捜索記 | ナノ

8-2

数週間前のこと──

「現代に移住、ですか?」

本丸の一室にて、こんのすけが一期一振にある案件を打診していた。

「はい。どうにも貴方は人間に対して異常に敵対心を持ってしまっているようで。まぁ弟の多い貴方ですからね。数々の摘発された本丸でも一期一振は精神状態が比較的悪いという統計が出ています」

しかしせっかく状況が改善する段階だというのにこの状態では後々火種になるかもしれない。
ならば例の審神者候補を捜索するついでに彼女の時代に住んで、人間への認識を改めてみてはと考えたのだとか。

「はぁ」と戸惑った声を零した一期一振は考えるように口を噤むが、その表情は徐々に険しくなっていく。

本当に、顕現してから人間には良い思い出がない。出来ればしばらく人間には関わりたくないし見たくもないのだが。
しかし本丸で集団生活をして共に戦う仲間がいる以上皆と足並みをそろえられないのは良くない。
やりたくない気持ちとやらなければという責任感に挟まれて「本当にそんなことが出来るのですか」と問うた。

「えぇ、既に話は通っていますので貴方方が了承すればいつでも」
「・・・現世へ審神者を探しに行くという件が通った時も思ったのですが、いち本丸にいささか手当てが過剰なのではありませんか?」

現世への審神者捜索も今回の件も、時間と金と手間がかかるはずだ。
特に今は摘発された本丸への対応や新しい審神者の選抜などに手が掛かっている時期。
飛び抜けて功績が高いわけでも珍しい刀が多いわけでもないごくごく普通の本丸が何故ここまで優遇されるのだろうか。

「人間の都合で協力していただいておりますし、分霊同士感覚が繋がっているという説もありますからね。負の連鎖が起きないよう補償は手厚くしております」
「それはそれは・・・ご苦労な事で」
「まぁそう苦い顔をせず。他にもこの本丸は状態の回復が著しいということも理由の一つですね」

疑問の表情を浮かべる一期一振にこんのすけはさらに続ける。

被害が小さい場合はともかく、酷い本丸は摘発後も人の手が加わるのを拒むことが多いためやむなく強制的に刀解、本丸自体も閉鎖というのが現状なのです。
それに人を憎む刀剣男士をそのままに本丸の立て直しというのは新しい審神者が危険ですからね。
しかし、この本丸は被害が大きいにもかかわらず回復の傾向にあります。

つまり立て直しが成功した貴重な事例として、今後の黒本丸の対策に盛り込んでいきたいという事です。

こんのすけの話が終わったことで沈黙が流れる。
難しい顔でその話を反芻する一期一振。しばらくの後、やはり穏やかとは言えない表情で口を開いた。

「どこまでも人間の都合で物事が動かされていることは癪ですが、しかし今この本丸は彼の審神者を探すことに一丸となっております。
 仲間と弟達のためにその手厚い保障とやら、お受けいたしましょう」

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そして現在──

モニターの向こうにずらりと並んだカラフルな頭髪。
その筆頭である王子様フェイスな──一期一振。
記憶にある粟田口御一行様が玄関の外にいることが分かって固まった。

何でこんな所にいんの。しかも数多くない?

明らか六振り以上いる刀剣に戸惑って通話ボタンを押すのを忘れていたためか、彼等が顔を見合わせて何か話している様子が見える。
おそらく留守かもしれないという話だろう。慌てて通話状態にして対応すれば緊張した様子の一期一振が口を開いた。

「隣に引っ越してきた者です。ご挨拶に伺いました。お時間よろしいでしょうか」
「え、あ、え・・・引っ越して・・・いえ、少々お待ちください・・・」

ひ っ こ し て き た ?

しかも隣に。どういうこっちゃ。
通話を終了してそのまま数秒。しかし突っ立っているわけにもいかず玄関に向かった。

余談だがここは都会の大きい駅にまぁまぁ近いといえるマンションだ。しかもファミリータイプの。
会社の住宅補助という恩恵を受けてここに住めている私だが、そんなマンションに彼等がここに来るとはどういうことだ。

え、もしかして駐在?潜入捜査とか?
勘弁してほしい。

ドアを開ければぞろぞろと目の前に並んでいる彼等。粟田口って髪の色のせいか派手に見えるんだよな・・・眩しい。

「こ、こんにちは・・・」
「お初にお目にかかります。本日隣に引っ越してきた粟田口一期と申します」

粟田口一期ですか・・・まぁ一期一振とは名乗れんわな。

「あー、初めましてじゃないですよ。覚えてないですか?」
「あっ、お姉さんお祭りの時のお姉さんでしょ!」

一期一振よりも先に彼の後ろにいた信濃が声を上げる。
事情を知らない子達が疑問の表情を浮かべるがその話はどうか帰ってからにしてください。

それよか子ども達の事はスルーして良いのか?あまり深く突っ込みたくないんだけど・・・いやでもこれだけ大所帯だと軽く話振っとかないと不自然だよなぁ。

「えっと、改めてよろしくお願いします。・・・随分賑やかですね」
「あぁ、訳あって預かっている子等なのです」

こちらから薬研、秋田、信濃、平野、乱、五虎退、骨喰、鯰尾、鳴狐です。

順番に説明してくれて、各々が自分の番で頭を下げてくれる。
うーん、一部苗字で通すには難しいのもいるけど突っ込んじゃいけないんだろうなぁ。
あと昔はご近所付き合いが盛んだっただろうけど、都会じゃ今はお隣さんですらあいさつ程度だよ。家族全員名乗るとかまずないよ。

「よろしくね」

とりあえず笑って手を振っておく。
最後に一期一振は「心ばかりの品ですが」と手土産をくれて、皆を促して帰っていった。

ドアも鍵も閉めてリビングに戻ってソファに座る。
手土産を開けるとちょっとした焼き菓子が入っていた。

「(粟田口がお隣さんかぁ・・・)」

ゲンドウポーズでしばらく心の鎮静化を図る私。

「粟田口かぁ・・・」

思わず顔を伏せて声と共に大きい溜め息が出た。
まさか刀剣男士がお隣さんになるとはつい先程までは夢にも思っていなかったため、あまりの衝撃にまだ頭の整理がつきそうにない。

なんでこんな所に来たんだろうなぁ。やっぱ人探しだけじゃなく遡行軍関連で動いてんのかなぁ。
せめてここ等辺で戦闘おっぱじめるとかはやめてほしい。

「(ここんとこ刀剣男士とのエンカウント率が酷いな・・・お祓いでも行った方が良いかな)」

外を出歩いて会うだけならまぁ・・・いやそれでも確率高いけど、家にいてもテレビで見るわお隣さんになるわで、呪いか何かにでもかかってるとしか思えない。

・・・もう、実害が出ない様にだけ祈っておこう。


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