットさんが顔を上げてじっと部屋を見つめた。

「……………………全員いる」
「いやいやいやいやいや足りないっしょ。さすがのあたしも数は数えられますよ。一応学校の成績は良かったんで」
「そうか?」
「いませんって一人。誰かなあ」
「ああー――ッメローネてめえ何すんだよッ!!」
唐突に立ち上がったギアッチョさんが、あたしの水色のPSPをメローネさんにたたき付けた。


たたき付け……


「「ああー―――――ッ!!」」
「ちょっとギアッチョさんなんてことを!!」
「あとちょっとで倒せたのにィィ」
「あああああギアッチョ!そこっ……そこだっ!あぁあんっ」
「きしょい声出すんじゃねええええ!!」
「おいッうるせーぞテメーら!ちったあ静かにできねえのかッ!俺が編集後記読んでる時は黙れっつってんだろうがッ!!」
「あたしのPSP!!」
あたしは慌てて畳の上に落ちたPSPに駆け寄ったが既に手遅れだった。何度スイッチをオンしてみても画面が暗いまま。あたしは死のうと思った。
「ああああああもう生きていけない……明日死にます」
「メモリーカードがあるんじゃないのか」
「あ、そっか。加藤くんにPSPもらお」
「ぎゃあああああ触んな!!きたねー手で!!」
「俺オナニーした後は基本的にシャワー浴びるから汚くないぜ」
「え?今日浴びた?」
「あっ浴びてねえわ」
「だあああああもうやっぱきたねーじゃねえかッ!!」
「しょおがねえなあ〜〜〜〜……雪子、こっち借りるぜェェー」
「いいですよ……ただしカメラついてない方にしてくださいね」
PSPの破片を片付けながら、はっと気が付いた。

あたし……疲れてる。

時計を見た。夜中の一時。またこの人達が来てから二時間も経ってないのに、なんだこの疲労感は。精力……じゃねえや体力には自信があったのに、どうして疲れてるの?

「なんでですかね、プロシュートさん……」
「寄んな」
げし、と鳩尾をつま先で蹴飛ばされたあたしはプロシュートさんのおみ足に抱き着くのを断念した。期待を込めてリゾットさんを見ると目を逸らされた。照れんなよ。

あたしがホルマジオさんにちょっかいをかけようとすると、どんどんどんどん!と大きな音がした。ドアを叩く音だ。続いてインターホンの無駄にでかい音も連続で鳴る。メローネさんとギアッチョさん以外がそれぞれ顔を見合わせた。
「雪子、お前のうちにはこんな深夜に客が来るのか」
「いや、別にデリヘルとか呼んでないんですけど……」
「そんなことを聞いたんじゃな『おい!佐藤!てめーうるっせーんだよ!何やってんだよ!』「あ加藤くんだ」
「カトー?」
「お隣りさんです」
ちちくりあいをしているメローネさんとギアッチョさんの横をなんとか抜けて玄関へ向かう。途中半開きのバスルームを何の気無しに覗いたら何かいた気がしたが見なかった事にした。
チェーンを外してドアを思い切り押し開ける。
「ぶッ」
「あっごめん。それじゃ」
「待てよ」
鼻を赤くした加藤くんが、閉じようとしたドアをがっちり掴んできた。
加藤くんは高校の同級生だ。サッカー部なのに腕力も強い。今は一見爽やかな大学生なのだけど、怒ると誰よりも怖いことでこのアパート内じゃ有名だ。ちなみにあたしは五回加藤くんをマジギレさせたことがある。ちなみに結構モテるけど、濃い外人顔が好みの私にはあんまりモテない。ちなみに三回くらいお風呂を覗いた事がある。
「佐藤お前何やってんだよ。うるせえんだよ。あとウチのベランダに忍び込んでパンツ干すのやめろって言ったよな」
「あたしが連れ込んだんじゃないよ!みんながどうしてもって……」
「どうした」
リゾットさんがひょいとドアを押し開けた。よろつくあたしと加藤くん。加藤くんが目を丸くしてあたしとリゾットさんを見比べた。
「……………………」
「……………………」
「あ、この人リゾットさん。あたしの夫なんいたたたたリゾットさん足、足踏んでる」
「……………………どうも」
「……………………」
「……えーっと……あれ?おかしいな。なにかなこの空気。あっもしかしてあたしの取り合いとかかな?照れるー」
冗談は通じなかった。
二人の視線のやりとりが何を意味しているのか。あたしにはどうしても解らず、高い位置にある二人の頭を見比べる。
「うわッ今気付いた!リゾットさん胸板近い!」
「雪子。こいつが加藤か」
「あ、そうですよ。カッコいいでしょ。あたしが仕事無い日は色々貸してくれるんですよ」
「お前が勝手に持ってってるだけじゃん。まだ俺の部屋マヨネーズの匂いするんだからな」
この間、マヨネーズを加藤くんの部屋の畳の隙間に塗り込めたからだ。
「ごめん。舐めに行こっか」
「来んな」
「加藤。悪いが今日から雪子にスペースを借りる事になった。大人数だから喧しいと思うが、諸々の事情があってここ以外の場所に住む事ができない」
「あっ……はあ」
加藤くんは外国人にめっぽう弱い。この間山中ちゃん誘って原宿行った時にもインド人かなんかに絡まれてた。
「あの……日本語お上手ですね」
「Grazie」
「おい、何やってんだ?虫が入って来てんぞ」
加藤くんが一歩あとじさった。リゾットさんを押し退けてマネキンのような顔を覗かせたプロシュートさんを見上げて固まる加藤くんはつついたら後ろへ倒れてしまいそうだ。まつげを撫でようとするあたしの頭を押さえつけて、プロシュートさんがじっと加藤くんを見下ろした。
「あんだァこいつ。敵か」
「いや、雪子の友人らしい。心配はいらないだろう」
「んならさっさと閉めろ。おい、坊主。喧しいってんなら引っ越せ」
「プロシュートさんの言う通ォりだ!引っ越すべき!引っ越してPSPをあたしに……あいだだだだ」
「お前は調子のんな」
あたしの耳を思い切り爪の先で抓ってから、プロシュートさんは部屋へ戻って行った。リゾットさんは一度あたしが痛がるのをちらりと見下ろしてからするりと後に続く。後ろの方でギアッチョさんがキレた甲高い声とメローネさんの甘い声とイルーゾォさんのヒステリックでネガティブな声が響いている。あ、今プロシュートさんの怒鳴り声も聞こえた。呆然とあたしの後ろを見つめる加藤くんの虚ろな目を覗き込む。
「おーい」
「…………」
目の前でてのひらをヒラヒラやった所でようやく加藤くんが、切れ長の目をぱちぱちやってあたしを見た。

「……………………お前明日死ぬの?」
「え?なんぞ?」
意味がわからなすぎて今度はあたしがぱちぱちした目を、加藤くんは心配そうな顔をして見下ろしていた。

20090907

加藤くんの思考:大量の男(しかも外人)を連れ込んでいる→誕生日だから?→どうやって?→大金がいるよな→借金?→返せないよな→人間やめるのか……

- 3 -


[*前] | [次#]
ページ:




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -