捜索記 | ナノ

11-3

ナイスキャッチ蜻蛉切。というか彼が子虎を抱いているこの光景はどこかで見たことあるのだけど。
あと一期一振も一緒だったんですね安心しました。

「あの、いきなり虎投げてすみません。大丈夫でしたか」
「あぁ・・・驚いたがこの通り無事だ」

何とも言えないというか何か言いたげな蜻蛉切。
そりゃいきなり子虎投げられたり、それが知人の連れだったらそんな表情にもなるよな。本当申し訳ない。

「その、つかぬ事を聞くが」
「いやこの子虎たち私が盗んだとかじゃないよ!そっちの二匹は人の多いところで囲まれてたから避難させただけだし、その子は木に登って降りられなさそうだから助けただけで!えっと、どこから来たのかなー、なんて」
「そうではなくて・・・いや助かった。知人の連れだ。引き取ろう」

気まずげに笑顔を張り付けて言い訳を並べれば蜻蛉切は少し視線を彷徨わせてから"連れ"とやらに目をやった。
知ってる五虎退と鳴狐のお連れ様でしょう。というか子虎は二匹でいいのかな。

「狐とか虎って動物園・・・うん、見世物小屋?にしかいないし、こんなところで見つかったって噂になると大騒ぎになるから気を付けたほうがいいよ」
「そうだな。早めに撤収するとしよう」
「今剣、一期さん見つかってよかったね」
「はい!また おんなのひとたちに かこまれていなくて よかったです」

今剣の言葉に一期一振が苦笑いをこぼして頭を下げる。
私も大和守に助けられたということを思い出して、改めてお礼をしようと彼を振り返った。

「さっきは本当にありがと。あのまま落ちてたらたぶん骨が危なかった」
「だね。間に合ってよかったよ。
 それより、えっと、今剣と一期さんのことは知ってたり・・・?」
「あ〜、今剣とは何回か会ってたし一期さんとは家がお隣さんなんだよ。ついでにそっちの蜻蛉さんとも前に一回だけあったことある」

そう言ったら四人ともが驚いて顔を見合わせていた。
あれ?知らなかったの?・・・って、そりゃこっち名乗ってないし情報交換してても分かるわけないか。
いやでも審神者やってた時に読んだ冊子に名乗っちゃダメだって書いてあったし。

「とりあえず子虎と狐は早く家に帰したほうがいいよ。今の時代は情報伝達の技術が発達してて、ほんの数分で全国に情報が出回るから──あ、やば、人来たっぽい」

先に見えた人、しかも若者のグループだ。
あぁいうノリがよさそうな派手な人たちはすぐに写真撮るしSNSに流すからまずい。
説明した意味は分からなかっただろうが私が焦った様子から良くない状況を察したようで、今剣が三人に「いきますよ」と口早に促した。
一期一振が子虎と狐を抱えたのを確認して、大和守がこちらを振り返る。

「なんかいつもドタバタしてるね。ごめん」
「大丈夫大丈夫。気を付けてね」
「では、ぼくたちはこれでしつれいします」

大事になりませんようにと願いながら手を振って彼らと別れた。

──────────

あれ?あんなところに門なんてあったっけ?

駅に向かおうと道を歩いていたところ見覚えのない道とその先にある門を見つけた。
この神社の地図がすべて頭に入っているわけではないが、少なくともいつも駅から来て出入りしている所が近くにあってここに門があった記憶はない。

・・・まぁ、こっち方面からならここから出たほうが駅が近いし行ってみるか。

思い付きでその道を進むと門の隅にスーツを着てお面で顔を隠した人が二人いるのが見えた。
何をするでもなく立っている様子に訝しく思いながらもじろじろ見すぎないようにして歩いて──そして、あと数歩ですれ違うというところでそのスーツの二人が私の前に出てきた。

え、なんなの何か用ですか怖いです帰りたい。

しかしいきなり回れ右するわけにもいかず立ち止まって彼らの出方を見ることにする。
内ポケットに手を入れた時には「やべぇ奴に会っちまったオワタ」とか思ったが出てきたのは銃ではなく手のひらほどの小さい機械だった。

