常連客E | ナノ

ただの店員と常連でお願いします

振り向けばキラキラ輝く爽やか笑顔。今日も無駄にイケメンですね。
──いやいや駄目だ。あまり仲良くなりすぎると巻き込まれスキルも身に付いてしまう。彼のお誘いを断るのととても勿体ないけど命には代えられない。

「ごめんなさい、買い物は一人でするタイプなんです。それに男の人にとったらあっちこっち見て回る女性の買い物なんて退屈でしょう。これから回るところですし、お忙しい安室さんの貴重な時間をいただくわけにはいきません」
「おや、今日の仕事は終わったと言ったはずですが・・・そんなに僕は忙しく見えますかね」

そりゃ忙しいでしょう。公安に組織にアルバイト兼探偵なんだから。
でもそんなことは言えないから不自然にならない代わりの言葉を探す。
疑われてるように聞こえるのは私が色々知ってるという後ろめたさがあるからでしょうか。

「アルバイトはともかく探偵の仕事は調べたり現地に行ったり人と会ったりとやることが多いでしょう。それに毛利さんの助手ともなれば更に危険だったり難しい事もあるでしょうし・・・」
「まぁ確かにそうですが。でも女性の買い物に付き合う余裕はありますよ。さ、行きましょうか」

ねぇなんで手つないでるの一緒に歩いてんのお店入ってんの。いや「これ似合いそうですよいかがですか」じゃないんだよ。アッ、でもこの服可愛い──いや買うって決めてないからレジ行くなまずは試着だ。

──安室さんの見立てがドンピシャすぎて怖い。

試着室の中で頭を抱える。悔しいけど可愛いし似合うから買おう。──と思ったらもうお金は払ったという。安室さんコワイ。

・・・え、本当に怖い。私達ただの店員と常連なんですが。

元の服に着替えて、ショップ袋を持った安室さんと店を出る。
ジッと胡乱気な視線を送っていれば困ったような笑みを返された。

「お一人で見て回りたいと言っていたところに無理に付いて来てしまったお詫びです」
「分かっててついて来たというのだから安室さんって大物ですよね」
「ありがとうございます。さぁ、次行きましょうか」

嫌味を言っても笑顔でスルーされた。この男やりおる。

何だかんだでしばらく一緒に回っていたが、流石というべきか何というか買い物のお供としてかなり優秀だった。
迷う時は一緒に迷ってくれるし、本気でどうしようか考えてたらアドバイスをくれる。似合わないものを選んでいたら「こっちの方が似合いますよ」とさり気無く誘導してくれる。
一人で買い物するよりも余程有意義だった。

「・・・悔しいけど一緒に回って正解でした」
「それは良かった。本当は邪魔になってるんじゃないかって少し不安だったんです」
「そんなわけないじゃないですか。むしろ私の好みをよく分かってたので驚きましたよ」
「ポアロに来てくださってる時にどういった物を身につけているか見てますから。そういえば椿さん、カフェで僕を見つけて後を追ってきたと言っていましたがどこのカフェですか?」
「んー・・・二階の、確か東側にあるお店ですよ。ほら、緑のロゴの」

少し考えて返せば安室さんは「二階の東」と呟いて考え込んでしまった。
思えば結構長くつけていたな。近付いた瞬間すぐに気付かれたけれど。

・・・あれ、長くつけてた?一般人の私が、あの安室さんでバーボンで降谷さんなこの人を?

アカンやつや、これ。
どんどん難しい顔になってきてる安室さんの心の内が予想出来る。大方「僕が一般人の尾行に気付かないわけがない。まさかコイツ・・・」てな感じだろう。
でも本当に一般人なんですよ。余計な心労をかけて申し訳ない。
再び私に向いた顔には少し陰のある笑顔が浮かんでいた。やだ滲み出るバーボンみが格好いい。

「僕もまだまだ未熟ですね。尾行に集中していて自分がつけられていることに気付かないなんて。椿さん、意外と探偵の才能あるんじゃないですか?」
「もし仕事であれだったらターゲットが何してるか分からないし見失っておしまいですよ。浮気の証拠集めるとかとても・・・あ、でも望遠鏡あればいけますね」
「は?」
「え?」
「・・・望遠鏡?」
「はい。望遠鏡」

何を言っているか分からないと言った表情でこちらを見た安室さんに笑顔で返す。
しばらく無言の彼だったが、ようやく話が呑み込めたのかそれとも意味が分からないままなのか、「どこから見てたんですか」と先程よりかは少し柔らかくなった声で問われた。

「えー、ずっと遠くの・・・ここからだとあそこのフードコートくらいの距離からです」

振り返ってずっと向こうの、小さく見えるフードコートを指さす。
その距離を確認した安室さんの表情は呆れを含んだ柔らかいものに変わっていた。

「遠すぎません?」
「探偵さん相手ですしお仕事の邪魔をしたらいけないと思いまして」
「確かにこの距離じゃ気付けませんね。探偵として仕事するにも難しいですが・・・」
「望遠鏡あれば大丈夫です」
「覗きながら歩いていたら怪しいですよ」

すっかり和んだ雰囲気に戻り、ショッピングは再開した。
とても有意義なお買い物でした。


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