7-2 まさかのナンパ報告。 店の入り口を見れば、なるほどチャラそうな男がひょっこり顔を覗かせていた。 「あー・・・そっか。じゃあ行っておいでよ。帰りどうする?あの人に送ってもらう?」 「うん、そうする。ごめんね」 「いいよいいよ!どうなったか教えてね」 「もちろん!」 ホッとした様子で頷いた友人だがしかし、不意に私を引っ張って数歩先にあるイートインスペースに歩く。 何事かと思っていたら顔を寄せて声を小さく話し始めた。 「あの店員さん達超イケメンじゃん。どっちが好みよ」 「えぇ・・・いや別にどっちも興味ないけど」 こいつちゃんと店員の顔レベルチェックしてやがる。 格好良いとは思うけど鶴丸と陸奥守だし。 二人共黙ってりゃイケメンだとは思うけど。黙ってりゃ。 「せっかくだから連絡先だけでも聞いときなさいよ」 「やだよイケメンには碌なのいないって知ってるもん」 「彼氏いない歴=年齢の干物女が何言ってんの。いいから当たって砕ける!」 「砕けちゃいけないと思います」 「あとで結果聞くからね!」 そう言った友人は再び私の腕を引っ張り、今度はカウンターの前に連れてきた。 何をするのかと思えば肩を掴まれて彼等に向かって突き出される。思わず振り返った先にある友人の顔はとても良い笑顔だった。 「この子、ちょっと口が悪かったり今まで彼氏いなかったりするけど、一緒にいて楽しいし料理も上手だし気も利く子だから良かったらどうぞ!」 「おいこら」 私を差し出した友人はさっさとナンパ男の方へ行ってしまって、最後にこちらを振り返って親指を立てたと思ったら「頑張れよ干物!」と言い残して去ってしまった。 残された私達の空気を察してくれ。気まずくなるに決まってんだろ。 「あー・・・すみません。あの子良い男に声かけてもらったからちょっと舞い上がってたみたいで。気にしないで」 「ははっ!友達思いのえい子やか」 「友達、行っちまったんならここで食べていったらどうだ?」 「うーん、うん・・・そうしようかな」 ここの方が涼しいし。 受け取ったままだったタピオカドリンクとフライドポテトを手に席に向かう。同時に店の奥から呼ばれた二人もカウンターから離れた。 しかし今二人を呼んだ声も聞き覚えあるような・・・。 幸い今店の中にいるのは私だけ。耳を澄ませてみれば、奥で話している三人の声が聞こえてきた。 「ほんで、何かえい案はあったかや?」 「やはり抹茶がいいんじゃないか?女人に人気らしいからな」 「あぁ、俺も賛成だ。といってもこの時代の抹茶はかなり甘いみたいだがな」 あ、そうだ鶯丸だ。あいつも店員やってんのか・・・というか刀剣しかいないのかここは。メンバーが不安すぎる。 聞いていると、どうも新しいメニューを発明している途中らしい。やめとけそのメンバーじゃ絶対碌なもの出来ないから。 「ただの抹茶じゃつまらんがで。今は"いんすたばえ"が流行っちゅーと」 「お、知ってるぜ。人に見せてアッと驚くものに人気が集まるんだろう」 「そんなものがあるのか。ならば我らが人では思いつかないようなものを作らなくてはな」 え、あながち間違いではないけど正しく解釈してんの? そんな事を思いながらポテトを齧っている間にも、話は進む。 初めは良かった。抹茶を凍らせて削ってかき氷を作るとか、わらび餅に抹茶シロップと黒蜜を添えるとか。 普通に美味しそうだし安心して注文できる。 ・・・が、面白みも話題性もないという結論に至ったらしい。 そこから少し方向がずれてきた。 「夏だから炭酸にしたらどうだ」 「ほんなら同じ色のめろんそーだと混ぜくったらどうやか?」 「それを凍らせてかき氷にするか」 ねぇ待って。抹茶とメロンソーダが合うと思ってんの?メロンソーダ飲んだことある? そもそも炭酸凍らせたら二酸化炭素抜けちゃうの知ってるのかな。誰かツッコんで。 「中にこんまいパンケーキでも隠いたらどうじゃ」 「いいなそれ。ぱんけーきも人気らしいからな」 話題のもの組み合わせりゃ美味しくなるとでも思ってんのか相性考えろ。 「見栄えを良くするなら上にも盛った方が良いな」 「今の流行りは"れいんぼー"やき、しろっぷと水菓子盛りたくるぜよ」 「ちょこくりーむと生くりーむとかすたーどくりーむもあるぜ」 夏休みの共同自由研究のノリだコイツ等。 「かき氷と言えば練乳も外せないな。あと練習で焼き過ぎた鯛焼きもあるぞ」 盛ればいいってもんじゃないんだよお前等の感性どうなってんの。 「随分賑やかなかき氷になりそうだな」 「"いんすたばえ"間違いなしじゃ!」 「ツッコミ不在の恐怖とはこのことか・・・」 ポテトを頬張りながら机に肘をついて頭を抱える。 これは私が止めるべきか?無関係であるはずの私が止めるべきなのか? 考えている間にも試食品を作ったらしい。抹茶メロンソーダを凍らせるのは流石に出来なかったため普通の氷だと。 「──うーん、これは美味いのか?」 「俺達と人間じゃ味覚が違うかもしれないからな。人間にとっちゃ上手いかもしれない。あと驚き要素に辛子と山葵も仕込んでやろうぜ。極めつけは・・・おっ、あったあった。たばすこ発見。これで驚きのかき氷の完成だ!」 「見た目も派手じゃき、話題性はあるにゃあ」 あいつ等人間の腹を殺しにかかってきてやがる。 何?あんた達も人間に良い思い出ないの?インスタ映えにかこつけた飯テロ(ガチの)なの? 本当店任せたらあかんて・・・正社員さん来て・・・。 そこでふと第六感が私に告げた。ここを出ろと。 放っておいても良い気はするがタピオカもポテトも食べ終わったし。結構長いもしちゃったからそろそろお暇するか。 席を立って食べ終わったゴミを出入り口近くのゴミ箱に放り込んでその足で店を出る。 「おーい、君・・・って、遅かったか」 奥から出てきた鶴丸の声が聞こえたが構わず足を進める。 その後すぐに陸奥守の「味見頼みたかったんに」と聞こえてきて自分の第六感に心底感謝した。 あっぶな・・・危うく飯テロ(ガチ)の第一被害者になるところだった。 まぁ私を逃したという事は次の人が標的になるのかもしれないけど。大丈夫でしょ、あんな怪しいもの食べる人いないだろうし。 その日の夜、友達と連絡を取って事の次第を説明したのだが「イケメンを逃した罪は大きい」と、イケメン>我が身 の判決を下された。 ちなみに友達もナンパの彼とは上手く行かなかったらしい。身体目当てだったからピンタかまして帰ってきたのだとか。 お前も我が身優先じゃないか。解せぬ。 [ back ] |