常連客E | ナノ

推しが眩しい

「いらっしゃいませ!一名様ですか?」

突然ですがここで問題です。
行きつけの店で前触れなく推しのイケボイケメンが目の前に現れたら貴方はどうしますか?

──パタン

開けたばかりのドアをそっと閉める。
そして眉間を押さえて俯いた。

「(おっかしいな。今前世で推しだったイケメンがいた気がする)」

ちょっと旅行行ってる間にこんな急展開が・・・。
いや現実逃避であることは分かってる。分かってるけど・・・心の準備が・・・。

「あの、大丈夫ですか・・・?」

深呼吸をして心を落ち着けていたところで目の前のドアが開けられた。
ひょいと顔を出した安室は心配そうな表情で椿を見ている。
俯いていた彼女はすぐに顔を上げて笑みを張り付けると、「大丈夫です」と返事をして改めて店に入った。

「ごめんなさい、久しぶりに来たら前はいなかったイケメンの店員さんがいたんでびっくりして・・・」
「少し前に入ったんです。まだまだ新人で・・・あ、カウンター席とテーブル席、どちらがよろしいですか?」
「カウンターでお願いします」

元の調子を取り戻した椿はカウンターに座り、ゆるりと肘をついてメニューを見る。
あ、メニュー表のレイアウトが少し変わってる。ハムサンドが一押しになってる。

「失礼します、お冷とおしぼりです。ご注文が決まりましたらお呼びくださいね」
「あ、決まってるのでお願いします。ハムサンドとアイスティーで」

かしこまりました。そう言ってキッチンに戻る安室を眺める。
あぁ、かっこいいなぁ。料理もスポーツも出来て頭も良いなんて羨ましい。
これからは旅行控えて通い詰めようかな・・・いやでもあまり仲良くなりすぎても危ない気がするし、私の命が。
やっぱ数いる常連客に留まっておくのが無難かな。勿体ないけど。

そういえば梓ちゃんかマスターはいないのだろうか。
お土産を持ってきたから渡したいんだけど・・・流石に初対面の安室さんに渡すのは良くないだろうし。
そう思っていたら。

「安室さん、こっち終わりました。そちらは大丈夫でしたか?」
「ありがとうございます。こちらは大丈夫ですよ」

馴染みの声が聞こえてスタッフオンリーの扉を見る。丁度椿に気付いて驚いた表情を浮かべた梓と目が合った。
続けてお互いが顔を明るくさせる。

「椿ちゃん!久しぶり!」
「ただいま梓ちゃん!久しぶりね!梓ちゃんに会いに来たら新しい店員さんがいてびっくりしたのよ。今日はいないかと思った」
「ごめんねぇ、裏にいたの。あ、彼は安室透さん。一か月前くらいに入ったんだけど、もう色々覚えちゃって私がアドバイス貰う事もあるくらいで・・・」

きゃー!と若い女の子特有のテンションではしゃぐ二人。
安室はその二人を見てポカンとした表情を浮かべた。


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