捜索記 | ナノ

8-5

「隣のあの女人が私達が探している主殿かもしれない?」

マンションのリビングにて、薬研の話を聞いた一期一振は怪訝な表情で首を傾げた。
周りにいる仲間達も興味深そうに身を乗り出して彼の話を聞いている。

「この地域に住んでいて歳も大凡当てはまる。で、人にしては腕っぷしが強いし料理も出来るっつー情報が入った。期待しても良いと思わないか?」
「でもそんな人いくらでもいるんじゃないかなぁ」
「可能性が全くないわけではないですけど断定するには弱いですよね」

乱と鯰尾の意見に一期一振が首を縦に振る。
その可能性はあまり考えたくなさそうな表情だ。しかし薬研の言葉も一理あるような気がして困ったように眉を顰めた。
鳴狐が問うような目を皆に向ける。

「・・・もしあの人だったらどうするの」
「俺は良いと思うけどなー。夏祭りの時一兄を助けてくれたし」
「俺と兄弟は挨拶で会ったきりだからよく分からない」
「僕達も前に一度会っただけですから・・・」

反対の雰囲気はあまりないが賛成でもない。
やはり一期一振の判断を仰ごうと自然と皆の目が集まった。
人嫌いで気が進まない一期だが弟達の期待を自分の都合だけで背くことは出来ないし、かと言ってまだ彼女が審神者か分からないから迂闊な行動に出るわけにもいかない。

「・・・そもそも彼女が主なら会った時に何かしら反応があるんじゃないか?皆が会った時にそんな様子はなかっただろう?」
「うん。初めて会った時に陸奥守さん達の名前も出したけど何もなかったよ」
「や、やっぱりあの人ではないのでしょうか・・・」

シュンとしてしまった五虎退に対して薬研は少し考えた後、記憶がないという可能性もあるという意見を出した。
彼女の入れ替わりが終わったあの夜、彼女はよりにもよって身内から奇襲を受けたのだ。

平和な時代に生まれた身で、刀を持った刀剣男士に身を休めていたところを襲われ追い掛け回される。そして浅いとはいえ斬られている。精神的な苦痛から逃れる自己防衛が働いたかもしれない。
それか単純に階段から落ちた時に頭を打ったという事も考えられる。

「ならば彼女の料理を食べてみてはどうです?」

不意に入ってきた声に全員がそちらを振り返れば、本丸からこちらに来ていたらしいこんのすけが「本丸で食べたものと比べたら分かるのでは?」と提案しながら刀剣達の輪に入ってくる。

「流石に味だけでは分からないと思いますが・・・」
「具の切り方や盛り付け方、隠し味など総合して見れば分かるかもしれないでしょう。彼女の母親が料理人ならなおさら」
「はぁ・・・」

乗り気ではない一期一振に目を向けたこんのすけは、彼が何か言う前に「行ってきてください」と圧力のかかった言葉をかけた。

──────────

いつも通りお裾分けを持ってきたと思ったら「貴方の料理も食べてみたいです」と言われた私の気持ちをどう表現したらいいだろう。
これだからお裾分けなんてもらいたくなかったんだ。何度も遠慮したのに「お気になさらず」と言われるばかりで・・・お返しなんてしたら余計深い付き合いになっちゃうじゃんか。

相も変わらず表情のない一期一振の口から出てきたその言葉に思わず彼を凝視したまま数秒固まった。
何もしゃべらない私に彼もだんだんと気まずそうな顔になって、顔を逸らして言いにくそうに口を開く。

「えー・・・弟達が貴方の話をしていまして。薬研から、貴方が料理が得意だと聞いて食べたいと言っていたのです」
「はぁ・・・まぁ別にいいですけど・・・いつも貰ってばかりですし」

そのうち、気を許した頃にでも毒殺されるんじゃないかと思い始めておりますが。

「得意料理があればお願いしても良いですか?」
「はぁ、得意料理ですか・・・分かりました」

まぁ弟達に言われて来たんなら、薬研には世話になったしお礼もかねて何か作るか。



次の休みの日に持っていきます。と約束して、その休みの日になったため久しぶりに気合を入れてキッチンに立っている。

まだ日の高いうちから料理を始めて、デリ風サラダ、キッシュ、パエリア、チーズケーキを作り上げた。
華やか且つ手が込んでそうで、しかし意外と簡単にできる料理だ。ホームパーティーにオススメ。

え?これが得意料理かって?いや別に違うけど。
そりゃ日常的に食べる煮物とか肉料理とかの方が得意だし手早く出来るけど。
でもほら、そういうのは皆も普段食べてるだろうし。
料理が得意だという事を聞いて作ってほしいと言ってきたんだから、きっと彼等が期待してるのはお店で出てくるような華やかな料理だよ。

日本人の会話は本音と建て前で出来ている。言葉の裏を読め。ってな。

──────────

しーん、と。
お隣さんから届いた煌びやかな料理を目の前にした一期一振達の間に沈黙が広がる。

「・・・あの審神者はこういうのは作らないでしょう」
「あぁ、俺の勘違いだったみたいだ」

口を開かないまま顔を見合わせた彼等は、無言のまま箸を手に取り料理に手を付けた。


後日、(料理の腕が)やべぇなコイツという目で見られた彼女は、やべぇあの顔そろそろ殺る気だと勘違いして震えたという。


prev / next

[ back ]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -