常連客E | ナノ

探偵を尾行してみた

服が欲しい。
そう思い立った私はショッピングモールに来ていた。
まずは腹ごしらえとカフェに入り、スマホでデパートに入っているブランドにお得情報がないかと調べていく。
それが終わって丁度飲み物もなくなったため席を立った──否、立とうとしたところで止まった。

「(あれ、安室さん?)」

顔を上げた時丁度安室さんらしき人が店の前を通って行ったのが見えたのだ。
すぐに過ぎてしまったため数秒しか見えなかったし、帽子を目深に被ってたから本当に安室さんか分からないけど。
でももし本物であの格好だとしたら探偵のお仕事かな。
・・・気になる。

急いで立って伝票をレジへ持っていく。
丁度でお金を払って店を出て彼が歩いて行った方向に目を向けたら──あ、いた。
あれはやっぱり安室さんだな。
平日で人が多すぎないからすぐに見つかって、そのままどうしようか考える。
もし尾行だったら邪魔するのは良くないよね。でも推しの探偵の姿・・・見たい。

考えた結果、いつ見失ってもおかしくない程の距離を開けて付いて行くことにした。

フロアを歩いては立ち止まり、エレベーターに乗って──時折俯いて何やらしているようだけど離れすぎていて全く分からない。
辺りを気にしてる様子もないし、やっぱり尾行かな。浮気現場とか?
うわぁ、ターゲットが気になる。

しかしただでさえ安室さんを見失わないギリギリな距離で付いていってるのだ。ターゲットなど見えるわけない。
・・・でも意外とバレてないし、もう少し近付いてみてもいいかな。
尾行相手に気付かれない様に気を張っているならその分自分の周りの事は疎かになるはず。
近付き過ぎなければ意外といけるかもしれない。
ただ安室さんが視線に敏感だという事は前にアポロで確認済みだから、そこは気を付けないと。

少し足を速めて、視線は念のため安室さんの向こう側を見る。これなら視界には入ってるから大まかな動きは分かる。
私意外と探偵とか向いているのではないだろうか。安室さん相手に尾行出来てるぞ。なんだか楽しくなってきた。


──そう思っていた過去の椿よ。気付け、お前は一般人だ。

「こんにちは、椿さん」
「アッ、こんにちは安室さん」

角を曲がったところを追いかけたら曲がったすぐのところで安室さんが立っていた。
ニッコリ笑って挨拶されたため反射的に同じように返す。
「こんなところで会うなんて奇遇ですね」と──えぇ、本当に。

「今日はショッピングですか?それとも僕に会いに来てくれたんですか?」
「んもう、意地悪な言い方しないでください。ショッピング・・・というかショッピング前の腹ごしらえをしてたら安室さんがカフェの前を通ったんです。建物の中にしては帽子を目深に被っていたので探偵のお仕事中かなって気になっちゃって・・・」

「ごめんなさい」と両の手を合わせて窺うように彼を見る。
それよりも私に構っていていいのだろうか。いやむしろ私の下手な尾行の所為でターゲットに気付かれたとか?え、そんなんだったら責任取りきれない。

「まったく・・・万が一あなたに被害があったら大変なので控えてくださいね。あぁ、もう今日の仕事は終わったので大丈夫ですよ。椿さんはこれから回るんですか?」
「はい。そろそろ新しい洋服が欲しくなって・・・ということで、私はこれで。お仕事邪魔しちゃって本当にすみませんでした」

早くここから消えよう。私は常連客だからね、あまりプライベートで関わりを持つのは良くない。
──と思っていたのだけれど。

「待ってください。せっかくなので一緒に回りませんか?」

これなんて乙女ゲーム?


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