若い女の子が集まれば ある日、いつも通り来たはずのポアロの雰囲気がいつもと違った。 「椿ちゃんいらっしゃい!珍しいわね、休日のお昼時に来るなんて」 がやがやと賑やかな店内と出迎えてくれた梓ちゃんの言葉に、あぁ人が多いんだなと気付く。 しかし休日?今日は月曜日だから平日のはずだけど。 一人意味が分からず考え始めるが、答えが出る前に「椿さん!」と声を掛けられて思考を中断する。 目を向ければ入口から然程離れてないテーブル席に前に会ったきりだった蘭ちゃんと園子ちゃんとコナン君が座っていた。 「お久しぶりです。よろしければご一緒しませんか?」 「いいの?じゃあお邪魔しようかしら」 蘭ちゃんの嬉しいお誘いに乗って梓ちゃんに「相席するわ」と伝える。 あ、あと卵サンドとトマトサラダとコーヒーお願い。 笑顔で頷いた彼女は水とおしぼりを用意しにキッチンへ、私は蘭ちゃん達が座る席へ向かった。 「久しぶりね。覚えていてくれて嬉しいわ」 「梓さんからよく話を聞いていたので」 「今日はどうしたんですか?休みの日は人が多いからあまり来ないらしいのに」 席に着くと同時に飛んできた疑問に改めて首を傾げる。先程も思ったが今日は月曜日だから平日のはずだけれど。 すると私の表情を読み取ったのか向かいに座っていたコナン君が「あのね椿お姉さん」と口を開いた。 「今日振り替え休日だよ?日曜日の昨日が祝日だったから」 「あっ、そっかぁ」 言われてようやく気付いた。そうか、今日振り替え休日か。 所有してる株の会社に大きなニュースがなくて株価チェックをしてなかったから気付かなかった。 だから人が多かったのか・・・蘭ちゃん達がいてくれて良かったな。 「休日は人が多くてゆっくりするには向いていないから・・・でも今日は来てラッキーだったわ。また会いたいと思っていた貴方達に会えたんだもの。それだけで家を出た甲斐があるというものよ」 もちろんコーヒーなどが美味しいから来ているというのもあるけど、梓ちゃん達とのお喋りを楽しみに来ているという面もあるから。休日の今日来たことは失敗だったけどヒロインちゃん達とのエンカウントは正直美味しい。 「そういえば椿さん!ちょーっと聞きたいことが!」 「どうしたの園子ちゃん」 持ってきてくれたおしぼりで手を拭いてお水を飲んでいたらそわそわした様子の園子ちゃんが身を乗り出して声を掛けてきた。 この年代の女の子っているだけで雰囲気が華やぐよねぇ。 「椿さんって安室さんのことどう思っているんですか!?」 「わぁ、直球」 軽いジャブもなくいきなりストレートを叩き込んできた彼女に思わず心の声が零れた。 蘭ちゃんも心なしかワクワクしているようだし、隣の名探偵も──いや、彼はどうでもいいのかオレンジジュースを飲みながら取り敢えずといった様子で私に目を向けている。 この様子だとまだ安室さんがバーボンだと判明していなさそうだ。 「安室さん?もちろん格好いいなぁって思うわよ」 「じゃあやっぱり好きですか!?」 「うふふ、それはどうかしら。大人になると顔が良いというだけで恋愛対象になるわけじゃなくなるから」 唇に人差し指を立ててにっこり笑う。 何も知らなかったら惚れてたかもしれないけど、いろいろ前知識がある上にまだ2.5次元感覚だからなぁ。彼の事は好きだがガチの恋愛かと聞かれたらちょっと違う気がする。 しかしその答えでは目の前の女子高生たちは納得できないようだ。 「うそ!梓さんから聞いてるんだから!安室さんと椿さんがとても仲良いって!」 「やだ梓ちゃんったらジェラシー?可愛いこと。でも梓ちゃんの方が仲が良いわよ。安室さんの連絡先は知らないけど梓ちゃんの連絡先は知ってるし、たまに一緒にお買い物したりする仲だもの」 「もー、聞きたいのは梓さんとのことじゃなくってぇ!」 のらりくらりと躱す私に園子ちゃんが拗ねた表情をする。いいじゃない彼とは本当に何もないんだから。 蘭ちゃんも恋バナを楽しみにしてたのか少し残念そうに笑っていた。ごめんね。 「でもさぁ。安室さん、よく椿お姉さんに口説かれるって言ってたよ?」 おおっと、こんな所に伏兵が。大人しくオレンジジュースを啜っていたコナン君が不意に爆弾を放り込んできた。 何、君も物足りなかったの?僕関係ありませんーみたいな態度だったけど存外恋バナ楽しむタイプなの? もちろんそれを聞いた蘭ちゃん達はテンションうなぎ上り。「きゃー!!」という黄色い悲鳴が賑やかな店内に溶けた。 「安室さんを口説いてるんですか!?」 「椿さんったら肉食!」 ちがう、誤解だ。というか安室さんも見た目小1の男の子に何てこと吹き込んでんだ。 「もう、違うわよ。ただ「格好良い」だとか「会えてうれしい」だとか言ってるだけ」 「それを口説くっていうんじゃない!」 「梓ちゃんにもマスターにも同じような事言ってるわ。挨拶代わりのようなものよ。ほらさっき蘭ちゃん達にも言ったじゃない」 「それは・・・確かに」 私がここに座った時の事を思い出してようやく納得した様子の女子高生二人。 「えー、面白くなーい」なんて言ってるけど安室さんに恋したところで碌な結果にならないことは見えている。 「だーかーらー、安室さんのことはイケメンの店員さんっていう認識なのよ・・・ね、コナンくーん」 「はーい、ごめんなさーい」 にっこりと笑顔を向ければ悪びれなさそうに子供っぽく謝罪するコナン君。もう、可愛いから許しちゃう。 推しだけじゃなくメインキャラ達が可愛くて癒された時間だった。 梓ちゃんが持ってきてくれた卵サンドの一口目を食べたところで早くもそう締めくくった一日。 [ back ] |