本丸記 | ナノ

落ち着かない雰囲気になってしばらく、あっちを向いてこっちを向いてと視線を彷徨わせていた乱だが耐え切れなくなったのか俯いて小さい声で何かをぽつりと呟いた。

「え、ごめ、もう一回言って・・・?」
「あ、う・・・メ、メロン・・・」
「メロン?いいねいいねー!あれ好きだよ私。まぁ果物全般好きだけどね!」

強張った空気を解すためにおどけた返事を返しながらホワイトボードにメロンを追加する。
うわぁ会話成立したよ短刀と。嬉しいなぁ。
しっかしメロンかぁ、少し変わったところ来たな。いやまぁメジャーなものはほとんど出尽くしたから被らないようにするにはそっちに行かざるを得ないのだけど。

それからも二人、短刀を指名して意見を貰ったけど・・・あれだ、一期一振の雰囲気が凄かった。
最初は心配そうな顔。二人目では「あんまり調子乗るなよ」と少し怒った顔。三人目ではもう刀に手が掛かってた。あれは間違いなく殺る気だった。
あれ・・・私大丈夫だよね?審神者だから殺されたりしないよね?・・・そろそろ自衛のための装備を用意するべきだろうか。
武器ならホラーゲームの定番、聖剣エクスカリバール一択で。一度あれ持って暴れてみたかったんだ・・・っといけない、心の底に沈めたはずの厨二病が顔を出してきたからこの議題はまた今度にしよう。

「うんうん、皆意見出してくれてありがとうね。あとは・・・」

あとは、そう、出ていない果物があと一つ。チラリと盗み見るは左文字末弟の小夜左文字。前に夕食のデザートにと用意していた数ある果物の中から柿だけを選んで持っていこうとしていたから好きなのだと思っていたのだけど。
というか割とメジャーだと思う柿が出なかったのは皆が小夜のために残しておいてくれたからじゃないのか。だとしたら何というチームプレイ。

見た感じちょっとそわそわしてるんだよね・・・。しかし目は合わないし発言する様子もない。
ここはむしろ当ててあげた方が良いのか?その方が良いなら全然当てるけど。いやでもこれでまた心の距離が開いたらやだしなぁ。

「うーん・・・出ないならこれで締め切るよー?畑始めたら基本的に調味料以外の食べ物は買わないよー?」

この言葉に小夜が反応した。困るよねただでさえ木に生るものは時間がかかるんだし。今回を逃したら次はいつ言えるか分からないし。
だから頼むから自分から発言してよぉ・・・。意見言うのって大事だよ。

そう心の中で嘆いていたら小夜の隣に座っていた江雪左文字がスッと手を上げた。おや、と思って学校の先生のように彼を指名すると一拍置いてゆっくり口を開く。

「柿を・・・植えていただきたく」

違う貴方じゃない。
隣で小夜が助かったと感謝の目を江雪に向けている。嗚呼、小夜から意見を貰いたかった・・・何故貴方なんだ。
見つめ合う私と江雪。恨みがましい目を向けている私に彼は純粋な疑問を浮かべていた。中々発言できない弟に助け舟を出しただけなのに何故怒っているのだろうか、と。
小夜を挟んで反対側に座っていた宗三がフッと鼻で笑ったのが視界に移った。

「言いたいことがあるなら言えばよかったではないですか。図太いくせに変なところで遠慮するんですから・・・」
「はぁっ!?・・・くっ、いいや。ここで喧嘩するべきじゃないし」
「つまらないですねぇ」

うおぉぉこいつウザい!何、なんでいちいち私の神経逆撫でてくんの。嫌いなら他の奴等みたいに避ければいいじゃん。一周回って私のこと好きなんじゃないの。いやこっちから願い下げだけども!
言い返したくなるがそうすればヒートアップするのは目に見えているため深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
そうだ、植える物が決まったら土造りの日程を決めないといけない。あとメンバーも。早く決めてしまおう、うん。

「植えるものは決まったから耕して種植える日決めるよ」

視界の端に見えるこちらを馬鹿にする顔を気にしないようにして話を続ける。
結局それもまたごたごたして、決定して解散するまでに一時間くらいかかったのだった。


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