捜索記 | ナノ

5-2

「あの、大変失礼しました」

人の少ないところまで移動して、短刀達から事の次第を聞いた一期一振は素直に頭を下げた。

「前に色々あってどうにも人は好きでは──いえ、その、苦手で・・・冷静ではありませんでした」

嫌いなんですね、はい。
何、どこの本丸でも一期一振は人嫌いなの?穏やかで面倒見が良いって聞いた記憶があるんだけど。弟限定か?
というか粟田口が集まってるけど偶然なのだろうか。もしかして選出方法が変わったとか・・・むしろそれを願うばかりである。

「まぁ苦手なものに囲まれたなら仕方ないよね、うん。結果的に逃げられたわけだし、いいんじゃない?」

人が苦手、なんて、君達を知ってる私だから違和感ないけどさ。一般人がそれ聞いたら絶対「お前も人間だろ」って突っ込まれるからね。

「あの、本当にありがとうございました。僕達だけじゃどうしたら良いか分からなかったので・・・」
「いいよいいよ。私から話しかけたんだし」

まさかこんな面倒事だとは思わなかったけどな!
そんな心の内は上手に隠して軽快に笑う。さて、そろそろ花火の時間だし失礼するか。
四人に花火の場所取りに行くからこの辺でと分かれる方向に持っていく。
しかし「それじゃ」と軽く手を振りながら歩き出したところで、不意に服の裾が引っ張られた。
足を止めて振り返れば手を伸ばしていた不安げな表情の五虎退と目が合う。

「す、すみません。でも、その、助けていただいたので、何かお礼を・・・」

・・・良い子すぎる可愛い(確信)
はっ、いかんいかん。向こうでは戯れたかったのに話すこともままならなかったからつい。
短刀と戯れてみたかった身としてはありがたい申し出だし喜んで受け入れたいところ。なのだが、人が苦手と言った一期一振からしたらこれ以上人間とかかわるのは避けたいんじゃなかろうか。
ちらっと彼を見てみれば難しい表情をしていた。
人は好きじゃないけど助けてもらったからには何かしなければとか考えているのだろうか。律儀な男である。
やっぱり根本の性格はとても良いんだろうな。

「・・・そうですね。花火を見る時に食べるものでもいかがですか?我々も買おうと思っていたので」

わぁ、大人。でもそんな無理しないで顔に出てるよ。

「本当に気にしないで。それよりお兄さんは少し休んだ方が良い。この暗さでも分かるくらい顔色が悪いからね。花火は・・・人の少ない所で見るか、明日もやるから出直すかするのを勧めるよ。
 ──あぁそうだ、少し待ってて」

具合の悪そうな一期一振をしっかり看てるよう短刀達に言って、出店に向かって走る。
運良く人がいなかった屋台で人数分買ったそれを持って再び走って四人の元へ帰ってきた。

「ほら、冷やしパイン。蒸し暑いと余計具合悪くなりそうだし、これならさっぱりしてるから食べやすいでしょ」

本当は水でも買ってこられたら良かったけど飲み物を売ってる屋台が見当たらなかったからこれで我慢してほしい。
かき氷は行列作ってたし定番すぎてもう食べてるかもしれないからやめた。

冷やしパインを差し出す私に彼等は驚いた表情になり、まず短刀達が控えめに嬉しそうな、しかし貰っていいものか迷う顔になって冷やしパインと一期一振にチラチラと視線を行き来させる。

美味しそう。食べたいな。でも人嫌いのいち兄の前で貰うのは良くないかな。
そんなことを考えてるのがすごく分かる。

そしてそれを一期一振は当然のように理解しているのだろう。
少し逡巡した後、難しい顔のまま「お気遣いありがとうございます」と礼を言って私の手から冷やしパインを一本取った。

それを見た短刀達は顔を明るくさせる。彼が貰い受けたという事はOKが出たという事だ。
僕も、僕も、と三人共が手を伸ばしてきたため順番に配ってあげれば、まだ少し遠慮が残る笑顔で礼を言ってくれた。
可愛いなぁ、なんて思いながら顔をあげると今度は一期一振と目が合う。

「色々と気を使わせてしまって申し訳ありません。お礼をと思っていたのに逆にいただいてしまう始末で・・・」
「いいよ気にしないで。トラウマは──えっと、うーん・・・心の傷はそう簡単に克服できるものじゃないし、人間嫌いなのにその群れに放り込まれたんだから気が動転したり体調を崩すのも無理ない」
「しかしこれだけ迷惑をかけたのに礼も詫びもなしというわけには」

面倒臭い性格だなコイツ!というか真面目すぎる。
人に関わりたくないくせに、助けてもらって迷惑をかけたからって礼やら詫びやらを考えるなんて。

・・・なんというか、前は下手に出るけどしっかり反対してくるいけ好かない奴って印象が強かったけど、こうして向き合ってみると性格が良すぎて逆に難儀ってのがよく分かるよなぁ。

「別にお返しが欲しくて助けたわけじゃないし。
 ・・・まぁそんなに気にするなら、あれだ。人間の中には君達に害をなす悪い人もいれば、私みたいに善意で動く良い人もいるってことを頭の隅にでも置いといてよ」

え?善意だけで動いたんじゃないだろうって?・・・いいんだよこういうのは綺麗にまとめとけば。
きっと私のこの言葉がどこぞの審神者さんと一期一振の距離を縮めるのに一役買ってくれるはずだよ。知らないけど。

「それじゃお大事に。あまり考え込みすぎると禿げるぞ!子ども達も良い夏を!」

花火の場所取りに行くべく歩き出して、後ろ手にひらりと手を振る。やばい、今の私超格好良い。

余談だが花火を写真に収めようとしたけど何枚か撮って出来を確認したところでスマホをしまった。タイミングが難しすぎる。


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