戦略的撤退をした次の日、星座占いで一位を取ったから気を取り直して次郎太刀に会いに行った。 突然の訪問に警戒されていたがお酒とおつまみを献上すれば手のひらを返したように仲良くしてくれました。 彼はこの本丸の中では新米の方で、前の"私"には触らぬ神に祟りなしということであまりかかわってこなかったのだとか。 それでもお酒は飲めないし八つ当たりで怪我させられることはあったため言うまでもなく審神者に良い印象はなかったが、私に変わってからは少しずつ本丸の雰囲気も良くなってきたし特別邪険にする必要はないと考えていたそうだ。 一歩下がって物事を見ることが出来る人で良かった。 その後もお酒を飲みながら話をして、少しは仲良くなったと思う。酒まで持ち出しておいてその程度かと思うなかれ。小夜の事があって不安だったし、今の私達の状態を考えたら大進歩だ。 ということが先日あり、今日は本丸の皆を集めて『第一回家庭菜園計画会議』を開催いたします。 集められた刀剣達は何事かとざわついていたが、私が持ってきたホワイトボードに書かれたその題名を読むと納得したような声に変わった。 陸奥守と長谷部辺りが話してくれたんだろう。 「はいはーい、静かに。皆もう聞いてるかもしれないけど家庭菜園を始めることにしました。理由は簡単、本丸の予算が食費で圧迫されているからです。 よってこの会議では植える野菜や果物の希望を聞いて、あと土づくりをする日を決めます」 手を叩いて注目を集めてから言えば、やる気のある者、戸惑う者、嫌そうな顔をする者の三パターンに分かれた。分かりやすくてよろしい。 「悪いけど僕は辞退させていただくよ。畑をやって食費を抑えたとしてもその抑えた分がどこに行くか分かったものではないからね」 溜め息を付いた蜂須賀が立ち上がった。彼はプライドが高いからか今まで己を蔑ろにし続けていた"私"をとても毛嫌いしている。 仕方ないと言えば仕方ないけど扱いに困るから少しは話を聞いてほしいものだ。 「長谷部、蜂須賀確保」 「はっ」 「ちょ、放してくれ!」 「あとそっちの、流れで出て行こうとしてる男共も戻って」 蜂須賀が出て行こうとしたのに乗じて後に続こうとした明石、和泉守、宗三、大倶利、膝丸と彼に連れられた髭切を呼び止める。 面々は髭切を除いてよろしくない表情で振り返った。 「自分、食事いらへんので畑仕事はなしにしたってください」 「働け愚民」 「刀に鍬を持たせる気かよ」 「半分以上人間だろ」 「せいぜい予算不足で苦しみ足掻きなさい」 「お前等の生活も掛かってんだよ」 「食べられたらそれでいい」 「食卓に雑草と木の実が並ぶぞコラ」 「どうせ途中で枯らすのが目に見えている」 「諦めたらそこで試合終了ですよ」 「豊作が楽しみだね」 「そう思うなら弟さんにラリアットかましてください」 一人一人の愚痴を流しながら部屋に戻るよう促す。 味方少なくて不安なんだからお願いだから大人しくしてください。 渋々腰を下ろした刀剣達にホッと胸を撫で下ろしてホワイトボードと一緒に持ってきた水性ペンを開けた。 まずは何を植えるかかな。 「えー、植えたい野菜とか果物があれば教えてください。栗とかミカンとか、木になる物でも構わないんで」 そう言って周りを見渡せば短刀を中心にほとんどの刀剣に目を逸らされた。 なんだこれ学校の委員長を決める時を思い出すのだが。あれ本当に決まらないよね。私の学級では大抵クジとか投票とかで決まってたよ。 取り敢えず基本のニンジンやらピーマンやらトマトやら、良く使う食材は先に書いておく。 「はいはーい!ぼく、りんごがいいです!」 「良いね林檎。木だから生るまで結構時間かかるだろうけど・・・まぁ育てるのも楽しむという事で」 キュキュッと音を立ててホワイトボードに林檎の文字を追加した。これを皮切りに太郎太刀や長谷部、陸奥守など、仲良くしている刀剣達が意見を出してくれて空いたスペースが次々と埋まっていく。 ただその他はだんまりを決めていてこれではみんなを集めた意味がない。 ・・・仕方ないな。少し強引だけど生贄になってもらう人を探そう。悪く思わないでくれ、これも審神者の仕事だ。 「他の人は?」と刀剣達の顔を見渡せば一斉にあらぬ方向を向かれる。が、めげずに一人一人をじっとり見渡していく。 そして何十秒もした時チャンスは訪れた。いつまでこの状態が続くのかとこちらを気にし始める者達。その中の一人、乱藤四郎と目が合って思わず口角が上がってしまう。相手からしたらニンマリと笑うあくどい笑顔に見えたのだろう、びくりと体を震わせた。 「そこの、えっと・・・乱藤四郎!君の意見は?」 「あ、ボク、ボクは・・・」 うわあああ何これ超怯えられてる。私が悪いの?私が悪いの?むしろ泣きたいのは私の方だよ。 怯えている乱に頭を抱えたくなるのを我慢している私、そして止めようとしたり囃し立てたりする刀剣達。 ・・・カオスである。 [ back ] |