本丸記 | ナノ

はいはい、お手入れの時間ですよっと。遠征の指示を出してから広い本丸を今剣に案内してもらって重症者が多いという粟田口の短刀達がいる部屋に案内してもらっています。相変わらず空気が淀んでいて息苦しいくらいだよもう。

「あそこです。あのへやです」
「うーわ障子とか床とか血が付いてるんだけど。ここに来るまでも血が落ちてたりしたし、大丈夫なの?」
「かたなにひびがはいってるひともいるので、はやくていれしないとあぶないです」

いやそれもそうだけど恨み辛みが募って逆襲とかされない?めっちゃ怖いんだけど。あ、付喪神は審神者に逆らうことは出来ないんだっけ。
まぁいいや兎にも角にも手入れだ手入れ。この身体の持ち主さんは短刀脇差には特に冷たく当たっていたらしいからクールな感じで行くよ。

「失礼、入るよ」

声を掛けてから障子を開けるとボロッボロの子ども達がこちらを凝視していた。凄く怯えられてるのが胸に刺さるんですが。何やったんだよこの身体の持ち主。
一歩部屋に入って目線を低くするべく膝を折るがその動作をだけでいちいちビビられる。
んー、身体の傷より心の傷って言うやつか。本当なら慣れるまで待つべきだろうけど前主様の性格からしてそれはないんで突撃しますよっと。

「今から全員手当てする。一番重症なのから手入れ部屋に放り込んで」

つっけんどんに行ってみればもれなく全員から驚いた表情を向けられた。まぁそりゃそうなりますよね。
何か言いたげな顔をしているがあまり話すわけにもいかないため早くと促す。びくっと体を震わせた子ども達はそれでも無理矢理体を動かして手入れ部屋へ歩き出した。
中には重傷で立ち上がれない子を、同じく酷い怪我をした子が背負っていこうとする子もいる。うそだろそこは私に言おうぜ「この子怪我が酷くて動けません」って。何、口答えNGな職場なの?常々思ってたけど独裁政治なの?絶対王政なの?

見てられなくてその子を抱き上げれば、連れていこうとしていた藤色の双眸の子が目を見張って私を振り返った。刀帳を一通り見たけど数が多すぎて名前なんて全然憶えてないんだよね。
「大将」と呟くその声は見た目に反して男前だった。

「重傷が重傷背負っても時間かかるだけでしょ。私が連れて行くからさっさと行って。
 今剣、そっちのピンク──桃色の髪の子連れて行ってあげて」

茶髪の子が背負っているピンクの髪の子を今剣に託す。
ぞろぞろと歩いていると流石に分かるのか途中の部屋の障子がそっと開いて誰かに覗かれるというドキドキの体験を何回かした。

・・・そういえばこれだけ大勢で来ちゃったけど手入れ部屋二つしかないんだよねぇ。となりそうだがしかし、科学の力は進歩しているらしいですよ。
なんでも"手伝い札"なる物を使えば手入れ時間を省略できるらしいです。やったね!

「じゃ、まずこの子とそっちのピン、桃色の子ね」

ほいほいっと二人共を部屋に入れて小人達を呼び出し手伝い札を渡す。任せてと言わんばかりにコクコク頷いた小人達に二振りの短刀を任せて外に出て、手入れの順番を決めるべく廊下にいる子達を見渡した。
・・・うん、全員酷いから適当に近くにいる子から放り込んでいきますか。

まもなくして全員の手当てが終わり、ぴかぴかになった刀を帯刀した子ども達が廊下に集合していた。
いやぁ、科学の力って凄いね本当。ついていけないや。

で、凄く何か言いたげな子ども達と、新しい主の手腕に満足そうな今剣を前に私はどうしたら良いでしょうか。
どちらも何も口を開かずに数秒、やはりどうしたら良いか分からないままだったのだが不意にパタパタと廊下を走る足音が聞こえて全員の意識がそちらに逸れた。
曲がり角を曲がって現れたのは抜けるような水色の短髪をなびかせた、傷と気品あふるる美丈夫。胸元に走る切り傷が痛々しい。
短刀の子達が「いち兄」と呼んでるからこの子達のお兄さんなのかな。
私達を目に入れた彼はハッと目を見張って、酷く困惑したように「主」と小さく零した。

「お、弟達が、何か無礼を・・・!?申し訳ございません、罰は私めが受けますのでどうか弟達には御慈悲をっ」
「落ち着いてよ。全員手入れしただけだから」
「・・・手入れ、を?弟達を手入れしてくださったのですか」

改めて短刀の子達を見て傷が消えているのを確認、再び私に目をやるがその表情は「信じられない」と言っていた。
私もここまで放っておける"私"が信じられないよ。

「あー、まぁ経営方針の変更ってやつだよ。今日から、怪我が酷いのから直してくから」

といってもなんか疲れた。霊力とかいうのを使ったからかなぁ。今日一日で出来るところまでやっちゃおうと考えてたけどこれは駄目だね。何回かに分けてやろう。
そう思って部屋に戻ろうとすると、誰かに服をつんと引っ張られて足を止めた。振り返れば可愛い仔虎を抱きかかえた可愛い男の子。名前なんだっけなぁ・・・。

「あ、主様、いち兄の怪我も・・・」
「こら、五虎退!──申し訳ありません、主。弟達は私が預かりますので」
「うーん、や、いいよ。手入れするから部屋入って・・・うん」

名前を呼ぼうと思ったけど悩んでも出てこないから、言葉を濁して手入れ部屋へ水色の彼を促す。
「いえ私は」とかなんとか、ふんわりと明確な拒絶を見せる彼だが可愛い子ども達がすごく心配そうな顔をしているので(私が乱暴しないか心配しているのかもしれないが。)多少強引に部屋に押し込んだ。

先程と同じように依代を呼び出して手入れ札を使って刀を直してもらう。うーん、さっきより力持ってかれる感じあるなぁ。資源も結構使ったし、今日は本当にここまでだね。

部屋から出て伸びをしながら解散を告げると水色の彼は子ども達を促して足早にその場を去って行った。今剣も呼ばれていたが彼は私と一緒にいるとのこと。
水色のお方よ、そんなに心配そうな顔をしなくても今剣を傷付けたりせんよ・・・。

「あー疲れた。部屋に戻って休もうかな」
「まったく、なんですかあのたいどは!ていれしていただいたのに、おれいのひとつもいわずにへんなものをみるめをむけてくるなんて!」
「落ち着いてよー。今までの"私"はあんなだったから、いきなり優しくなったりしたら変に思うのは当たり前じゃん」
「でもまえのあるじさまといまのあるじさまはべつじんです!」

プリプリ怒る今剣に苦笑いしながら二階に上がる。
まぁあの態度には傷付くけど仕方ないとも思っちゃうよね。今剣は私の中身が別人だと知ってるから行動がガラリと変わっても受け入れられるけど、水色の彼と子ども達からしてみたら暴君の主がいきなり自分達への扱いを変えてきたんだから一体これから何が起こるのだろうと警戒しても仕方ない。

・・・兎にも角にもお昼をいただいてよろしいでしょうか。力使ったしお昼の時間を過ぎているのでお腹が悲鳴を上げているのですが。


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