捜索記 | ナノ

9-1

少し前まで夕方六時まで明るかったのに、いつの間にか日が落ちるのが早くなった。
そして上着が欠かせないこの時期になると甘くて暖かいものを食したくなる──ということでフリーペーパーに乗っていた甘味処にお汁粉を求めてやってきた。

ターミナルビルより少し我が家側にあるお店で、人の集まるビルより静かで過ごしやすそうなところだ。
店内に入ると暖房が効いていてホッと息を吐く。

「いらっしゃいませ。一名様ですか?
 只今テーブル席が満員でして、カウンター席でしたらご案内できますが・・・」

声を掛けてきた店員さんに「お願いします」と返せば席に案内してくれて温かいお茶を持ってきてくれた。

メニュー表を見ればお汁粉の他にも団子やら五平餅やらがあって迷ったけど今回は予定通りお汁粉にしよう。
また今度来る機会があったら他のも注文しようかな。

「すみませーん、・・・」
「すまない。団子を・・・」

あ、と言葉を止める。もう一人と被ってしまった。
反射的にそちら見れば隣の席の彼も丁度こちらを振り返ったようで目が合った。

目が合ったぁ・・・まじかぁ・・・夏のプールぶりですね、鶯丸。会ってはないけど。

思わず顔が引き攣るのが分かった。
幸い表情を変えたのは声が被ったことに対してだと思われたらしく「先にいいぞ」と譲られて、礼を言って店員さんにお汁粉を注文した。
待っている間、お茶を飲んで深ーい溜め息を一つ。
本当は頭を抱えて突っ伏したいけどまだお汁粉食べてないのに変人認定で居づらくなるのは御免なため肘をついて顔を覆うに止める。

しばらくして持ってきてもらえたお汁粉に少しだけ気分が回復して取り敢えず食べ始めた。
にしてもなんで行くとこ行くとこ会うんだ。六人バラバラに動いて人の多い所をうろついてたってこの遭遇率は異常だろ。
ってか粟田口いるのにさらに六人来てんの?君達他に何かやることないの?暇なの?

「どうした、悩み事か?」
「アッ、いやまぁ、いろいろありまして・・・」

溜め息を吐いて顔を覆っていた所為か心配されたけど貴方、元凶の一つなんだよな・・・ねぇなんで私が行く先々に現れるんですかね。
最近友達と会う頻度より貴方達と会う頻度の方が高い気がするんですよ。

「男が出来ないという事か?」
「いきなりとどめ刺してくるとか。ちょいと容赦なさすぎやしませんかね」
「だがあの友人に干物だと言われていただろう」

余計なお世話だわ──って、ん?もしかして私の事覚えてたりする?顔は合わせていないはずだけど。
顔を上げて彼を見れば、私の考えを読んだように「銀髪の細い男と土佐弁を話す男がいた"ぷうる"の売店に来ただろう。奥にいたんだ」と言った。
こちらは見ていなかったが彼は私の事を見ていたらしい。

「あー、声だけは聴きました。あと男が出来ないっていうのが悩みじゃないですよ」
「そうか、それは失礼したな。
 ・・・時に君、この広い日の丸で俺達が再会したのは中々奇跡的だと思わないか?」
「はぁ・・・いやまぁ日の丸ってかこの地方の中でって感じだと思うけど・・・奇跡と言えば奇跡か?
 ってかこの話の転換の仕方嫌な予感しかしないんだけど」

意味ありげなこの良い笑顔は見覚えがあるぞ。私が審神者やってた時に高級栗羊羹見破られた時の顔だ。
嫌な予感しかしねぇ・・・。

「そう苦い顔をするな。ただ再会を祝してここで食べたものをご馳走してもらえないかと思ってな」
「・・・ご馳走"する"じゃなくて?」
「あぁ」

聞き間違いじゃないらしい。

「男たるもの女に食べさせられるのはあまり良い気がしないんじゃないですか」
「それを言われると弱いんだが、生憎持ち合わせがなくてな・・・」
「おい」
「持ってくるつもりが何故か仲間に没収された」
「信用なさすぎか。なんでお金ないのにお店入ったし」
「茶が飲めるからだ」
「いっぺん刑務所入れたろか」

今回捜索部隊に入った刀剣達よ、コイツに財布のひもを握らせなかったのは正解だがある意味鶯丸の方が一枚上手だぞ。
お金がないのに飲食店入るとか馬鹿通り越して勇者だよ。お店出る時どうするつもりだったんだろう。

「そういう事だ。再会の祝いにご馳走してほしい」
「どういう事だ。そもそも今回のは再会とは言わないです」
「では出会った記念で良い」
「そういう問題じゃないんだよ・・・!誰か回収しに来てくれ・・・」

私には荷が重すぎる。
頭を抱えた私に鶯丸は疑問の表情で小さく首を傾げた。もう私一人で帰っていいかな。
・・・良くね?私が一方的に彼の存在を知ってるってだけだし。そもそも私関係ないし。
うん、帰ろう。

「すみません、食べ終わったんで私帰りますね」
「待て、俺はもう一杯飲みたい」
「どうぞ。私は帰りますんで」
「君がいないと無銭飲食になってしまう」

知らんがな。
これ以上私に被害が出ないうちに帰りたいんだ。
レジに向かおうと立って伝票に手を伸ばす──が、その手を掴まれて立ち止まざるを得なくなった。

「あのー・・・」
「もう少し時間をくれ。話せばわかる」
「いやそういう問題じゃなくて、」
「男の事に口出ししたからか?それなら謝る」
「違いますって。放してください」
「待ってくれ。俺を置いて行かないでくれ」
「おいやめろこの会話ヤバい誤解される。誤解されてる・・・!なんでカップルの喧嘩みたいになってんだよ私が浮気して男を捨てていくみたいな」

周りの視線が「あの女最悪」って言ってるもの。
まったく違うしなんなら悪いのはお金持ってこなかった鶯丸だよ。
だからそんなチクチクした視線投げてこないで・・・。

「・・・分かった。分かりましたよ・・・ご馳走するんでもう行きましょう。お店出ましょう・・・」
「しかしもう一杯、」
「他のところで飲み直します。貴方の所為でこのお店居づらいんですよ」

ほら行きますよ、と掴まれていた手を軽く引き抜いて、彼の分の伝票も持って今度こそレジに向かう。
渋々ついて来た彼を横目にお金を払いレシートを受け取って少し早足でお店を出た。


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