捜索記 | ナノ

9-2

さて飲み直すと言ったは良いがどこへいこうか。
酒ならともかくお茶のお店なんて知らないぞ・・・あ、そういや駅の地下にあったな。
あっちまで行くの面倒臭いわぁ・・・。

「えっと、駅にお茶屋さんが──」
「鶯丸!やっと見つけた・・・!」

突然私の声に被せるように響いた聞き覚えのある男の声。
二人してそちらを振り向けば加州がこちらに向けて駆けてきているのが見えた。
天の助けだ・・・!

「加州か。今からこの女人の案内で茶を飲みに行くところなんだ。お前も行くか?」
「いや行くかじゃないよ。迎え来たんなら大人しく帰れ」
「ウチのがごめん。何か迷惑かけなかった?」
「昼ドラ展開しかけて解決金払ったくらいかな」
「よく分かんないけど迷惑かけてごめん」

この鶯を引き取ってくれそうな流れだからもういいですけど。
それよりこの前会ったこと覚えてないんかな。
この様子だと初対面だと思ってるっぽいか・・・まぁいろんな人見てるだろうし、目当てでもない人の顔なんてわざわざ覚えないか。
と、思ったら。

「あ、れ?アンタもしかして前会ったことある?」

うわやっぱ覚えてた。
少し驚いたけど「お久しぶりです」と返せば彼も少し驚いたような表情で「久しぶり」と返してくれた。
そんな私達を見た鶯丸は疑問を浮かべて口を開く。

「なんだ、二人共知り合いか?」
「まぁ・・・知り合いっていうかずっと前に俺と安定が主と間違えた人。食事処入って色々話してお茶も奢ってもらったから覚えてた」
「お前が間違えるならもう彼女が主ってことで良いんじゃないか?」
「今までの苦労を木端微塵にする発言だぞそれ。良いわけないだろ茶狂いが」
「そうだ、茶を飲みに行くところだったな。案内頼む」
「帰れ」

面倒臭がってないで審神者を探して差し上げろ。
ほら、加州も「行くよ」って言ってるじゃん。

それでも全然動かない鶯丸に私と加州は目を合わせて同時に息を吐いた。気が合いますね。

「ごめん。また迷惑かけてるね」
「いや君の所為じゃないし。そういや前にテレビで見たよ。まだまだ頑張ってるみたいだね」
「まぁね。でも全然見つからないし音沙汰もないからもっと気合入れて俺から探しに行こうと思ってる」

うん知ってるメリーさんに変異してたやつだよね。
後ろに立たれてヤンデレ全開で「見ぃつけた」なんて言われたら私だったらチビる。

「加州はあの主を慕っていたからな。一等気合の入り方が違うんだろう」
「へぇー。良い人だったんだね──ハックシュッ」

やばい寒い所に長いこといたからくしゃみ出た。

「あっ、ごめん寒かったね」
「体調を崩しては大変だ。駅に戻ろう」
「早く行こ!」

少し焦った様子で私の手を引いて歩き出す加州。

鶯丸に良いように誘導されたと気付いたのは私が行こうとしていた駅地下の茶屋に入った頃だった。

──────────

何度も言いくるめられて結局お茶と茶菓子をいただいて店を出た。
御代を払ってくれた加州が巻き込んでしまった事に物凄く申し訳なさそうな顔をしていたのとは逆に、鶯丸はお茶も茶菓子も楽しめて大変満足そうな様子。

急にいなくなるわ金ないのに店入るわあちこち連れまわされるわ・・・慣れない現代に加えて彼以外にもいるであろうマイペース軍団に、一緒に捜索に出ている刀剣達の胃が心配になってきた。
もしクリスマスプレゼントあげるとしたら胃薬だな。いや別にあげる予定どころか会う予定もないけど。

「加州さーん!鶯丸さーん!」

憐みを込めた目で二人を見ていたところ不意に聞こえてきた子供の声。
振り向けば今剣が器用に人を避けながらこっちに走ってくる姿が見えた。あぁ、私にとって本丸第一の良心だ。
目の前に到着して開口一番「鶯丸さん、やっとみつかったんですね」と──鶯丸、お前どれだけ探されてたんだよマジのんきに茶ァ飲んでる暇なんて無かったろ。

「あれ?こっちのひとはなんですか?
 ──もしかしてあるじさまですか!? 加州さん、鶯丸さんだけでなくあるじさまもみつけたんですか!?」
「あー違う違う。鶯丸に巻き込まれた人。主じゃないよ」
「そうなんですかぁ・・・」

なんだこれすごく罪悪感だ。ごめんね主じゃなくてごめんね。
しょんぼり肩を落としている今剣に申し訳なくなって、しゃがみ込んで彼の頭をわしゃわしゃ撫でてあげた。
あぁ、懐かしいなぁ・・・前もこうして撫でてあげてたなぁ。

「ごめんね、探してる人じゃなくて」
「えっと、だいじょうぶですよー」

突然撫でても避けられることなかったが、少し不思議そうな表情でこちらを見上げて首を傾げた。
なんかこの人見たことあるようなないような・・・って感じだと思う。
こっちで会ったのってずっとずっと前だもんね。そりゃ忘れちゃうわ。

「それじゃ、私そろそろ帰るからこのお茶の人回収してもらえるかな」
「分かってる。今度こそ首根っこ掴んどくから」
「むしろ気絶させて運ぶべき。ほら、首をこう・・・キュッとやって」
「きゅっと」
「うん、キュッと」

首に腕を回してキュッと絞めるふりをした私に、加州と今剣がオウム返しをして確認してから鶯丸に目を移す。
鶯丸は両の手を上げて「勘弁してくれ」と苦笑いを零した。

「まぁ自由行動もほどほどに。んじゃ頑張ってね」
「あ、はい。ありがとうございましたー」

手を振って歩き出せば三人が振り返してくれて、なんだかんだ楽しかったかもしれないと思いながら家に帰った。


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