生き残るにはスキルが必要だ そういえば仲が良い常連客がいると言っていたな。最初の発言から何回か来ていることは分かっていたし、彼女がその常連なのか。 出来上がったハムサンドとアイスティーを持っていき、安室は礼を言う彼女に笑みを返して梓に目を向けた。 「あの、梓さん、彼女が前言ってた・・・?」 「そうです!滝沢椿ちゃん。週に何回か来てくれるお得意様ですよ!」 「人が少ない平日に出現することが多いレア度の低い常連客です。どうぞよろしく」 え、前言ってたって何?梓ちゃん私のこと安室さんに話してたの?推しに変なこと言ってないよね? 戸惑って少し素が出てしまった。レア度ってなんだ。 いけないいけない、私は可愛い大人女子・・・ハムサンドうんまい。 「あ、そうだ梓ちゃん。お土産買ってきたわよ」 ようやく出番が回ってきた持ってきた紙袋を膝に乗せて中に手を突っ込む。 いくつか入ってたそれを順番に机に出していった。 「紅芋タルトでしょー、黒糖でしょー。ちんすこうは味が色々あったからいくつか買って来たし・・・お店に飾ったらかわいいと思ってちっこいシーサーの置物。それと泡盛に、さんぴん茶、黒糖チョコレート・・・こんなものね。 本当は海ぶどうも持ってきたかったけど流石に生物は駄目だと思って」 「相変わらず多くない?」 「いいじゃない安室さんも入ったんだから。あ、安室さんも遠慮なく食べてくださいね」 カウンターに並べられた土産に梓が呆れた表情を浮かべる。 安室も彼女が持っていた大きな紙袋の中身が全てポアロ宛だという事に少し驚いた表情をしていた。 「僕も良いんですか?ありがとうございます」 「うふふー、いいんですよぅ。行きつけのお店にイケメンさんが入るなんて嬉しいです。旅行控えてこっちにお金落とそうかしら」 カウンターに両肘をついて上目づかいでにっこり笑う。 安室は、梓が彼女を"エロ可愛い"と言った理由が分かった気がした。成程あざとい。 一方の梓はさっそくシーサーの置物を店に飾り、満足そうな表情をしていた。 しかし「そういえば」と思い出したように声を上げると椿に目を向ける。 「今回の旅行ちょっと長くなかった?何かあったの?」 「んーん。今回の旅行ね、ちょっとダイビングのライセンス取りに行くためだったんだけど」 「ダイビングのライセンスゥ!?」 「え?えぇ・・・OWDとAOWのW取得。国内外のほとんどのダイビングポイントで潜れるライセンスよ。初めの一週間くらいでそれをとって・・・あとは経験積むためにひたすら潜ったり、観光したりしてたの」 「前に山登り行ったと思ったら今度は海・・・椿ちゃんったら何目指してるの?」 オカシイナ、今日は梓ちゃんに呆れられてばかりいる気がする。安室さんも「アクティブな方ですね」と苦笑いしてるし。 仕方ないじゃないか前世では会社の妖精さんばりに社畜してて何も出来なかったんだから。朝出社したら仕事が出来上がってたのは私の仕業ですよ。 「出来るうちにやりたいことをやらないと。それにほら、こういう経験って絶対無駄じゃないでしょう?」 ほら、この世界じゃ何のスキルが必要になるか分からないですし・・・。 何でもかんでもやっておいて損はないと思うんだ。 「確かにそうだけどねぇ」 「疲れていると思わぬ怪我をすることもありますから、無理はしないでくださいね」 「はぁい」 心配してくれるのは嬉しいんだけどね安室さん。 その言葉、トリプルフェイスやってるあなたにそっくりそのままバットで打ち返しますよ。 そう思いながらハムサンドの最後の一口を口に放り込んだ。 [ back ] |