「これに息を吹きかけてください」
「え、いや、ええ?」

軽く操作した機械をこちらに渡してくるスーツその1──いやこれアルコールチェッカーってやつですよね。
え、ここでやるんですか。

「あの、私電車なんですけど・・・ていうかここでやる意味」

駐車場あっちですけど。ここから出ていくのバスか電車の人ですけど。
独り言とも抗議ともとれる言葉を零すが再びズイと機会を差し出されて仕方なく受け取る。
まぁ飲んでないからやったところで引っかかることはないし、万が一引っかかっても運転することはないからいいけどさ。

フー、と何秒間か息を吹きかける。すると画面に『測定中』の文字が出て、その後すぐピーピーと警告音が鳴った。

「え、私飲んでないですけど。車運転しないです電車です」

悪いことはしていないはずなのに何かやらかしたような気になってしまって焦る。
とりあえず返した機会をスーツその1が懐に入れると、その2と顔を合わせて再びこちらに目を向けた。

「すみません、お手数ですがご同行いただけますか」
「は!?いやどういうことですか。私飲んでないし運転もしません!」

硬い表情で告げられた内容に納得できなくて焦って反論する。
これどっか連れていかれんの?私なにもやってないじゃんどうしよう。

「──というのはまぁ冗談でして」
「は?」
「私共、こういう者です」

スーツその1がパッと手を挙げてヒラヒラ振りながら「冗談」だと言い出して、その2が内ポケットから名刺入れを取り出して一枚こちらによこしてきた。

──時間遡行軍対策本部人事教育局人材育成課

「・・・うわぁ」

相手の素性が分かった途端、思わず声がこぼれた。
こいつら政府の人間かよ不審者すぎる。

「初めて目にした部署かと思いますが、いたずらや紛い物ではなく政府に正式に所属する部署でございまして」
「いや私的には最初のアルコール検査のほうが気になったんですけど。あと私飲んでない」

何のための検査だよ。

「あー、あれ。いや一般の方々からしたらいきなりスーツ着た人に話しかけられて『時間遡行軍対策本部』なんて書かれた名刺差し出されたら、詐欺か誘拐だと警戒されて話すら聞いてもらえないかと思いまして。場を和ませようと」
「発想がザツい」

まじで連れてかれると思ったよむしろ何故それで和むと思った。
というかここ通る人みんなにこんなことやってたら本当に通報されかねないんだけど。

「で、和んだところでご相談なのですが」
「和んでないです」
「まず要件を要約すると、歴史を守るために部隊を率いる審神者になっていただきたいというスカウトでございます」

私の抗議を綺麗にスルーした彼が簡単に経緯と仕事内容を説明してくれた。
まぁつまるところ、各本丸の透明化を実施したところ一定数の逮捕者が出て審神者の絶対数が少なくなってしまったため急遽増員中とのことだ。
審神者ってそう簡単になれるもんなの?

「──という感じなのですがいかがですか」
「そんな、たまたま通っただけの私に言われても・・・」
「確かに通ったのはたまたまかもしれませんが、この道を通れたということは審神者になる資格があるということです」
「はぁ・・・?」

どういうことだろう。
その心境が顔に出ていたのだろう。
彼は通りを指さして衝撃の事実を教えてくれた。

「だってこの道、霊力ある人じゃないと見えないし通れないんですもん」
「うそやん」

道理で駅近の便利な出入り口なのに人っ子一人いないわけだよ。

「え、じゃあ私いきなり茂みに入っていった変な人に見えてたんじゃ・・・」
「茂みに入るどころか石垣に足突っ込んでそのまま消えてったって感じですかね」
「うわ、それまずいんじゃ」
「大丈夫ですって。よくあるよくある」
「(ねぇよ)」

動画に撮られてSNSにでもあげられてたらどうしてくれるんだ。
「どうでしょう」なんてこちらの返事を求めてくるけど、そもそも転職なんてそう簡単にするものじゃないし私今の職場気に入ってるし。

熱心な誘いを何度も丁重にお断りして、しまいには番号の書かれた名刺を押し付けられてようやく解放された。

「あ、最近この時代も物騒な話があがってるので気を付けてくださいね」

お前らこそ言葉には気をつけろその発言どう考えてもフラグだろうが。
そのあとは全力で走って電車に飛び乗って帰った。
おみくじは大吉だったのに一年の初っ端から疲れた一日でした。


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