本丸記 | ナノ

朝と同じように昼ごはんもいただいてから、こっそり部屋を出て屋敷探索作戦を実行に移した。
まず最初の目的は恥ずかしながらトイレだ。起きてからずっと行っていなかったからそろそろ限界である。
今までいた部屋は二階建て建物の二階部分──間取りはいたってシンプルで廊下に四つの扉が並んでいるだけ。一つは私がいた部屋。で、あとは物置とトイレとバス。
んー、この階は審神者専用っぽいかな。バスもトイレも女子力高い・・・。

何はともあれ無事用を足すことが出来たので一階を捜索することにする。綺麗とはいえ昔ながらの屋敷だから階段を下りる時に音がならないか心配だったが思ったより頑丈らしい。
さてさて人の気配は・・・ない。いや気配なんて読めないけど。あれだ、歩く音とか話し声とかは聞こえない。

「これだけ大きいとどの部屋に刀剣男士とやらがいるかわかんないぁ・・・。無闇に襖開けるのは藪蛇になりかねんわ」

人に会わないようにこっそりと、しかし万が一誰かにあっても怪しくないように姿勢だけは堂々と、忍び足で廊下を歩く。
何十人と住んでいるだけあって広そうだね。縁側は部屋との仕切りが障子だから日の向きからしてアウトだね。他行こう。

お、台所発見。という事は確か古い家ならおばあちゃんの家と同じように・・・あった!勝手口見っけ!
ここから外に出て先に屋敷の規模とか全体の地形とか把握しとこ。中よりも人と会う可能性低いだろうし。

・・・なーんかなぁ、屋敷の中にいる時から感じてたけど空気が悪い気がする。居心地が悪いっていうの?なんだろ、人様の敷地で勝手してるからかなぁ。

「「ハァ・・・」」
「んっ!?」
「・・・あ、」

溜め息着いたら誰かと重なった。そこの建物の陰、誰かいる。・・・誰かいる。ヤバい。
反射的に声を出した私と、こちらを見て動揺したように顔を顰めた彼。全身ほぼ真っ黒で眼帯してて金色の瞳。そして超のつくイケメンさんなんですが。体つきもしっかりしてるし、これアカン職業の上層部にいるような人じゃね?
あ、帯刀してるということはこの人が付喪神の刀剣男士とやらか・・・見た目本当に人間と変わらないじゃん。

「あ、主・・・」

おっといけない、まじまじと見つめすぎた。どうにかして不自然のないかたちでここを去らなければ。
この身体の持ち主は見た目に反してクール系だったね。今度は間違えないよ。

「黄昏中にごめんね。用事とかじゃなくてちょっと外を歩きたくなってさ」
「え、あ、あぁ・・・いや、そっか。じゃあ僕は中に戻るね」

そそくさとこの場から去る全身真っ黒君の背中を静かに見守る。気まずい。そして完全に見えなくなったところで大きなため息を一つ。

・・・なんか今回も間違えた気がするんだけど。「え、何この人」みたいな顔で見られた気がするんだけど。うそだろ。だって朝テンション高く対応したら違ったじゃん。だから大人しめに愛想よく話しかけたってのに。これどこ行っても通用する態度だったでしょ。
じゃあなんだ?次は敬語キャラで行くか?

まぁ過ぎてしまったものは仕方がない。ここで足踏みするのも良くないし行こう。
そうしてしばらく歩いていたら、今度は何処からともなく鼻を啜る音が聞こえて肩が跳ねた。
あーもう次から次へとなんだよぅ。めっちゃびっくりしたじゃんか。

誰だどこだ?──お、そこの蔵かな。流石日本家屋、蔵まであるなんて。
扉に耳を充てて確認してみるとすすり泣く声が聞こえてきたから間違いない。しかもたぶん子供だ。
どうしよう何も聞かなかったことにして立ち去りたいんだけどなぁ。でも私子ども好きだし無視していくのはちょっと・・・。この後の散策もこの子が気になってどうしようもなくなりそうだしなぁ。

んーんーんー。・・・仕方ない、ちょっとあやして泣き止ませてから散策に戻ろう。
ってことでコンコンコンっと。中にいるのは誰ですか。

「大丈夫ー?開けるよー?」
「あるじさま・・・?」

おっと思ったより小さい子っぽい?声変わり前の高めの声で主様って聞き返されたんだけど。中にいるのは付喪神様ですかそうですか。
中の小さい付喪神様はそれっきり再びすすり泣きに戻ってしまったため、取り敢えず開けることにした。

「開けるねー。
 ──っと、これ外から鍵かけられてんじゃん。え、何々虐め?ウソ神様も何十人と集まれば村八分的なものが発動すんの?」

鍵かー、掛けた人が持ってっちゃったかな。でもこういうとこの鍵って割とそこら辺に転がってる捨てられた鍋とか鉢とかの下に──お、やっぱり発見。おばあちゃんの家で学んだ知恵は無駄じゃないね。

小気味良い音と共に鍵が外れて重い扉を開ける。日の光が通る埃っぽい蔵の中、そんな寂しい空間にポツリと蹲る一人の子ども。

「もう大丈夫だよ。一人で怖かっ──あ、れ」

こんな空間に閉じ込められるなんてさぞかし怖かったろうにとそう思って近付いていって、しかし様子がおかしい事に気付いて言葉が切れた。
裂けた服に刺し傷切り傷、流れる血。見たことがないくらいの大怪我だ。それこそ普通なら緊急搬送されてもおかしくないほどの。

私は想定外の事に動けなかったし目の前の子どもも此方を見上げたまま一言も発することはなく、二人の間に妙な時間が流れた。


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