3-1 何故か現代で刀剣男士と会ってしまって遡行軍襲来かと思ったが、特にその後何かに巻き込まれるという事はなく平和に過ごしていた。 そんなある日の事。 今時珍しいほどのホワイト企業で定時に仕事を終えた私はいつも通り同僚達に声を掛けて職場を出た。 時間が時間で大きな駅だから仕事終わりのOLや学校帰りの学生にあふれていて人の流れが多いが、夜中まで残業するより余程良い。 今日の夕食は作り置きして冷凍しておいたハンバーグにしようとワクワクしながら歩いていた──ら。 前方に少し目立つ二人組の男の子がいた。 いや、別に服が奇抜とか変な動きをしているとかではなく。 何やら声を掛けては女の人が首を振って、そしたら次の人に、とやたらめったら女の人に声を掛けていたのだ。 しかも可愛い子だけではなく、言ってしまえばちょっと地味な人やポッチャリした人にも。 男の方は人生エンジョイしてそうなチャラ男なのに。後ろ姿しか見えないけど。 あれ私も声掛かるパターンかな。まぁ見てた感じしつこく付きまとわれるとかそういう事はないみたいだから別にいいか。 一瞬回り道をしようか迷ったが話しかけられたとしても一言二言で終わるようだからとこのまま突っ切ることに決めた。 もししつこくされたら「私、MARCH卒の人以外受け付けないんで」とか言っておこう。 「──あっ、そこのお姉さん!」 彼等の後ろの方を通り過ぎて数歩。少し張った声が聞こえたかと思えば軽く走ってくる足音の後に肩を叩かれた。 やっぱり来たか。 「はいはいなんでしょ、う」 クルリ、振り返って言葉が一瞬引っ込んだ。 長い襟足だけ結わえた黒髪に赤い瞳、赤い襟巻。 ポニーテールにした柔らかい黒髪に青い瞳、白い襟巻。 ・・・なんでそんな平成に馴染んでるんですか、加州清光と大和守安定。 思わず真顔になりかけたところを表情筋をフル稼働して笑顔を作る。 お前等本当平成に何しに来たの。前の迷子は見つかりましたか。というかあの時の刀剣男士達と同じ本丸の刀だろうか。 頭の中でいくつも疑問を投げかけるが声には出さない。だって第六感が止めとけと全力で訴えかけてくるから。 それで、何用でしょうか。 「あんた、歳は?」 「はぁ・・・?歳?」 え、年齢ですか。 予想外の質問に思わず聞き返してしまう。 ナンパで最重要するのが歳?え、容姿じゃなくて? 大丈夫だって。心配しなくても、間違っても「五百歳です」なんて言う子はいないから。 ここに歩く老若男女全員お前等より年下だから。 百年単位で存在してる刀剣達には十歳も五十歳もそう大きな違いはないだろ。 そんなツッコミが喉まで出かけたが、言ってしまえば面倒な事に巻き込まれかねないため大人しくお口チャック。 代わりに年齢を答えれば二人が目を合わせた。なんだよお前等より年下だろ。 「得意な事は?」 「あ、え、うーん・・・料理、とか、よくするけど」 「体動かすのは?」 「昔いろいろ習ってたからまぁ、普通よりは?」 貴方達を前にして体動かすのが得意だなんて言えるわけないじゃないですか。 というか何何何?前の人までこんなに食いついてなかったじゃん。 いくらイケメンでも怪しいよ。私でなかったら適当な理由付けて逃げ出してたよ。 「じゃ、じゃあ家は?この辺?近い?」 「えー・・・と、初対面の人に個人情報を晒すのはちょっと」 「それなら仲良くなろ!どこかでお茶とか・・・!」 「え、いや私明日も仕事だし家帰ってご飯「清光、夕餉食べられるところが良いって!」違うそうじゃない」 私の抗議は聞こえないらしい。なんで急に会話が成り立たなくなるんだ。 辺りを見渡してハンバーグのお店を見つけた二人に手を引かれてご来店──いや確かに夜はハンバーグにしようと思っていたけども。 「いらっしゃいませ」と声を掛けてきた店員さんに案内されて席に着く。 そわそわしながらも料理の注文を促してくれた二人に甘えてチーズハンバーグセットをオーダーした。 開き直り、大事。 店員さんに注文した後メニューを置いて一息。さっそく三人の間に沈黙が訪れた。 周りが煩くない程度にざわついているなか二人は私と目を合わせては逸らして、二人で顔を見合わせるという行動を繰り返していた。 それは注文したハンバーグが届くまで続いて、二人が口を開いたのは私がセットのスープに手を付けたときだった。 [ back ] |