11-2 えっと。 こういうエンカウントは想定していなかったですね、ハイ。 短刀達と別れて自然豊かな神社を散歩がてら歩いていたところ、道の隅にまた小さい人だかりを見つけた。 まさか一期一振かと思ったが今回はどうにも様子が違う。 女はもちろんのこと男も混じっていて、皆が一様にスマホを構えている。写真でも撮っているのだろうか。 そして気になって人だかりの隙間から覗いた先──子虎と狐が見えて「まじか」と口元を手で覆った。 いやなんで虎と狐。あの子等見覚えある超ある。 五虎退の子虎の一匹と、えっと、そう、鳴狐のお供だよ。なんでこんなところにいるの飼い主どうした。 反射的に辺りを見渡してみたが五虎退や鳴狐どころか刀剣男士の姿すらない。なんでこういう時に限っていないんだよふざけんな。 ってかコレどうすんの。 周りの人間たちは珍しい二匹に興奮して騒いでいる。 このままだと注目を集めるわSNSに投稿されるわで騒ぎになるのは時間の問題だ・・・え、まじどうすんの。新年早々私がやるしかない流れじゃん。 いやもう面倒くさい初っ端から面倒くささしかないよ作戦とか立てるの手間だしそもそも考えてる時間ないし準備も何もないし面倒だし──ってことで、私、いっきまーす。 ショルダーバッグを斜め掛けにしてジャンパーのフードを深くかぶって、人の群れの隙間にスルリと滑り込む。 すみませんごめんなさいと声を掛けながら騒ぎの中心に早歩きでたどり着いて、そして──子虎と狐を両脇に抱え込んだ瞬間、スタートダッシュをキメて目の前の森へ全力で飛び込んで我武者羅に駆け抜けた。 ────────── いつも会うときは動物はいないから本丸でお留守番でもしてるのかなと思ってたらよりにもよってこんな人の集まる時期に・・・勘弁してほしい。 たぶん立ち入り禁止となっているであろう──少なくとも一般人として立ち入るべきではないであろう神社の森を走ってしばらく。 人気の少ない庭園のようなところに出た。そしてさらに見つけてしまった。 そう、もう一匹の虎くんを。しかも樹齢の高そうな木の上にいる。 「・・・なんでやねん」 棒読みで突っ込む私に焦るお供に仲間を見つけて嬉しそうな虎くん。 静かなカオスである。 もうさ、こんなんさ、私がどうにかするしかないじゃん。 なんでこんな毎回毎回問題解決してるんだろ。 いや他の人からしたら、そんなに嫌なら放っておけばいいじゃんって感じなんだろうけどさ・・・そう簡単に割り切れたらこんなに悩んでないんだよ。 「君たちさ、大人しくしててね。あの子助けに行ってくるから」 虎くんはともかくお供は人の言葉を理解できてるはずだ。今は狐のふりしてるけど。 少し離れたところに二匹を置いて、虎くんが登っている木を見る。 比較的引っ掛かるところが少ない木だからクライミングはちょっと難しいかもしれない。勢いで行こう。 一息ついて、助走をつけて緩やかな凹凸を足場に駆け上がった。 足りない分は何とかしがみ付いて太さのある枝によじ登る。そこから二つほど枝を移動してようやく虎くんがいる枝にたどり着いた。 まったく、そりゃ爪ひっかければ登るのは簡単だろうけどさ。 降りれなくなるなら登らないでほしい。 「ほぅら、おいでー・・・怖くないよー」 枝を跨いでズリズリ移動しながら虎くんに声を掛けてみる。 少し先にいる小虎はあまり逃げる様子を見せないため今回はサクッと救出されてくれそうだ。 前回は散々だったからな・・・。いやまさか二度目があるとは思わなかった。 今度は落ちないように気を付けよう。下が水じゃないから落ちたらヤバイ。 ──と、そんなことを考えていたら。 急に虎くんが態勢を低くして小さく足踏みをしだした。「え、何」と思った瞬間。 何を思ったかこっちに向かってジャンプしやがった。 「ぃいえあああああ!!?」 反射的に両腕を広げて受け入れ態勢をとる。 子虎といえど虎は虎。それなりの重さがあるそれが目の前に迫って、ドンと胸に飛び込んできた。 そう、不安定な枝の上で。 グルリと、足で挟んだ枝を軸に視界が回転して、やばいと思った時にはいつかと同じ体に感じる浮遊感。 「デジャブ!!」 逆さまになった世界を落ちる途中、鳴狐のお供の「ああ!」と焦る声が聞こえて「喋っちゃダメじゃん」なんてどこか他人事な考えが浮かぶ。 しかしそのお供の向こう、木の陰から出てきた人影が目に入って咄嗟に体が動いた。 ラッキー。どこの誰か知らないけどこの子虎を受け取ってくれ。 「そこの人ぉ!パス!!」 声を絞り出して体を捻って子虎を精一杯放り投げる。 届いたか分からないけど男の焦った声は聞こえたから気付いてはもらえたと思う。 んであれだ。問題は私だ。これ落ちたらどうなるかな・・・どこから着地するかによって打撲か骨折か決まる感じかな。 とかなんとか頭の中では考えてるけど実際にできた行動は頭を抱えて体を丸めたことくらいだった。 流石に急に木から落ちて向こうから来る人認識して子虎放り投げたら、自分助けてる余裕はない。 軽傷で済みますように、と願って強く目をつむる。 そして──ドスッと音を立てて、地面に叩きつけられたものとは明らかに違う衝撃が体に響いた。 「危なかった・・・大丈夫?」 「は、い?え、うわぁ・・・あ、だいじょぶです、」 すぐ近くに男の声が聞こえて目を開くと、驚いた表情の大和守と目が合った。 思わず「うわぁ」と零してから無事を伝えればホッと息をついて地面に下ろしてくれる。 「よくやりました大和守さん! ──あなた、だいじょうぶですか?」 「いや大丈夫だけど・・・あ、虎は!?」 大和守の後ろから来た今剣にも声を掛けられて、ようやく思考回路がしっかり繋がったところで先ほど投げた子虎のことを思い出した。 この二人は虎を抱いてない。なら、私が投げた子は地べたに激突したんじゃ。 「虎くんならあっちの彼が受け止めてくれたよ」 焦る私に小さく笑った大和守は私の後ろを指さして言う。 落ちた時に見た人影って大和守たちじゃなかったんだ。全然気づかなかった。 礼を言わなければと私が振り返る──がしかし、目に入った蜻蛉切と一期一振に盛大に顔を顰めかけて真顔になるにとどまった。 [ back ] |