4 デパートの催し会場で期間限定ジブリ展が開催されているらしい。 やることがなくて暇していた休日、SNSにその情報が載っているのを見つけて何とはなしに行ってみることにした。 「(ハウルの動く城と千と千尋の神隠しの展示スペース見たいなぁ)」 都会に住んでいるとこういうイベントに気軽に行けるのが良い。 電車一本とかバス一本ですぐだからね。 というわけで丁度いい時間にバスがあったためそれに乗り、デパートの目の前で降りたのだが。 何やらまたも見覚えある背の高い男が焦った様子で道行く人に声を掛けて回っていた。 わー、知ってるあの刀剣男士。膝丸でしょ。私が審神者やってる時にさんざん手を焼いた奴だ。 しかしまぁ所変われば品変わるとはよく言ったもので。あんなに必死になって探すくらい、いなくなったという審神者が大切だったのだろう。 少し離れていたため今回は話しかけられることはなくデパートに入った。 場所がかなり上の方なためエレベーターを使おうと思い地図で確認して人だかりの中を歩く。 やっぱり休日のデパートは混むな。 スタッフに誘導されて乗り込んだエレベーターは上の階まで直通だから便利だ。 軽快な音が指定した階への到着を知らせてくれて、エレベーターを下りれば少し離れたところにジブリ展の入口が設置されていた。 パンフレットをとってルートにそって展示品を見ていく。 ワンフロア全体を使っているお蔭でなかなか広くて見どころがある展示会だ。来て良かった。 最後の所で物販もしていると書いてあるから何か買っていこうかな。そう思いながらまた一つ角を曲がれば。 先の方に楽しみにしていたハウルの動く城の展示があった。 そしてその一角に人が集まっている。 「(他よりも混んでるんだけど・・・なんかあるのかな)」 歩きながらその一角をじっと見つめていればどうやら一人の人を中心としていることに気付いた。 背の高い金髪・・・写真ねだられてるしハウルのレイヤーさんかな?あれだけ人が集まってるってことは完成度の高いイケメンと見た。しかしこんな所にいるなんて。 せっかくだから一緒に写真撮ってもらおう。 「すみませーん!私も写真良いですか?」 「うんうん、いいよー」 くるり、こちらを振り向いて快諾してくれたレイヤーさん──レイヤーさん? ──おい待て。ガッツリ見覚えあるんだが。 い、いや、コスプレだから似てるのは当たり前だ・・・そんなはずは。 「お名前聞いても良いですか」 「僕?髭切だよ。源氏の重宝、髭切さ」 でしょうね知ってた! なんでいるの前もいたじゃんまたクジを引き当てたの? というか何故ジブリの、よりにもよってハウルの動く城の展示スペースに・・・こんなに目立つ容姿なのにジャストフィット過ぎて違和感持つ人いないじゃん。 初めて見た時から髭切って雰囲気とか容姿とかハウルに似てると思ってたんだ。 ・・・あれ、もしかしてバス降りた時に見た膝丸、この人探してた? うん、絶対そうだ。だって膝丸は切羽詰まってる様子だったし、髭切は主探しにこんな所まで入ってくる必要はないだろうし。 うーん、膝丸はあまり好かないやつだけど、この人が一般人に余計な情報を漏らす前に引き渡してあげた方が良さそうだなぁ。 「へぇ。えっと、髭切さん、今日はお一人ですか?この展示会のためにコスプ──仮装して来たんですか?」 「いや?この展示会に来たわけじゃないし弟と他の仲間も一緒だよ。僕達刀剣男士ってい「そうですか迷子ですかここ広いですもんね!!」」 誰かコイツに守秘義務教えて差し上げろ。 これは不味いと思い、一緒に探しますよと彼の腕を引っ張って少し強引に人だかりを抜ける。 「何あの女」みたいな声をポツポツいただいたが止めてくる人はいなかったため早足でジブリ展を出て一階まで直通のエレベーターに乗り込んだ。 あぁ、なんか一気に気疲れした。 「えっと、どこではぐれたか分かりますか?」 「うーん、この建物の中だよ。どこだったかは覚えてないや」 たぶん六人で来てるはずだから、この建物ではぐれたならあとの五人もデパート内にいる可能性が高い。 まずは外にいた膝丸を見に行ってみよう。まだあそこにいるか分からないけど。 一階についたエレベーターを降りて外に向かう。 しかし出入り口付近で髭切が「あ」と声を零したことに気付いて二人して足を止めた。 「あれ、弟だ」 そう呟く彼が見ている先に私も顔を向ければ、なるほど辺りを見渡しながら足早に店内を歩く膝丸の姿がある。 よかった。あちこち探し回る前に見つかって。 「探してるみたいだから行ってあげて」と背を押せば彼は頷いて膝丸へ向かって歩いていった。 「──あ!兄者!やっと見つけた・・・いつの間にかいなくなったから心配したんだぞ」 「ごめんごめん。上の方に行ったら何故か人の子に囲まれて動けなくなってしまってね」 「大丈夫だったのか!?」 「うん。女の子に助けてもらったから」 「女子に?」 振り返る髭切につられて膝丸も兄の視線を追って彼の向こう側に目を向ける。しかしそこには髭切を連れてきた女の姿はなく、行きかう人々しか映らなかった。 髭切がゆるりと首を傾げる。 「ありゃ?さっきまでいたんだけどな」 「そうなのか?兄者が世話になったなら礼が言いたかったんだが・・・」 顔を顰める膝丸だがいないなら仕方がないと思考を切り替え、皆も探しているから早く合流しようと兄に告げる。 二人がエスカレーターに乗ってその階から去ったあと、私は物陰でホッと息を吐いてから思った。 ──お前等ほんと来るたびに迷子出すのやめろよ! [ back ] |