6-1 とある平日、仕事で大きなビルに入っている取引先の会社に顔を出していた。 書類を渡して話し合いをして、ようやく応接室を出たのは夕方。 今日はもう直帰で良いと許可が出ている。夕食でも買って帰ろう。 一階に下りたところでコンビニを見つけて、そういえば喉が渇いたと思い水を購入した。 近くのベンチに座って蓋を開けて一口。あー今日も疲れた。 ボーっと道行く人を眺めていればスーツを着ている人もいれば私服の人もいる。 仕事の時ってスーツと私服、どっちが楽なのかなぁ。 私的には着るものに悩まなくていいスーツの方が楽だと思うけど、汚れたら簡単に洗えないし動きにくいのもあるし・・・かといって私服は毎日着るもの考えないといけないし流行もあるし。 どっちもどっちか。なんてところまで考えが至ったところで、視界に周りより背の高い二人の男が入ってきて自然と目がいった。 背、高ぁ。がたいも良いし。スーツ良く似合ってる──な? 「ん˝っ!!ぐふぅ!」 飲んでいた水が気管に入った。やばい、陸で溺れる。 口元を手で押さえて抑え気味に咳込みえづいた。 いやだって仕方ない。仕方ないじゃないか。 太郎太刀と蜥蜴切──あれ、蜥蜴?なんか違うような・・・うんまぁいいか──がスーツ着て歩いてたんだもの。 そして気管に水の浸入を許したのは驚いたからだけじゃない。あの二人のスーツ姿があまりにも似合わなすぎて・・・いやある意味似合いすぎて?笑いをこらえようとしたからでもある。 付喪神独特の雰囲気があって、顔もまぁ美丈夫ではあるものの厳格。 和服が似合う古き良き日本男児だというのに・・・スーツ・・・! 周りの人がチラチラ見て避けているのには気づいてんのかな。 超浮いてるよ全然平成に馴染めてない。絶対パンピーに見られてないって。裏社会に生きる人間だと思われてるって。 体を丸めて笑いそうになるのを全力で抑える。 こんな所で吹き出してみろ。「なんだアイツ」みたいな目で見られるし、奴等にも失礼すぎる。 ふぐ、えぐ、と喉辺りから変な音がなるがなんとかそこで抑え込んでいた。 そんな時だった。 「大丈夫ですか」 頭の上から降ってくる声。ヤバい聞き覚えがあり過ぎる。 しかし声を掛けられた以上答えないわけにもいかず、そろりと顔を上げる。 太郎太刀と蜥蜴切が眉を寄せてこちらを見下ろしていた。 「ぐっ!」 「お、おい!?」 「どうしたのですか!」 吹き出しそうになったのを腹を抱えて歯を食い縛って耐えた私が相当具合が悪そうに見えたらしい。 少し焦った様子で二人が声を掛けてきた。 やめてくれ私は今お前達がもたらした笑いの神と死闘を繰り広げているんだ。 「いや、大っ、丈夫・・・っふ、」 「大丈夫には見えないのですが・・・」 「発作か何かか?医者を呼んだ方が」 「いや大丈夫だから、うん。もう大丈夫」 はー、と大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせる。 ようやく笑いが収まってきた。 改めて彼等を見てみると、まぁ見事なほどにヤーさんだ。 太郎太刀がボスで蜥蜴切が側近ってとこかな・・・いや考えるなまた吹き出しそうになる。というか何でそんな恰好してんの、二人共。 「すみません、ご心配お掛けしたみたいで・・・お仕事中じゃなかったですか?足止めしてしまいましたよね」 「いえ、仕事ではないのでお気になさらず」 お気になさらずってかその格好で仕事中という設定じゃないのはある意味ヤバいと思うぞ。私だから良かったもののせめてサラリーマン装え。 あとこのクソ暑い夏に、冷房効いてる室内とはいえボタン上まで閉めてジャケット着込んでるのは見てて暑苦しい。 「・・・それならいいですけど。でも仕事じゃないならスーツはやめた方が良いですよ」 「社会人として間違いではない恰好のはずだが・・・」 「いやそうなんですけどほら、貴方達ちょっと目立つというか・・・裏社会に生きてる人みたいな雰囲気が拭えないというか」 「はぁ・・・」 よく分からないといった様子の二人。 さっきから思ってたけど蜥蜴切のタメの違和感半端ないな。普段はこんな感じなのか。 審神者として話した時は敬語だったから新たな一面というか・・・まぁ新たな一面と言えるほどよく話してたわけじゃないけど。 そんな話をしていたところ、不意に周りの目が集まっている事に気が付いた。 あれ私達もしかして目立ってたりする?・・・いや普通に目立つわただのOLがオーラだだ漏れな大男二人に囲まれてんだから。 「あー、とりあえずあれだ。私そろそろ帰りますね」 このビルで働いてる人に顔を覚えられたら出入りしづらくなる。さっさとここを離れよう。 まだ心配そうにしている二人に大丈夫だと手を振って、ちょっと街中をブラブラしてから帰ろうかなぁと考えながらビルを出た。 [ back ] |