捜索記 | ナノ

3-2

「あの、さ」

コーンスープを飲み始めてしばらく。
ガン見してくる二人に「飲みにくいなー」なんて思いながらスプーンを動かしていると、ようやく決心がついたのか自分も注文したウーロン茶で口を潤した加州が控えめに声を掛けてきた。
手を止めて彼に顔を向ければ一瞬目が合ってすぐに逸らされる。何故だ。

「えっと、変な事聞くけど。あー・・・前に俺達と会ったことない?」
「いつの時代のナンパだ」

おっといけない本音が。
思わず出てしまった言葉は横文字もあったせいか二人が不思議そうな反応する。
すぐに苦笑いでそれを躱して少し考えるふりをしたのち否の答えを返した。

「ないと思うよ。何?探してるの私に似てる人なの?」

というか人探ししてるの?時間遡行軍ブッ潰すのが君達の仕事じゃないの?
もしかして敵に寝返った審神者とかで指名手配されてたりするのかな。そしたらとんだとばっちりだ。

「似てるかは分からない。けど、歳とか得意な事とか・・・あと雰囲気とかが一緒だったから」

ええー・・・私と同い年で料理と体を動かすことが得意な女なんてこの日本に何百人いると思っているんだ。
雰囲気だって大体何タイプかに分かれてるだけで、そのグループ内で比べたら個人を特定できるほど違う事はないでしょ。

「他に何かないわけ?その程度の情報じゃ特定できないって」
「俺達も詳しい事分からないから手探りの状態なんだよ」

ええ・・・君達何探してるんだよ。ってか探してるのにその対象のことを分かってないってどういうことなの・・・。

「・・・見つかるのそれ」
「相手は僕達の顔を知ってるから会えば教えてくれると思うんだ」

いや分からんぞ。私みたいに面倒事に巻き込まれたくなくて知らない振りするやつもいるからな。
真剣な表情の二人に罪悪感を感じて心の中でそっと土下座する。
二人が探してる人が私のような人間でありませんように・・・。

「とりあえず、この感じだと俺達が探してるのはあんたじゃないみたいだね」
「うんまぁ・・・なんかごめんね」
「や、こっちこそ無理に連れてきてごめん」

条件にぴったり当てはまる人が現れて気が高ぶってしまったらしい。
何だかんだグダグダと話していたら落ち着いてきたようで初めのような勢いは消えていた。

「情報少ないし正直その人の事まだあまり知らないからさ・・・。でも大事な人だから絶対見つけたいんだ」
「皆も頑張ってるしね」
「みんな?」

そういや前に見た子達はこの二人と同じ本丸の刀剣だろうか。同じ本丸なら是非とも捜索メンバーの選出方法を聞きたい。
何がどうやったらあのふざけた部隊編成になるのか気になる。

「そう。俺達の──うーん、仲間?同士?っていえばいいのかな。何十といるんだけど」
「凄い数で探してるんだね」
「ううん。全員は来られないから六人一組を一週間ずつ回してる」

だよね。
顔の良い男共が群れになって都会を闊歩する姿を想像してみる。

人の目を引く色とりどりの髪の毛・・・にじみ出る古風な雰囲気・・・軍人顔負けの鍛え上げられた肉体・・・一部の自由な奴等による行方不明者続出・・・ウッ、頭痛が・・・。
周りには既婚未婚年齢問わず女性が群がるんですよね分かります。

出陣と同じで制限があるのか分からないけど六人で正解だと思うよ。
というか前に見た子達ってやっぱこいつ等と同じ本丸だよなぁ。あの人選は酷かったけど誰が決めたんだ。

「まぁその六人を決めるのってクジ引きなんだけどね」

「くじびき」

思わず真顔になった。
くじ。くじ引き?お前等本気で人探しする気あんのか。
道理で捜索には向かない奴等がいると思ったよ。
六人中三人が自由人じゃもう出発前から目的達成は絶望的だよ。
誰か待ったをかけてくれる冷静な人はいなかったのだろうか・・・。

「初っ端から自由な奴等が一緒になっちゃったよね」
「あれに入らなくて良かったよ」
「はぁ・・・」

私が会ったメンバーのことか。それなら全力で同意したい。

というか結局こいつら何探してるん?
ふと何度も疑問に思った一番重要なそこを思い出して、最後の一口のハンバーグを口に放り込んで聞いてみれば二人は顔を合わせて少し逡巡した。

「あー・・・いや、まぁ、ちょっとね」
「え、言いづらい事?一般人の私に声かけてきたし別に危ない人じゃないんでしょ?」
「いやそうなんだけどさ。ちょっと現実的じゃないというか・・・たぶん聞いたら『何コイツ』ってなると思うから・・・」
「いいじゃん私達これっきりだろうし。気まずくなってももう会うことないよ」

ずっと気になってたんで教えてください。とは言えないから軽い調子で促してみる。
しばらく二人で「どうする?」「流石に軽率じゃ」「でもそんなに警戒することは」とかなんとか話し合っていたが、結果まぁいいかとOKになったらしい。
「無闇に人に言ったらいけないんだけど」と前置きして話し始めた。

「俺達、主探してるんだよね」
「はぁ、主?」
「そう、主。何十人いるって言った仲間を率いる大将。
 付き合い短いけど信頼できる人でさ・・・でも急にいなくなったんだ」
「で、この辺に住んでるって話してたから皆で探してるわけ」
「へぇー・・・。でもなんでその信頼してる人の顔とか知らないの?会ってるんだよね?」

短い付き合いとはいえ信頼に値すると判断できる程度には一緒にいたんだろう。名前を知らないのは仕方ないとはいえ、顔を知らないとはどういう事か。
至極当然の疑問をぶつけてみるが、その質問に二人は少し困った顔をした。

「会ってはいるんだけど・・・ちょっと事情があってさ。顔は知らないんだ」
「ふうん。そりゃ大変だ」

そういえば政府に出向いた時に布で顔を隠してる人もいたっけ・・・それじゃ顔知らなくても仕方ないよなぁ。
というか人探しに一番必要な情報であろう顔を知らないのに、それで見つかる日は来るのだろうか。

アイスティーも飲み干して伝票を持って立ち上がる。
もう日も落ちてきたし人を探してるのだからあまり時間をとったらいけないだろう。

「あっ、連れてきたの俺達だし払うよ!」
「いや良いよこれくらい。人探しで歩き回ってんだろうからお疲れ様ってことで」

チーズハンバーグセットと、加州・大和守のウーロン茶二つ。別に痛い出費ではない。
慌てて後を追ってきた二人を宥めてお金を払う。
「男が食べさせてもらうなんて」だの「この時代の女子ってみんなそうなのかな」だのブツブツ言っていたが、それでも店を出たところでお礼の言葉をいただいた。

「いいっていいって。こっちこそ人探しの途中で時間取っちゃってごめんね。あまり他人に言っちゃいけなさそうな事も聞いちゃったし」
「箝口令敷かれてるわけじゃないから大丈夫。それになんとなくあんた話しやすくてさ」
「だよね。親しみやすいっていうか・・・一緒にいると落ち着く。主に似てるからかも」
「あはは、ありがとう。その主さん、早く見つかるといいね」

やっぱ私もしばらく向こうにいたから審神者特有の雰囲気というかオーラみたいなのが馴染むのかな。
本当探してる人が早く見つかると良いんだけど。
短い付き合いだとか急にいなくなっただとか、ちょっと状況が似てたから感情移入してしまった。

「それじゃ、頑張って」
「うん。じゃあね」

手を振って、店の前で二人と別れた。


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