捜索記 | ナノ

5-1

花火大会のお知らせ、というチラシがポストに入っていた。
場所は電車で行ける近場の港で出店もあるらしい。要するに夏祭りだ。初夏だから少し早い気はするけど。

「(あー、もうそんな時期か)」

そういえば去年の今頃はまだまだ職場の信頼を取り戻すのに必死だったなぁ。久しぶりに花火見たいし、ちょっと行ってみようか。

──────────

ということでジワリと滲むような暑さの中、さらに熱気で熱くなるお祭りにやってきた。
人ごみは嫌だけどやっぱりこういうイベントは大人でもテンション上がるよね。

お、林檎飴ある。お祭り来るとこれだけは食べたいんだよなぁ。
ちなみに夜ご飯は食べてきた。だってお祭り会場の物価は異常だもの・・・。
焼きそば五百円って。お好み焼き六百円って。
人件費とか光熱費とか設備費用がかかるから仕方ないとはいえ──うん、出店側も客側もそれぞれ大変である。

特に子連れなんて大変だろうなぁ。なんて思いながら林檎飴片手に祭りの雰囲気を楽しんでいたら。
道の脇にずれて屋台で買った物を食べる人々の中にひときわ目立つ人だかりがあった。

チラッと軽く目を向ければ女性が集まってキャイキャイと騒いでいる。
声を聞くに良い男がいるらしい。名前教えてやら一緒に回ろやら聞こえてくる。
パワフルな女の子達だなぁ・・・お祭りテンションですかね。派手目な子ばかりだから相手も相当ブイブイいわせてる野郎と見た。

まぁ私には関係のないことだ。せいぜい人の迷惑にならないようにしてくれ。
あまり興味も湧かなかったため視線を外す──と、目に入った見覚えある子ども達。

思わず空いてる手で顔を覆った。
またお前等か。

秋田、五虎退、信濃。今日はカラフル短刀ズだけか。流石に虎くんはいなかった。
そしてその三人は困ったように女性達の塊を見ては顔を見合わせていた。
今度はどうしたよ・・・。

どうせ碌な事じゃない。
そう思ったがやはり知り合いが困っているのを見過ごすというのは気分が良くなく、「あぁもう!」と悪態をついてその三人に近付いた。

「こんばんは、僕達。どうしたの?お母さんとはぐれちゃった?」

振り向いた三人は少し警戒を含んだ驚いた表情を浮かべるが逃げることはなかった。
この中では一番上の信濃が困ったように眉を下げて「あれ」と女性の人だかりを指さす。

「いち兄──あ、俺達のお兄ちゃんね。ちょっと一人になった隙に囲まれちゃってさ。俺達じゃどうしようもなくって」
「あ〜・・・あ〜〜」

何か言おうとして、でも言葉が見つからなくて意味を成さない言葉で終わる。
え、なに。あそこの中心でブイブイ言わせてるの一期一振なの?

まじかやっぱ話しかけなければ良かったかな。

本丸で良い印象を持っていなかった相手が出てきてついそう思ってしまった。
しかし声を掛けてしまい話も聞いてしまったからにはどうにかしないといけない気がする。
これを一蹴してその場を去りたいという欲求が良心に負けた。
仕方ないからさっさと解決してさっさと去ろう。

「それは大変だね。もうすぐ花火の時間だし、ちゃちゃっと取り戻しちゃおうか」
「て、手伝ってくれるんですか・・・?」
「声かけちゃったからね。んじゃお兄ちゃん奪還任務の作戦は定番のあれでいこう」
「定番のあれ、ですか?」

三人が不思議そうに首を傾げる。可愛い。
そう、定番の作戦だよ。

「私とお兄さんと君達を家族という設定にします」

作戦会議だよ、と声を掛けてから話し始めれば流石戦場へ赴く刀剣男士。真剣に、しかし何をするのかと少し楽しそうな表情で顔を寄せてくれた。

「私が母親、お兄さんが父親、で、君達が息子。私があの女の子達の塊に割って入りながらお兄さんに親しげに話しかけるから、後ろから付いてきて『お父さん何やってるの』『早く行こうよ』とかなんでもいいから、大きめの声で言って。
 お兄さんに家族がいると分かれば女の人達も諦めるはずだから、ささっと連れ出そう」

軽い作戦会議が終わり、四人顔を見合わせて頷く。
立ち上がって短刀達に後ろをついてくるように言ってから女性ばかりの人だかりに向き合った。

うわあの中に突っ込むのか・・・言い出しておいてなんだけどギャルとか苦手なんだ。早く終わらせよう。

未だ黄色い声が上がる塊に謝りながら割って入っていく。
一人どかすごとに「邪魔よ」「何アンタ」「横入りすんな」等々の悪態を吐かれて心折れそうです。

それでもようやくその人だかりを抜ければ、相変わらず王子様フェイスな一期一振が心底困った様子で立っていた。
そりゃこんだけ格好良い男が祭り会場に一人となれば女の子ホイホイになるよな。
性格は品行方正で大人しいけど髪色が派手だから彼を知らない人からしたら遊び人に見えるのかもしれないし。

「こんな所にいた!もう、探したんだからね!子ども達見ててって言ったじゃない!」

グッと腕を掴んで、周りの女の子達に聞こえるように声を上げる。
そこに予定通り短刀達も集まって一期一振を取り囲んだ。

「父上、こんな所で何しているんですか?」
「は、早く行きましょう・・・!」
「花火の場所取りしないとだからさ。弟達のために良い場所確保しないと。ね?」

代わる代わる声を掛けながら四人で彼を引っ張って人だかりを抜けようとする。
周りの女性達も私達のやり取りを見て妻子持ちかと残念そうな顔に変わっていった。
やっぱこの作戦、定番すぎるけど一番効果あるよなぁ。

──なんて思っていたところで。

「あ、あの、どちら様ですか?秋田達、この方はいったい・・・?」

一期一振よ、空気読め。

余計な言葉でその場の全員が固まる。
そして私の顔は引き攣り、短刀達は困惑した顔になり、周りの女性達の反応は言うまでもない。

おいどうしてくれるんだこの空気。最後の最後、撤収ってところで地雷踏み抜きやがって。
こちとら面倒事だと分かってることに親切心と良心を総動員してやっとこさ重い腰を上げたんだぞ。

ははっ。思わず零れてしまった笑い声は自分のものながら随分低かった。
信濃に「目が据わってるよ」と指摘されてしまうが仕方のないことだと思う許してほしい。

悪いのは一期一振、お前だ。

据わってる、と言われたその眼を一期一振に向けたまま、親指を立ててクイッと人の輪の外に向けた。

「表出な」


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