捜索記 | ナノ

8-3

お隣さんが粟田口になってしばらく。
また巻き込まれる勘弁してくれと思っていたが、考えてみれば昼間は仕事で夜しか家にいないため初めの挨拶以降会う事はなかった。

なんだ別に悩む事なかったんじゃん。あいつ等が普段何してるか知らないけど普通に生活してれば出くわす確率低いな。

そう思ってたら仕事終わりの夜にインターホンが鳴った。
こんな時間に珍しいなと思いながらモニターを見にいくと玄関の前に一期一振がいて、まず居留守を使うべきか否かを考えてしまった。
え、なんで来たし。

「はーい・・・」
『隣の粟田口です。煮物を多く作ったのでお裾分けに参りました』
「おすそわけ」

ええー・・・お裾分けって、お裾分けだよね。・・・ええー。
いらないと言うわけにもいかず取り敢えず待っているよう告げて早歩きで玄関まで歩く。
ドアを開ければ大皿を持った一期一振が微妙な表情で立っていて、「お前お裾分けに来たって顔じゃねぇぞ」と突っ込みたくなった。

「お仕事お疲れ様です。たくさん作ったのでいかがかと思いまして。もう夕食は決まっていましたか」
「あぁいえ・・・帰ってきたばかりで作るの面倒だったのでありがたいです・・・」

ギクシャクした雰囲気の中差し出された大皿を受け取る。
あぁ、これが古き良き助け合い・・・非常に面倒くさい。
相手に失礼?大丈夫。たぶん相手も同じようなこと思ってるから。

「皿は急いでないので時間が空いた時に返していただけたら結構です」
「わかりました。ありがとうございます」

うわぁなんか空気が固すぎて背中がムズムズする。取引相手かよ。
絶対引き攣っているであろう笑顔を浮かべれば一期一振も口角を上げるだけの笑みを浮かべ、早々に別れの挨拶を述べて頭を下げて帰っていった。
そんなに嫌なのになんで来たし。

──────────

一期一振が部屋に戻ると短刀達が出迎えに駆けてきて、そこでようやく彼の表情に笑顔が戻った。
その中に交じってやってきた今回のお裾分けをけしかけた管狐が「どうでしたか」と声を掛ける。

「どうもないですよ。普通に渡して帰ってきました」
「・・・道理で早いと思ったら。世間話の一つでもしてきてください。そのためのお裾分けでしょう」
「勘弁してください。そもそもお裾分けも、もっと互いの事を知ってからの方が良かったのでは?受け取っていただけたから良いものを・・・」
「貴方は人に対して消極的ですから少々強めに背を押した方が良いかと思いまして。それに祭りで助けてもらったのでしょう?良い方ではないですか」

控えめな抗議もなんのその。
人嫌いな事を知っていてグイグイ攻めてくるこんのすけに一期一振は小さく息を吐いた。
しかし弟達が心配そうな顔を向けていることに気付いて再び笑みを浮かべる。

「ほら、私なら大丈夫だから。そろそろ夕食にしよう」
「はーい!ねぇ一兄、ボクまたあの大きな駅?に行きたいなぁ。あの時は初めてだし迷子出たから見て回れなかったし」
「それは・・・あまり人に会うようなことはしない方がいいんじゃないか?」
「それじゃ主君を見つけられないですよ、一兄」

ワイワイガヤガヤ、こうして賑やかで穏やかなひと時は過ぎて行く。

────────────

仕事終わりの夜。
そういえば冷蔵庫の中身が少なかったっけと思い出して急遽家の近くのスーパーによることにした。

しっかしどうしたもんかな・・・あの煮物事件(?)以降、一期一振がちょくちょくお裾分けに来るようになった。
ご近所付き合いは面倒だが正直食事をいただけるのはありがたい。
一人暮らしだと人の手料理が恋しくなるし、自分一人のために食事を作るのは案外面倒なのだ。
だからお裾分けというのはありがたい──のだが。

「(なんか素直に喜べないんだよなぁ)」

毎度毎度仏頂面で来るからこっちも愛想良く対応するのが難しいんだ。
そんなに嫌なら来なければいいのに・・・しかもあいつ等角部屋だからお隣さん私しかいないし。

会計して食材を袋に詰めてスーパーを出る。
卵を買ったからぶつけないように帰らないとな。時々歩いてる時に足に当たってヒビを入れることがあるから注意しないと。

そう思っていたら不意に前から歩いてきたガラの悪い男にぶつかってしまった。というか明らか相手がぶつかってきた。
アッと思う間もなく向けられる鋭い視線。次いで「おい何ぶつかってんだ」とドスの利いた声。
嗚呼、今年は厄年かな。と遠い目になる私。

こういうイベントはあいつ等とのエンカウントフラグだからやめてくれ・・・。


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