小さなお店
2012/03/07
本日も変わらずの営業中、ナッツ。三月は決済で忙しいのにも関わらず雲雀がディナータイムで来ていた。
「お疲れですねぇ」
ことりとカウンターに置くのは雲雀が注文した料理。綱吉は底無しだと思っている雲雀の体力も、底はちゃんとあるらしい。そこそこ大きなトップに君臨するまだ若い先輩は、それだけ苦労もあるのだろう。綱吉にはわからないが。
「ほんとに今月はね。君のとこもだろう?」
「うちは小さい店ですから。そんな大変じゃないですよ」
「手伝わない?」
「無理っす」
だろうねと笑う彼に軽口を叩く余裕があるのかと綱吉も安堵する。最も余裕のあまりない雲雀は見たこともないのだが。
料理に口をつけ始めた雲雀には綱吉もあまり自分から話しかけることはない。静かに食べる彼を思っての事だ。そこで客足が減り始めた時間故、雑談をしながら獄寺や奈々と洗い物等の後片付けを始めていた。
「そういえば君に預かり物があったっけ」
大半食べ終えた雲雀はふと口にした。思い出したように鞄を探り、お目当ての物をカウンターへと置いた。
「オレに?」
「君に」
きょとんとする綱吉を予測に彼はそれを差し出した。それは小さな小包みで、差出人等は書いていない。
洗い物をしていた手を止め軽く拭き、受け取ってまじまじと見てもなんの変哲もない。小さな小包みだ。
「なんすか、それ」
「さあ?てか誰から」
獄寺に聞かれたとて答えられるはずもなく。ちなみに獄寺は綱吉が洗った物を拭いていくという、やっているのは簡単作業だ。
「うちの取引先」
「どこだよ」
獄寺が言うのも当然だろう。雲雀の企業の取引先はいくつかある。それらすべて知っているわけではないし、知らないところの方が多い。
「綱吉はわかると思うよ」
「わかるんスか?」
それだけ言って雲雀は残りにまた箸をつけた。獄寺は小包みを見る綱吉を見つめるが、綱吉はひっくり返してみたりしているだけで開けようとはしなかった。
「…まさかの取引先?」
「君にとってはまさかかもね」
「まじかよ」
嫌な顔を隠そうとしない綱吉に獄寺は疑問しか出て来ない。一体獄寺は何度綱吉に疑問を浮かべただろうか。
綱吉はため息をつくと、カウンター前の棚(のような高さのところ)にそれを置いて洗い物を再開した。
「大変だね」
「大変ですね」
少々げんなりしながら答えれば、くすくすと雲雀に笑われる。
綱吉の旧友が絡むと時折こういう多くを語らないが、意思疎通できるところがあり、獄寺は嫉妬にも似た感情を覚えた。自分が同い年くらいだったらそんな想いをしなくて済んだのかと考える程、無理な話と自嘲してしまう。
「ごちそうさま」
そう青年が悶々とする間に雲雀も食べ終わり、一息つく。ちまちまと洗い物をしていた綱吉も、同時期に終えた。
先程から会話に参加しない奈々はといえば、雲雀を除いた本日最後の客と会計を終えた後に、その客と楽しそうに雑談している。
「これ返品可能?」
「無理だね」
「即答されたよちくしょう」
「そんな嫌なんですか」
「嫌だよこんなの。何が悲しくて雲雀さん経由で受け取らなきゃいけないの」
ため息と出る言葉に相当なんだと獄寺は予測する。そんな様子を見る雲雀はくすくすとでも笑うかのように眺めているだけだ。
「君を見てれば飽きないけど、僕もそろそろ行くよ」
「あ、はい。ありがとうございました」
まだ若干小包みのことで頭を抱える綱吉はどこかぼんやりとしながら雲雀を見送る。雲雀は雑談を終えた奈々のところへ会計をしに行ったが、会計の途中でまたふと思い出したように綱吉の方へと顔を向けた。
「綱吉」
「え、ああ、なんですか?」
「向こうも諦め悪いからね。頑張りなよ」
それだけ言えばお釣りを貰い、からんころんと音をたてて店を出て行った。なんのことかしらと小首かしげる奈々だが、closeのプレートを下げに外に出る。
「綱吉さん」
「んあー?」
雲雀の言葉にがっくりと肩を落とす。そこまで嫌がる相手は誰かとやはり気になる。あまり自分のことをぺらぺらと喋らない綱吉だからこそかもしれない。好奇心が勝ってしまう。
「誰なんですか?」
「小包み?」
「小包みです。綱吉さんがそんな嫌がるなんて誰なんです?」
「あー……」
言葉を濁して獄寺から目をそらそうと、獄寺は綱吉をじっと見つめたままである。
片付けを再開して、少し悩んだ揚句目線を獄寺へと向けた。
「父親と親戚。嫌いじゃないんだけど欝陶しいことが多々あってねぇ」
「え、じゃあヒバリの取引先って…」
「うちの親族んとこも取引先なんだよ」
奈々の呑気な問い掛けとは逆に、目を丸くする獄寺の驚きには底はないらしい。
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綱吉の親族だから彼らですはい。
どんな企業なんだろ。
幅広いだろうなあ。
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