小さなお店
2011/06/15




常連客がほとんど来ない日。そんな日は基本ナッツは暇である。大通りから外れた場所にあるここは一見さんが珍しい店なのだから。
だがこうも暇な時は珍しい。誰かしら客はやって来るのだが、常連客は海外だったり仕事が立て込んでいたりするのだと事前に聞いている。それがたまたま重なっているのだった。

「うーん。上がりましょうか、獄寺君」
「わかりました。俺食べて帰りますね」
「賄い出すよ?」
「や、いいです!今日はここで食べて帰ります!」

バイトの獄寺はナッツでバイトをしていて一人暮らしであるとは言えど、金銭に困っているわけではない。それでも何故バイトをするかと言えば一番はこの店が好きだから、その他は少しでも自分で稼いでいたいから。ただそれだけだ。

「それじゃあお疲れ様」
「獄寺君お疲れ様」
「はい、お疲れ様です」

そう言って彼は奥に消えた。客がいなければ店は9時半には閉店だ。そのあたりのさじ加減、とでも言うのだろうか。それは類い稀なる綱吉の直感のおかげで無駄な出費は省かれている。
時計を見れば9時より少し前。奥で何やら電話で話をしているようで獄寺は出て来ない。
それならば閉店準備でもしようかとテーブル席から綱吉が拭きはじめた。奈々は奈々で獄寺が奥に消えた後、聞いておいたメニューを作り始めた。
一つ一つ丁寧に拭いている時に音がして客が一人入って来た。

「いらっしゃいませー…え」
「よう」

にかりと笑う彼はこの店にはあまり来ない、いや来れない人物だった。

「山本!?」
「あら、久しぶりね」
「お久しぶりっス。ツナも久しぶり」
「久しぶりすぎるよ!」

わあと手を止めて綱吉が駆け寄れば昔と変わらない笑顔で背の高い彼は綱吉の頭をくしゃくしゃと撫でる。照れ臭いのだがそれを受け入れさせるような笑顔を彼はしていた。

「とりあえずどうぞ」
「あざっす。ツナも座れよ」
「ああ、うん」
「何にする?」
「じゃあハンバーグで」
「かしこまりました。ツっ君はそこに座ってなさいな」
「ありがとう」

ごゆっくりと奈々は獄寺のと同時に山本の物も作りだした。ハンバーグの形は作ってあるのでメインのそれはあとは焼くだけだ。

「すみません奈々さん!遅くなって!」
「大丈夫よ。まだ作ってる最中だから。お座りなさいな」
「ありがとうございます」

ひょっこり慌ただしく出て来て奈々にそう言ってカウンター席に座ろうと正面を向けば獄寺の動きが止まった。ぴたりという効果音がまさしく合う。

「綱吉さん」
「あ、話は終わったの?」
「終わりました。誰っスか」

きぃと睨むようにして見るは綱吉の隣に座る山本。睨まれた山本はハハハと笑っているため余計に獄寺の苛立ちを募らせた。

「山本武。オレの中学からの友達だよ」
「どーも」
「テレビで見たことない?プロの野球選手なんだよ」
「あんまテレビ見ないんで…」
「そっか。ま、オレの親友なんだ。てかおいでよ」

ぽんぽんと自分の隣を叩いて促す。親友と言う言葉にぴくりと眉を動かしたが、はあ。と味気ない返事をして獄寺はそこに座った。しかし頬杖をついて眉間に皴は寄せたままだ。

「山本ほんと久しぶりだよね。急にどうしたの?」
「久しぶりにツナの顔見たくなって。それにおばさんの料理もな」
「半年以上会ってなかったもんねー。活躍知ってるよ」
「見てくれてんの?」
「当たり前だろ。昔みたいに見には行けないけど、それくらい知ってるよ!」
「ありがとうなー」
「二人ともお待たせ」

どうぞと二人に食事が出される。険しい顔をしていた獄寺もいただきますと受け取り、笑顔で話しをしていた山本もさらに顔を明るくした。その間に綱吉はcloseと書かれたプレートを扉に下げに行った。

「山本君も獄寺君も美味しそうに食べてくれるから好きだわあ」
「奈々さんの料理が本当に美味いからですよ!」
「そうそう。久しぶりだけどほんと美味いのな」
「ありがとうね」

にっこりと笑って奈々は山本が来る前にもちょこちょことしていた片付けを再開した。綱吉のいない二人には無言が続くが、初対面なのだ。当たり前である。

「なあ」

先に沈黙を破ったのは獄寺だった。

「ん?」
「中学から綱吉さんを知ってるんだって?」
「ああ。同級生だしな」
「……中学生の綱吉さんってどんな人だったんだ?」
「俺のヒーロー」
「はあ?」
「だからツナは俺のヒーローなんだよ」
「山本!獄寺君に何吹き込んでんの!」

そりゃ綱吉さんはもの凄く素晴らしいが何のヒーローだ。そう獄寺が聞こうとした時に外の閉店準備終えたを綱吉がもう!と戻ってきた。

「ツナは俺のヒーローだって言ったの」
「逆じゃん!山本がオレのヒーローなんだよ」
「お互いがヒーローってことだなー」
「あーもうそれでいい」

一緒だなと笑う山本に、はぁとため息を綱吉が零すものだから獄寺はそれ以上聞けなくなってしまった。ヒーロー、とまで言うのだから何かあったに違いないのだが、それがなんなのかわからない彼はもどかしさでいっぱいだ。

「山本天然だから真に受けちゃ駄目だよ?」
「え、いや」
「なんだよ、事実なんだけどな」
「はいはい」

親友とまで言うからだろうか。会ってなかった時間など感じさせないような空気である。しかしその空気は獄寺をおいてきぼりにさせたようで不快にもさせるのだが。

「ツナ今度試合来るか?」
「え、行きたい!」
「じゃあ来いよ。俺またチケット持って来るわ。獄寺だっけ?お前も」
「は?なんで俺が」
「せっかくだし獄寺君も一緒に行こうよ」
「是非!」

山本ではなく綱吉から、と言うのが獄寺を動かすのだ。懐かれてんなあ。と山本が言うように大変懐かれている。

「楽しみにしてるね!」
「おう!昔みたいに応援よろしくな」
「もちろん。任せてよ!」












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めっちゃ長なった…!

山本武 24歳
中学からのツナの親友。現在プロ野球で活躍中。天然だがたまに爆弾を落とす。
爽やかなマスクで気さくな性格ゆえに若い子からおばさままで女子人気はかなり高い。ヒット率も結構良い時が多いためおじさまからも人気。人気については応援思いありがたく思っているが黄色い声の女子人気は気付いてすらいない。
ツナがヒーローなのは原作通りに山本を救ったから。
シーズン中はあまりナッツには来ないが時折ふと現れる。シーズンオフになるとよく顔を出す。ナッツには山本のサイン第一号(ツナへと書かれている)が飾られている。
実は執着心強そう。

獄寺の電話相手はビアンキあたりで。



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